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私立・神楽椿学園探偵部の事件ノート  作者: サトル
2.神楽椿学園のお嬢様
15/71

2-4


「なんで十円玉二枚で挑戦状になるわけ? 二重に縁が……」

「真琴、お前に考える頭脳は求めていないから黙って聞け」

「ひどい」


 ――江戸川乱歩の作品の中に“二銭銅貨”という作品がある。


「二銭銅貨は名探偵・明智小五郎、少年探偵団シリーズで有名な江戸川乱歩氏の作品の一つ」


 この作品は人が亡くなるようないわゆる推理小説とは少し違う。推理するのは“大金の隠し場所”だ。主人公が置いた当時のタバコ代に相当する“二銭の銅貨”をきっかけに、頭の切れる友人が暗号を解き明かして行くというストーリー。


「わざわざ封筒に二枚の銅貨を封入するという事はつまり……暗号を仕掛けた、という事だ」

「……はあ」


 今現在、一銭という通貨は市場に流通していない。つまり、二枚の十円硬貨を銅貨と見立てているという事なのだろう。

 なんて言っている間に華澄は、遠巻きに見ていた女生徒の元へとびかかり“風見の席はどこだ”などと問いただし始めた。

 聞き出すと同時に、何の躊躇もなく机の中に手を突っ込むと、華澄は机上に並べ始める。

 この人、プライバシーとか一切配慮しないもんな……。僕も気を付けよう。


「引き出しには筆入れと下敷き、定規と……小説が一冊入ってるだけ、だな。……すげえな、教科書持ち帰るタイプか」

「登下校は車の送迎と聞くからな、さほど苦にもならんのだろう。小説か、気になるな……」


 引き出しの中にはほとんどものが入っていなかったらしい。

 並べられた文房具と、小説が一冊。

 背表紙に管理シールの類が見当たらないようだし、どうやらこれは図書室で借りたものではないらしい。

 ……目が大きくて、ピンク色の髪をした女の子が表紙に描かれている。今、こういうの流行っているのかな。それとも楓李さんの趣味なのだろうか……。


「ああこれ“魔法探偵・小日向(コヒナタ)めぐるの事件(タン)”……一昨年に実写映画化された作品だよ。この可愛い絵柄のわりに“モールス信号”で敵を出し抜く、スパイ映画みたいな謎解き要素とアクションで話題になった作品――」


 真琴が突然早口でしゃべりだしたのでちょっと引いてしまった。だって、表紙のイラストが女性向け……いやむしろ子供向けと言っても差し支えなさそうなほどかわいらしいものだったから。強面な真琴と結びつかなさ過ぎたんだ。

 引いてしまった、という正直な感想が本人にも伝わってしまったらしい。慌てたように咳ばらいをすると、真琴は語気を強めた。


「そんなキモオタを見る目で見ないでくれる? 俺が見たのはこの作品の悪役が女優の高良(コウラ) (ケイ)だったから! “二十世紀の奇跡”と謳われる絶世の美女にして圧倒的な演技力の」

「真琴、うるさい」

「扱い!」


 ……ああ、なるほど。そういえば少し前に引退してしまった女優さんでそんな名前の人がいたような……。

 なんて頷いていたら、華澄が鋭い目つきで真琴を睨みつけた。

 そして流れで僕まで睨まれてしまった……僕は何もしていないのに。


 まあ真琴の趣味の事は置いておくとして。

 恐らく暗号を差し向けられている……そこまでは推察できた華澄だけど、その表情は険しい。

 肝心の暗号文が見つかっていないんだから、これではどんな名探偵だって打つ手なしだ。

 二十円の銅貨が入っていた封筒には、結語の抜けた手紙以外封入されていなかったし、二十円は一般に流通しているもの。刻印も平成で発行年にも共通点はなく、変わったところも何もない。


 とすれば、やっぱり結語の抜けた手紙に意味が……?

 手紙とにらめっこ状態になっている華澄を僕と真琴も眺めている。ふと、その時僕の肩を誰かが叩いた。


「あ、あの……」


 心臓が口から飛び出すかと思った。というか多分飛び出した。

 激しく脈打つ鼓動は収まる気配も見えないけど、とにかく振り向いてみる。

 するとそこには先ほど手紙を渡してくれた女生徒の姿。


「何か困っているなら、職員室に行けば少しは事情も分かるんじゃないかなって思って……そのお手紙、確か春宮先生が持ってた便せんだと思うし」


 ああ……。クラスメートの机を取り囲んで深刻そうな顔をしている知らない人がいたら、普通は“困っている”って思うよね。

 様子がおかしい華澄の事が気にはなっているみたいだけど、僕や真琴には協力してくれる……って意思表示だったんだろう。

 頑張ってお礼を言おうと僕が口を開くよりも先に華澄は女生徒の両肩をつかんでいた。


「女、良い証言だ。ところで部活動はもう決まって」

「馬鹿行くぞ」


 華澄の勢い、僕はもう慣れたけど普通は大体怯えるよね。わかる。

 真琴が止めてくれたおかげで、女生徒のトラウマも最小限で済みそうだ。


「あの……色々気にかけてくれて、ありがとう。後の事は気にしないで……遅くならないうちに帰ってね」

「う、うん」


 お礼も言わずに飛び出してしまった二人の代わりに僕は深々と頭を下げる。

 顔を上げると、少し安心した様子の女生徒の頬が微かに赤くなっていた気がした。僕、また変な顔してたのかな……。


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