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私立・神楽椿学園探偵部の事件ノート  作者: サトル
3.神楽椿学園帰りに寄り道を
24/71

3-3

 身長は比較的高い方である真琴さんと同じくらいでしょうか。ですが青年の方がすらりとした印象を与えます。……これは真琴さんに対して失礼に当たりますが、足の長さが……神は残酷でいらっしゃいます。

 一重(マブタ)といえば目つきが悪くなりがち。そういった印象を与えやすいもの。

 ですが青年の場合はまつげが長いこともあってか、どこか物憂げでいて……そして清廉(セイレン)とした印象を与えている。

 色が白く、男性ながらに綺麗な肌をしていらっしゃる印象ですが、なぜか茶色く長い前髪がその顔の左半分をすっぽりと覆い隠すように流されている。


 目のあたりに傷でもあるのかもしれませんし、深い詮索はすべきではありませんね。


「彼女はいますか! あ、でもいるとしても公言しちゃったら客激減しそうですもんねえ……やっぱ今の質問なしで、えっと」

「ば、馬鹿やめろ! 雲雀(ヒバリ)を困らせるな!」


 机を叩く音が響き渡り、あたりには水を打ったような静寂が訪れます。

 それも当然の事でしょう。……一同が振り向いた先には、珍しく直情的に怒りを(アラワ)にした――華澄さんの姿があったのですから。



「……ああ、なるほどね。彼氏君の方、どこかで見た制服だと思ったら……華澄と同じ高校の子だね」

「彼氏……俺!? 誰の!?」

「ウチ? だから嫌やって」


 沈黙を破ったのは青年でした。驚いたように華澄さんを見つめたかと思うと、次に私と背中に隠れたままの司君を。そして真琴さん、沙綾さんに微笑みかけると笑みを漏らしたのです。


「俺の名前は伊月(イツキ) 雲雀(ヒバリ)……まあ、色々あってね……この子の保護者みたいなものなんだ」


 雲雀さん、と名乗られた青年は華澄さんに視線を手向けます。

 それはおそらく“そうだよね”という同意のアイコンタクト。ですが、華澄さんは肯定も否定もしないままに。どこかバツが悪そうに目をそらしてしまわれました。


「あ、だからここが仮の拠点という事ですね」

「拠点……?」

「いえ、こちらの話ですわ」


 ふふ、少しだけですが華澄さんの弱い一面を見つけてしまったかもしれませんね。



 入り口に取り付けられたベルが鳴り、あれよこれよという間に数名の女性客がカウンター席を埋めてしまいました。……どうやら、沙綾さんの仰る通り女性に人気なお店であるのは間違いないようです。


「そ……そんな与太話、どうでもいい。話し合いだ」


 客が入れば店主たる雲雀さんが応対に向かうのは至極当然の事。

 “じゃあ、ごゆっくり”なんて優しい声色を残していく雲雀さんの背中を恨めし気に睨んだかと思うと、華澄さんは隅のテーブル席に腰かけてしまったのでした。


 そういえば話し合い、といっても私は議題を何も聞かされておりません。まあ、先日のまま……華澄さんからすると私は可愛げのない存在でしょうから仕方のないことなのかもしれませんが。


「いいか、今後の活動についてだが――」

「なあなあ、まこちから話は聞いとるよ! 君らが探偵部やろ? やっぱりあいつ捕まえるん?」


 華澄さんが発するであろう議題について、私と司君が耳を傾けていると……ふいに沙綾さんが空いていた椅子に腰かけてしまいます。睨みつけている華澄さんに臆する様子もありません。ど、どうにも調子が狂うといいますか……。天真爛漫な方です。


「あいつ?」

「――“世紀末のゾディアック・キラー”や」


 沙綾さんがその名を口にした途端――

 ――ふと、華澄さんの表情が冷たいものへと変わったような気がしました。


「今その話はしたくない」


 意外な反応でした。司君や真琴さんに聞く限りでは、一番に食いついてきそうな方であると想像していたのに。

 なんと、早々に話を切り上げさせようとしたのは他でもない、華澄さんだったのです。


 戸惑ったのは私だけではなかったようです。珍しく司君もその身を乗り出しております。


「それはどういう――」

「――助けて雲雀くんんんんん」


 ですが、彼のさえずるような声は――刹那、誰かの声によってかき消されてしまいました。

 慌てたような若い男性の声? そして遅れてやってきたのはけたたましく鳴り響くベルの音。


「え、なに? ……アレン、どうし」


 カウンター席で和やかなひと時をお過ごしになっていた女性たちもカップを落とさんばかりの勢いで肩を縮ませ、その奥にいらっしゃった雲雀さんも顔を覗かせています。


「ボク殺されるかもしれないデス!」


 雲雀さんに“アレン”と呼ばれた方……扉の前で青ざめた顔をしていた青年はカウンター奥へと駆け込むと、何とも不穏な一言を放ったのでした。


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