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しんどい興信所の超常探偵  作者: 赤羽道夫
すごい霊媒師をさがして
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幽霊物件をさがして(原田の場合)

 原田翔太、通称ハラショー(23)は、店先に張ってある賃貸物件のチラシに思わず目を留めてしまう。間取り図と、駅から◯分、家賃◯◯万円の文字……。

(いい物件があるなぁ……)

 などとつい見入ってしまっていたが、いかんいかん、と気を戻し、不動産屋のドアを開いた。

 そこは、テレビコマーシャルも打っている大手のチェーン店であった。明るく広い店内に入ると、カウンターの向こうに並ぶそろいの制服ユニホームを来た女性従業員が、「いらっしゃいませ」と声をそろえて原田を出迎える。

 店内にほかに客はおらず、注目された原田は緊張しつつ、言った。

「すみません、あの……幽霊の出る部屋って、取り扱ったことがありますか?」

 単刀直入な発言に、店内の空気が凍りついた。

 しばしの沈黙……。

「あれ……? やっぱないっすか?」

 さすがに気まずい空気を感じて回れ右しようとした。

「あの……お客様」

 が、一番近いところにいた若い店員が声をかけてきた。

「格安の物件をお探しなんでしょうか?」

 訳ありの物件は家賃が相場より相当安い。幽霊、というのは事故物件のことだろうと、とっさに判断したようだった。

「あるんですか!」

 原田は笑顔明るく振り向いた。カウンターに駆け寄って身を乗り出す。女性従業員はその勢いに気圧されて、けれども職務を遂行すべく冷静に対応する。

「いえ……幽霊が出るわけではないのですが……」

 パソコンのキーボードを操作する。

「過去に殺人事件とか起きた部屋とかだと、幽霊が出るって聞いたんですが」

「ええっと……」

 原田のストレートな物言いにややたじろぎながらも、彼女は真面目に接客を務めようとする。商売柄、困った客に振り回されることもあるのだろう。営業スマイルを浮かべて乗り切ろうとする。

「そういう部屋をお探しなんですか?」

「いや、僕は探偵でしてね。実は──」

「探偵さん! 本物の?」

 突然、女子店員は目を輝かせた。

「なにか事件を調べてらっしゃるんですか? だから殺人事件のあった物件をお探しだったんですね」

 なんのスイッチが入ったのか、テンションがはね上がる女子店員に、原田は戸惑う。

「いや、殺人事件じゃなくて、幽霊を──」

「わたし、ミステリー小説が大好きなんです。東野圭吾さんや島田荘司さんや綾辻行人さんや宮部みゆきさんとかの本格推理小説をよく読むんですよ!」

 マシンガンのようにしゃべる店員。

「誰にも言いませんから、探偵さんのお仕事、聞かせてくれませんか? どんな事件を担当されているんですか?」

 今度は原田が気圧される。

「え? ああ、まぁ……、だから、その、幽霊をお祓いした霊媒師を探しているんですよ。そういうの、知りませんか?」

「え……? 霊媒師……? それは……ちょっと……」

 期待していた答えと違って、女子店員の興奮が急速に冷めていく。

「事件の犯人を捜査しているんでなくて……?」

「いやぁ、実は僕も探偵になるまで、そんな仕事なのかな、なんて思ってたんですけど、現実は違いましたね……。ま、よく考えてみたら、それは警察がやることでしたね」

 ははは、と原田は後頭部を右手でなでると、乾いた笑いを振りまいた。

「でもでも、実際に探偵さんが捜査に協力したって話、聞いたことあるんですよ。さすがにそう多くはないでしょうけど……」

 しかしミステリー好きの店員はしぶとく食い下がる。

「少ない手がかりから捜し物を見つけたりするんじゃないんですか? 手紙の文面だけで、いたずらの犯人を見つけたりとか」

「いや、そんなシャーロック・ホームズみたいなことは……あれはフィクションですね。浮気調査なんかは、地道に尾行して現場を押さえて証拠写真を撮るってのが、ほとんどですよ」

 先野光介との仕事を思い返し、推理なんて入る余地がないのを確認する。あるのは観察と裏付け。リアルの世の中そうそう謎が転がっていたりはしない。

「そうなんですか……」

 残念そうな女子店員。

「あの……霊媒師の知り合いを紹介してもらえないなら、他の不動産屋を当たらないといけないんで、僕はこれで失礼します」

「ちょっと待ってください」

「まだなにか?」

「よかったら、名刺もらえませんか? もし、そんな物件が見つかりましたら連絡しますから!」

「ああ……、いいですよ」

 原田は女子店員と名刺を交換する。

「これが探偵さんの名刺ですかぁ……」

「じゃあ、僕はこれで」

「あっ、がんばってくださいね!」

 犬の尻尾のように激しく手を振る女子店員に見送られてハラショーは店を出ると大きく息をつく。

 こんなやりとりをあと何回すれば、依頼者の望む「ちゃんとした霊媒師」に出会えるのだろうと、原田はのっけからゴールが遠く感じるのだった。

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