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しんどい興信所の超常探偵  作者: 赤羽道夫
誰にも言えない秘密の隠し子?
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高級住宅地で

 普段の張り込みでは一人ずつで交代するのだが、ターゲットがクルマか徒歩かどちらで移動するかわからない場合、対応するため二人体制で臨む。電気工事会社に擬装していれば、長時間いても怪しまれない。

「まさか有名人の自宅を張り込むことになるなんて、さすが探偵社ですよね……」

 原田は感慨深げにつぶやく。

「ま、たまにはそんな仕事も舞い込むさ。表沙汰にしたくないだろうしな」

 今回の依頼がまさにそれだ。

「なんかスキャンダルを追う芸能記者みたいですよね。ぼくたちの他にもだれか張り込んでいたりして……」

「可能性はあるな」

 そう答え、しかしもしそんな存在があったら厄介だな──などと先野は思い至る。デビュー前の無名の若者とはいえ、大物俳優TYの息子となれば、世間の耳目を集める。女の存在が確認されれば、あることないこと好き勝手に週刊誌に書き立てられてしまう。所属事務所としては、そんな痛手を被る前に真相を把握しておきたい、というわけなのだろう。興信所としても、スキャンダルを先んじてすっぱ抜かれでもしたら、それこそ仕事の成否に関わってくる。じゅうぶんに注意しなければならないのは当然のことながら、もし芸能記者が嗅ぎまわっていたなら、そちらへの対処も考えなくてはならなくなるだろう。頭の痛い話だな、と先野はTY自宅周辺にも視線を走らせる。それらしい存在は見つけられなかったが、芸能記者かれらもプロだ、簡単に見つかるようなヘマはすまい。

 夏の日暮れは遅い。午後七時半になってようやく夜になった。陽が沈んでも暑さは残り、エアコンは懸命に稼動したままだ。

 人通りのない道路にときおりクルマが走り去る。この地区の住民は徒歩や自転車で外出するなど、ありえないのだろう。

 今夜遅くまで張り込んだとしても、成果はないだろうな、と先野は予想する。なにせターゲットは未成年だし、これから売り出す予定の金のタマゴだ。事務所からうるさく言われているのに、あえて夜中に外出する危険を冒すとは考えにくい。

 11時をすぎた。しかし気温は下がらず今夜も熱帯夜だ。月がぼんやりと頭上に輝く。

 そして──。

 結局、交代要員の三条が現れる朝までなにも起きなかった。



 張り込みを続けるものの、毎日、自宅とレッスンスタジオとの往復で、特にこれといって変化はなかった。山丸剛毅はいたって真面目に、それこそストイックなほど努力していて、仲間と遊び歩くこともなかった。

 依頼者のマネージャの話だと、頻繁に逢い引きをしているような印象を受けるのだが……。

 なにも進展がないまま三日がすぎて、四日目の夜がやってきた。先野、三条、原田のローテーションで張り込みを続け、その日先野は原田と張り込みをしていた。

 深夜十一時──。

 クルマのなかで話すこともなくなり、カーラジオの音が小さく鳴って眠気が忍び寄ってきた。先野が目をこすったとき、屋敷の玄関ドアが開いて人影が現れた。シルエットから、山丸剛毅に違いなかった。

「自転車か──」

 先野はワゴン車の後部に移動する。タイヤの小さいミニベロがスタンバイされていた。

「おれが行く」

 またしても原田を残し、スライドドアをあけて、車内に積んでいた自転車ごと路上に出る。担当として任された以上、できるだけ自分が動く──先野のモットーであった。

 ライトを点けて去っていく山丸剛毅の自転車を追いかけた。

 ワゴン車でも尾行できたが、ヘッドライトも明るく自転車のスピードに合わせて尾行つけていったのではいくらなんでも不審がられる。

 ライトも点けず、先野は注意深く追跡する。

(こんな夜中にどこへ行くつもりだ?)

 内心首をかしげる。

 近頃は物騒になってきた。事故や事件に巻き込まれたらなにかと不都合だし、それでもなお、こんな時刻に出かけるということは、よほどの理由があるのだろう。

 尾行を気づかれないよう、距離をとりつつ慎重に自転車を走らせた。道路は多少のアップダウンをしながら続いている。

 ほんの十分ほどで、山丸剛毅の自転車は児童公園へと入っていった。

 先野はその前を通過する。その際、チラリと公園内に視線を送り、山丸剛毅がいるのを月明かりに確認した。

 さほど広い公園ではない。せいぜい幼稚園の運動場ぐらいだ。先野はブレーキ音が鳴らないよう静かに自転車を止めて降りると、通り過ぎた公園へと戻った。

(こんなところでなにをしているのだ……?)

 そう思いつつ、ツツジの植え込みに隠れるよう姿勢を低くして近づく。こんなところをパトロール中の警察官に見つかったら、間違いなく職務質問を食らい、たちまち尾行がバレてしまう。そうならないことを祈りつつ、調査対象を観察する。

 と──。

(おや、山丸剛毅以外にだれかいるぞ!)

 先野は注意深く観察する。距離がありすぎて細部はわからないが、会っているのは女性のようだ。

(やっと見つけられたぜ! あれが、依頼者のマネージャが懸念を示していた女だな)

 会話は聞こえない。しかし現場を押さえられたのは大きな収穫だ。これを手がかりに調査を進められそうだった。

 身長は150センチほど。髪はショートだ。ノースリーブにホットパンツ。

 しばらく観察しているが、二人は向き合ったままで動かない。会話をしているような仕草もなく、まるでマネキン人形のように微動だにしないのだ。

 先野は不審に感じながらも、赤外線カメラを向けて何枚か撮影する。望遠で、しかもカラー画像ではないから、鮮明な写真にはならないが、ないよりはマシである。

(しかしこいつは……)

 二人の奇異な密会を訝っているうちに、一時間ほどたってしまった。街灯の届かないベンチでいちゃついているのなら一時間など平気でいるだろうが、彫像のように動かないままでいるのはどうにも腑に落ちない。深夜の公園の植え込み隠れてカップルの情事を覗き見ているスケベオヤジも、これでは少しも面白くないだろう。

 と、突然、二人は目覚めたかのように動きだした。女はなにか小さな物を受け取り、去っていく。公園の奥の出入り口から出ていった。まったくもって逢い引きにしては妙であった。

 それはともかく、女を見失うわけにはいかない。先野は自転車にまたがり、公園を突っ切って、女の出て行った出口に向かう。山丸剛毅に見つかってしまうが、気にしてはいられない。

 数秒で公園を横断し、女を追って道路に出た。

 数十メートル先を女の乗る自転車が遠ざかっていくのが見えた。先野は目を血走らせて追いかける。このまま自宅に帰るつもりなら好都合だ。明日からそこを張り込んでいれば、おのずと正体が明らかになる。

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