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――私は人間が好き。
「だ……誰か……助けて――」
人は弱い生き物、だから好き。
弱さを認める事すらできないほどに弱い。
だから人は“誰かを守る”とか“あの人の為に”なんて言葉で自らを守る衣服を生み出した。
「どうして、どうして……私、何も悪いことなんてしていない!」
――私もそんな“弱い人間”の一人なのだろう。私の行動原理はいつだって“誰かの為に”って想いが全て。たとえそれが一期一会の縁であっても、私は関わる全ての人に笑っていてほしいと願っている。
「ひっ……」
――女性の首は私の小さな手の平でもつかみやすくて助かる。
本当はもっと苦しまないやり方が、この女性にとっての幸福だったはずだけど……。
「悪いことをしていない。そうですね……私もそう思います」
「……」
綺麗だった女性の顔が苦悶にゆがむ。瞳が上下に大きく揺れ、だらしなく開いた口からは酸っぱい匂いと泡が垂れている。……ああ、苦しんでいる顔だ。この方は今、生きてきた中で一番の恐怖と苦痛、恥辱を味わっているんだ。
申し訳ないことをしたな。
「――だけど、貴方の苦しみが“あの人の幸福”であるのです。許してください」
謝罪の言葉も、免罪符にすらならない言い訳も……私が人間である証拠。
この人には申し訳ないことをしたけど、これで彼が笑ってくれることもまた事実なんだ。だから頑張れるんだ。
――さあ、仕事も終わったしコーヒーでも飲んで帰ろう。