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私、ネクロマンサーになります

「はぁ、いくら小さいと言っても魔術師の家なんだからいいもんあると思ったのになぁ」


華奢な体躯から発せられる綺麗な高音は、今この血生臭い現状とは程遠いものだった。

少女の手に握られたナイフには血がべっとりと付着していて、床にはローブを深く被った男が倒れており、ピクリとも動いていない。


「お、これは良い値がつきそう」


少女の目線の先にあるのは、端が擦り切れている一冊の重厚な本。表には何も書いてなく、どこか血を思わせるくすんだ黒一色だった。


「え〜と、死霊術大全? 魔術本か、こういうのはじじいに見せないとわからんからなぁ」


本を手に取り、パラパラと中身をざっと眺めている顔は歪んでおり、理解できているようには見えなかった。


「わからん! 魔術は小難しい話が多いんだよ! ぁあ!」


理解できない内容が続いたからだろうか、苛立った少女は本を上に掲げてそっぽを向く。

すると、掲げられた本に書かれていた魔法陣から淡い光が漏れ出し、今まで全く動かなかったローブの男が、ゆったりとした動作で立ち上がる。


少女は急いで距離をとるが、男は立った後、頭を下げ、その場から動かないでいた。


「ゾンビか? クソッ、まだ内臓抜いてねーのに」


そんな悪態をつきながら少女はナイフを構え、油断なく目の前の標的から目を逸らさないでいた。

そのまま、どれぐらいの時間が経過しただろうか。全く動かない状況に訝しんだ少女は一歩、歩みを進める。

そうしてまた一歩、一歩と近づけど、ゾンビは何の反応も示さない。


ついに少女はゾンビの真横までたどり着くと、容赦無くナイフを首に振り下ろす。あっさりと首は地面に落ち、追従するように胴体も床に倒れこむ。


「何だったんだ......」



時は進んで、スラム街の外れの外れ。


「おい、じじい! いるか? 見て欲しい本があるんだ!」


今にも壊れそうなボロい建物の扉を開けると、少女は中に向かってそう叫んだ。


「うるさいのぉ。そんな大声ださなくとも、聞こえとるわい」


「じじい、これ魔術本っぽいから大まかな価値教えてくれ」


少女はカバンの中から本を取り出すと、目の前の老人に向かって言った。そして、そのまま反対側を向くと、


「私は”こっち”売っ払ってくるから。鮮度が大事ってな」


少女は軽い足取りで駆け出して行き、その場に取り残された老人は難しい顔で渡された本を眺めている。そして本を抱えると老人は奥へと消えていった。



少し経って少女が戻ってくると、老人は奥の部屋で本を睨みつけていた。


「で、どうだった? 金になりそうか?」


少女がそう声をかけると老人は顔を上ると、首を振って


「わからん、これはわしには読めん」


「はぁ? 何言ってんだよ。これぐらい私でも読めるぞ」


少女の言葉を聞いた老人の顔は驚きに歪み、身を乗り出してくる。


「お前......これが、読めるのか?」


「何言ってんだよ。私に文字を教えたのはじじいだろ」


少女は「ちょっと貸してみろ」といって机の上にあった本をとると、適当なページを開き、


「例えば......ここ、ここには......魂? の循環と......干渉? について書いてあるぞ」


少女がページを指差しながら言うと、老人は顎が外れんばかりに口を大きく開け、しばらく固まった後、


「この本はな、呪われていんじゃよ。わしでは無理だった。読めるなら適性があるんじゃろ。お前さんが読んどきな」


「でも、私には魔術の適性が無いはずだ。あったらこんなことしてねーよ」


「本がお前さんを選んだんじゃよ、それに間違いなんてない。どっちにしろ呪いの品だ、どうせ高値では売れない。お前さんは本に選ばれたんじゃ、これは導きじゃ、運命じゃ」


少女は一際長いため息を吐いた後、


「じじい、私が運命なんて信じてないのを知ってるだろ。でも、今回のでまあまあ金が入った、暇なときにでも読んでみるよ」


「そうするとええ。疑問があったら聞きにくるといい。本は読めないといえ、魔術のことは答えられる」


「わかったよ。なんかあれば聞きにくる」


そういって本を持って去っていった少女の足取りは、先ほどより幾分か重くなっていた。


少女が自分の住処に帰った頃には日はすっかり落ちていて、あたりは暗闇と静寂に包まれていた。布を敷いただけの簡易的なベッドに入った少女は目を瞑り、そのまま眠りに落ちていった。


次の朝、少女は目が冷めると早速昨日の本を読み始めた。

魔術など小難しいことが嫌いな少女ではあったが、恩師であり、育ててもらった老人へは一定以上の信頼を置いている。そして、少女は老人がいらない嘘を言わないことを知っていたし、わざと茶化して伝えられた時、その目には確かな光があったことを少女は見ていた。


そんなわけで真面目に読んでいた少女であったが時間が経つにつれ、その顔には理解と疑問が浮かんでくる。

内容を大まかに言ってしまえば、死体や魂を使って冥府の力を使う魔術の指南本だ。それだけであるが、内容はどう見積もっても禁術の類いであり、違法であった。


が、少女にとってはそんなものどうでもよく、また、本を読むという新鮮な感覚を楽しんでいたので止まることはなかった。


そして一週間がたった。

少女はその間に何回も老人の下を訪れ、知識を増やしていき、今ではある程度魔術を使えるようになっていた。

本来ありえない速さで魔術を覚えた少女は老人が言っていた”運命”という言葉は意外と的を得ていたのかもしれないと思っていた。

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