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私立・神楽椿学園探偵部の事件ノート  作者: サトル
3.神楽椿学園帰りに寄り道を
23/71

3-2


 ――しばらく歩いたでしょうか、ここは私の家がある阿木(アキ)町とは学校を挟んだ向かい側。

 一つ向こうの大通りに行けばレトロな街並みの残る港町、新王司(オウジ)町という地区でございます。いわゆる“大正浪漫(ロマン)”を感じる和と洋が混ざり合う街並みが残るこの町は観光地としても有名で、休日となると多くの人でにぎわいます。

 その一方で街外れには開拓の手の及びにくい山間部がございます。そちらには未成年で犯罪を犯した者へ更生を促すための施設や刑務所などがあり、陰と陽の対比が得も言われぬ……不思議な街なのです。


 並びに佇む一件の喫茶店の前で立ち止まる。大きな木製の扉には“喫茶 Calme(カルム)”の文字。華澄さんは細い髪の毛を手櫛で整えなおしますと、息をつきます。


 華澄さんが扉をひくと――扉につけられた洋風なベルの音と共に聞き覚えのある男性の声が聞こえました。


「うっげ」


 私が華澄さんの後ろから顔を覗かせます。そこには――

 私たちと同じ制服に身を包んだ大柄な男子生徒、燈村(ヒムラ) 真琴(マコト)さんがこじんまりと座っていらっしゃったのでした。


「……お邪魔でしたか?」


 意地の悪いことに、私は高揚する心を隠しつつもわざと訪ねます。何故かと言うと真琴さんだけではなく……彼の目の前に、初めてお目にかかる可愛らしい女性の姿があったから。

 おしゃれな街並みの喫茶店で、男女が同じひと時を共にするということ――蜜月な関係を想像せざるを得ません。司君も同じことを考えたのではないでしょうか。私の影に隠れていた彼が小さな声で“不潔”と漏らしたことは他の方には黙っておきましょう。


「ち、違う違う! こ……こいつは俺の幼馴染。ほぼ男の幼馴染!」

「失礼なやっちゃ。まあでもそーやな、ウチかて彼氏にするならもっとイケメンがええわ」


 真琴さんは椅子を倒さんばかりの勢いで立ち上がると声を張り上げます。

 私の考えたことを察してしまわれたのでしょうか……?

 まるで壊れたラジオのように“違う違う、ないない”と繰り返す真琴さん。彼を見上げてケラケラと笑っていたかと思うと、立ち上がり私たちの傍へと歩み寄ってきたのでした。


「まこちってばもうこんなカワイコちゃんとお近づきになっとったん? 隅におけまへんなあ」

「絡むな」

「はっは。うちは桑港(ソウコウ)高校に通う氷川 沙綾(サアヤ)や。“さーや”って呼んでや! 可愛いお嬢ちゃんら」


 沙綾さん、と名乗られた女性は豪快に白い歯を見せると手を広げました。

 宝石を散りばめさせたような鮮やかな爪に目を奪われてしまいます。腕を組んだまま口を閉ざした華澄さんの代わりに私が手を差し出すと――サーカスの空中ブランコのように左右上下へと振り回されてしまいました。


「うちの高校な、部活強制で~。仕方なしに楽そ……じゃなくって、面白そうな新聞部に入ってん!」

「そうなんですか」

「ほんでな、うちの調査によると~この喫茶店が若い女子の間でひそかなブームっちことで、人気の秘密を探る為に調査に来たんよ!」

「……よく言うよ。俺の金で茶飲みに来ただけのくせに」


 真琴さんは呆れた様子で沙綾さんの手だけを叩き落としました。刹那、私の右手に自由が訪れます。

 確かにこのお店は――和と洋の文化が絶妙な配分で織り交ぜられた懐かしくも美しいインテリア、観光地の賑わいから隔離されたような静かな空間でございます。足を運びたくなる気持ちも分かる気がしま――


「若い女子に人気があるのか!?」


 ――と、その時。私を押しのけんばかりの勢いで華澄さんが沙綾さんに詰め寄りました。

 私には“慌てている、焦っている”ように見えたのですが……どうやら沙綾さんには伝わらなかった様子。

 “せやで”なんて軽いご返事を返されますと、得意げな面持ちで小さなメモ帳を取り出したのでした。


「メニューは比較的シンプルでどこにでもある喫茶店や。タピオカもパンナコッタもあらへん。それなのにこの人気ぶりたるや! きっとそれは」

「――お待たせしました。カフェラテとアメリカンコーヒーです」


 沙綾さんが報道記者のようにメモ帳を読み上げていると、ふいに珈琲の深く良い香りが鼻を掠めました。……どうやら先にお店にいらっしゃっていた真琴さんと沙綾さんが飲み物を注文していたようです。


「そう! これや、これが人気の理由!」


 往年の名探偵よろしく、沙綾さんは振り返りざまに人差し指を突きつけます。

 その先には、湯気をくゆらせるコーヒーと……それを運んできたと思しき、お盆を手にした一人の青年の姿がありました。


「突然すみません! 桑港高校新聞部のものですが! ズバリ! 店主さんのお名前を教えて頂いてもぉ」

「……俺?」


 ――沙綾さんの声色がワントーンほど明るくなった気がします。女性の声が高くなる時、それは“自分を可愛く見せたい”という好意の表れという見方も出来るとどこかで聞いた事がありますが……それも自然な事と思ってしまいました。


 なぜならその青年が、いわゆる“女性に好まれそうな整った容姿”をしているのですから。



(新聞部メモ)※気が向いたら書く

 ・タピオカはつい最近も流行りましたが最初のブームは1990年代。パンナコッタはその少し経った頃にブームになったらしい。

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