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しんどい興信所の超常探偵  作者: 赤羽道夫
誰にも言えない秘密の隠し子?
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彼女を正体をさぐれ

 十五分程度追跡しただろうか。自転車なので、もうかなりの距離になるはずだ。もっと近いかと先野は予想していたのだがまだ到着しない。

(いったいどこまで行くんだ……?)

 呆れていると、女はやっと一軒の家の前で自転車を降りると、さっとなかへ入っていった。

 先野は、その家の近くで観察する。

 古びた家だった。ツタがからまっていて、月明かりに濡れたように葉が光っていた。なんとも怪しげで、この家の住人のセンスを思う。

(しかし、こんな目立つ住居なら、夜が明けてから来ても、どこだったかと迷うこともなさそうだ)

 とりあえず表札だけでも確かめておこうとして、玄関付近を探していると、

「そこでなにをしてるんですか?」

 声をかけられた。振り返ると、制服姿の警察官が二人、自転車にまたがっていた。深夜のパトロールをしている最中のようである。

「お勤め、ご苦労さまです」

 先野は答えた。職務質問には馴れていた。

 そこへ軽のワゴン車がやってきた。

「おや、どうしました、先輩」

 運転席から先野と同じ作業服の原田が顔を出してのんきそうな声で言った。

(いいタイミングだぜ……)

 先野は小さくつぶやいた。



 自宅さえ突き止められれば、もう仕事も半分終わったようなものであった。あとはそこを張り込んで住人の動向を見ていれば、その正体はおのずと明らかになる。

 鼻息荒く成果を報告した先野に代わって、今朝から三条愛美がその家を見張っていた。

「天川」という表札のかかったツタのからまるもじゃハウスには駐車スペースはなく、クルマは所有していないようだと踏んで、社用車には三条ひとりだけが乗っていた。午後から先野が合流する予定であったが、その前に調査が終了するかもしれないな──なんとなくそんな気がした。

 近所には庭の広い家が多いせいか、生えている木も多く、早朝からセミの大合唱が騒音のように耳に響く。

 八時を少し回ったとき、もじゃハウスからだれかが出てきた。先野の見たという背丈や髪型の特徴から昨晩の女に違いないかと思えたが……服装が驚きだった。

 学生鞄を下げたセーラー服だったのだ。

 深夜に公園で「密会」していたというから、てっきり大人の女だと三条は想像していた。先野も同様に思っていただろう。

 よもや高校生とは……いや、まさか、中学生とか?

 ともかく、徒歩で出てきたので、三条もクルマを降りて追跡を開始する。

 最寄り駅に向かう通勤族の人の流れとは違う方角へ歩いていく。三十メートルほどの距離を置いて尾行する。夏の陽はすでに高く、遠慮のない日差しが降り注ぎ、白いセーラー服が目にまぶしい。

 歩き続けていると、周囲には、同じセーラー服を着た少女や、学生服姿の少年たちが増えてきた。どうやら学校が近いらしい。

 もじゃハウスを出て二十分──。ゴールに到着したようだ。

「市立藤ノ花東中学校」と、校門横にプレートが掲げてあった。

(となると、中学生……)

 とりあえず正体はわかった。

 ただし、特徴の似た別人、という可能性もあるため、三条はもじゃハウスに戻ることにした。



 そうか……とだけつぶやくと、先野光介はしばし黙り込んだ。午後、張り込み交代の時刻にやってきて、三条の報告を聞きおえたところだった。

 時間貸しの駐車場に停めたクルマのなかはエアコンがよくきいていた。ちょうど隣のビルの日陰になって、顔の日焼けを気にせずにすむ。

 スマートフォンに転送されたターゲットの写真は、玄関を出てくるところを捉えたもので、タイミングよく撮れていた。昨夜先野が暗がりで撮影した赤外線写真よりははるかに鮮明だ。警察ではないから監視カメラの映像を手に入れることはできず、この写真は貴重だった。

「あとは名前だよな……」

 近くの公立中学校の生徒だということはわかったが、それ以上はなにもわからなかった。中学校の校門に入っていくのを見届けた後、三条は近くの手作りパン屋に入り、もじゃハウスについて尋ねてみたのだが、収穫はなかった。それどころか、あそこは空き家だというのだ。テレビ番組制作会社の者で街ロケの取材をしているということにして、三条はイートイン・コーナーで朝食をとっている客に、この辺りのネタを集めているといって聞き込みをしたが、口を揃えて空き家だという。

 となると、どうやら最近になって住み始めたらしい。が、近所に挨拶まわりもしていないようだ。家族構成もわからない。天川、という表札しかわからない。直接、呼び鈴を押してみたが、だれも出てこなかった。

 メモをしていた分厚いシステム手帳をパタンと閉じ、わかった、と先野、

「今日のところは、あとはおれが引き継ぐよ」

「どう思いますか?」

 ここまでの情報で、どんな可能性が考えられるか、三条は訊いてきた。

 そうだな……と先野は顎をなでる。

「おれは、父親のTYが愛人の女に産ませた隠し子じゃないかと……」

「また、大胆な推理ですね~」

 三条は呆れ顔を返す。

「直接父親に聞いたのかどうかはわからんが、山丸剛毅は腹違いの妹の存在を知った。で、いっしょに暮らすわけにはいかないから、ときどき人目を忍んで会っている、というわけだ。隠し子の存在は事務所も知らない」

「ただのガールフレンドというセンはないですか?」

「もちろん、それが一番現実的だろうさ。でも相手が子供なら、そんなドラマチックな関係があってもいいだろ。大人の女なら、芸能事務所としても黙ってはいられないだろうが、中学生なら盛り場で飲酒していたりもないだろう」

 結局、プロダクションとしては、そういうことを心配しているのだ。その意味でいうなら、なんの問題もなさそうだった。

「ここまでくればこそこそせずに、下校した本人に直接聞くさ。ま、それまでの間は、隠し子かどうか、過去のTYを洗ってみるよ。三条さんは事務所に帰ってもいいぜ。他の依頼案件も抱えているんだろ?」

 三条は優秀な探偵だった。先野と違って常時複数の依頼を受け持っていて、しかもしっかりこなしていた。社内の査定はおそらくトップクラスで、無論公言はしないがボーナスもかなりの金額だろう。

「いえ、わたしも残ります。っていうか、先野さんが女子中学生に声をかけたら、逃げられるか通報されるか、どっちかですよ」

「暗におれの顔が犯罪者みたいだと言ってるようなもんだぞ」

 先野は苦笑する。自覚はあった。

「──たしかに話を聞くどころじゃないかもしれんな。こういうのは、若い女性のほうが警戒されず、なにかと有利かもな……。じゃあ、まかせる。おれは、隠し子の可能性を探ってみるか」

「なにかツテでもあるんですか?」

「ん? まぁな……」

 ほくそ笑む先野だったが、気持ち悪い顔になった。

 ドアを開け、車外へ出ようとして振り返る。

「ネットで仕事をするのもいいが、適当に休憩しろよ。働きすぎはよくないぜ」

「先野さんこそね」

 タブレット端末を取り出して、三条は答えた。

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