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「――そ、それって携帯電話、ってやつ……?」
皆さまいかがお過ごしでしょうか。
薫風のみぎり、我が神楽椿学園には生徒たちの溌剌たる声に満ち満ちております。
「……司君はお持ちではないのですか?」
「あ、いや。僕は一応持たされているけど……珍しいよね」
放課後の教室――といっても私のではなくて“司君の”。
既に帰られたお隣の席を拝借いたしまして、司君の帰り支度を眺めておりますと……ふと小さな電話機が目に留まりました。
俗にいう携帯電話――
コードに繋がれており、大きくて持ち運びも出来なかった従来の物。いわゆる“固定電話”とは違い、無線式で持ち運びが可能になった小型の電話機。かつてビジネスマンのために開発されたこの文明の利器は、今では私たちのような若年層へと広がりを見せています。
とはいえ、通信料が高額であったりするため、ごく一部の層に限られてはおりますが。
「解せぬ!」
ふとその時。開け放されたままであった教室の扉から女性特有の高い声が響きます。
「何があったんですか?」
――声の主、それは私が所属を決めさせていただいた“探偵部”の部長。
何故かその表情は怒りに満ち満ちている様子。水野 華澄さんはため息を落とすとわが物顔で司君の後ろの席に……いえ、正確には机の上に腰かけてしまったのでした。
「内容精査、生徒会での審議、各部長会の審議、さらに教職員と校長審議……審議審議と何を審議するというのだ! まったく愚かしい!」
怒りの原因はすぐにわかりました。要するに探偵部を部活動として承認してもらうための“創部届”が中々受理されない、ということ。
華澄さんが私を睨みつけてきます。この世に“鬼”というものが存在するのであればこのような顔つきなのでしょうか。
「……教職員、校長審議については多少の申し入れも可能かと思いますが、その前段階については私でも関与いたしかねますわ。生徒会に知り合いもいませんし」
華澄さんは聡明そうな面差しでありながら、考えることが安直と申しますか……凡人たる私でさえ察しがついてしまいます。まるで本心を隠そうとしません。
出来る範囲の事、事実をそのままお伝えいたしますと華澄さんは深いため息を落としていました。
「仕方ない。部活としての承認が下りるまでは仮の拠点にて今後の話し合いだ」
「仮の拠点……ですか?」
「ああ。……のんびりと審議を待つつもりはない」
立ち上がると、華澄さんは私や司君の返事を待たずにどこかへと歩き始めました。
――ああ、タイミングが掴めないままで、すっかり申し遅れました。
今回は私、風見 楓李が記録を勤めさせていただきます。不慣れではございますがどうかご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。




