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しんどい興信所の超常探偵  作者: 赤羽道夫
誰にも言えない秘密の隠し子?
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ヤクザかと思えば

大御所俳優TYのひとり息子は高校を卒業して芸能界入りを決意する。デビューに向けて日々厳しいレッスンを仲間とともに受けているが、その間に女と密会しているらしいと芸能事務所のマネージャが気づいた。


へんな女とつきあって傷物にされては困るとばかり、マネージャはその女の正体を突き止めるよう、探偵に依頼する。


探偵事務所の先野光介と三条愛美の二人は早速、タレントのタマゴであるその若者に張り付いて、女との密会現場を押さえようとする。


先野はその正体を予想して接近するが……。

 ひと目見て、普通の職業の男ではない、とわかった。

 なにをもって「普通」と定義するかは難しいところであるが、とにかく、まとっている雰囲気が違うのである。笑顔をたたえたその奥で真逆のことを考えているような油断のならない目つきをしており、気安く信用すれば痛い目に遭いそうな予感がした。

(こいつはヤクザだな)

 先野光介さきのこうすけはそう見立てた。ヤクザが身分を隠して探偵になにかを依頼をするのは決して珍しいことではない。暴力団対策法によって身動きがとりにくくなっているヤクザにとって、今はどんな手を使ってでも生き残っていかなくてはならない時代だ。

 ただ、興信所としては、ヤクザの片棒を担いだとなれば、明るみに出たときになにかと今後の業務に支障がでるため、易々と依頼を受けるわけにはいかない。違法行為だとつるし上げられたらたまったものではないのだ。それこそ社の存続に関わる。

 先野は警戒した。

 が──。

 実は……と話を切り出したその男は、

「私は某芸能事務所でマネージャをしている者なんですが、実は、某大物俳優の息子で、某所に住むアイドルとして売り出す前の歌手が、最近、どうやら女と付き合っているようなんです」

 ヤクザではなかった。とはいえ、似たようなものかもしれなかった。一見華やかではあるが、その実、栄枯盛衰の激しい業界に集まる有象無象が、互いの腹のうちを読みあいながら牽制し、戦いに敗れれば情け容赦なく消え去る修羅の世界……というイメージが、先野の頭に思い浮かんだ。

「某なにがしってのが多いですけど、それでは調査になりませんわ」

 澄まし顔でそう言ったのは、先野の横に座る三条愛美さんじょうまなみである。

 興信所「新・土井エージェント」の面談コーナー。日々、悩める者たちの相談を受けているパーテーションで区切られた一画……。先野と三条はそこに所属する探偵であった。今日も依頼者との対面で話を聞いていた。そして今回の依頼者であるその男は、ある人物の身元調査を依頼してきた、というわけだった。

「すみません、つい……この業界、敵が多いものですから」

 テーブルをはさんだ向かい側に座る、マネージャだと名乗った三十代といった外見の依頼者は、細い眼鏡を外し、ハンカチでオールバックの額の汗をぬぐう。「敵」というのは、ライバル他社や週刊誌の芸能記者、芸能レポーターやフリーカメラマンといったところだろうか。調子がよいと見るや、足をつかんで引きずり下ろそうするから、油断も隙もないのであろう。

 絶対に口外無用でお願いしますよ、と依頼者はしつこく何度も念を押した。

 依頼者のマネージャが所属する大手タレント事務所は、日本国民ならだれもが知る大御所俳優のTY……の息子で十九歳の山丸剛毅やまるごうき(もちろん芸名)を、四人組のアイドルグループJETSplus(ジェッツプラス)(仮名)の一員として売り出そうとしていた。

 ところが、歌やダンスのレッスンの合間にある女と会っているようなのだ。芸能界ではスキャンダルは致命傷になりかねない。本人に問いただしても、はぐらかすばかりでまともに答えない。そこで、その女が何者なのかを調べてもらい、毒のない人物かどうかを見極めたい、というのである。

「ただの一般女性ならまだいいですよ。ですが、素行の悪い女だと、タレントのイメージが悪くなってしまいますからね」

 大物俳優TYの息子、となると世間の関心も高い。せっかくの金の卵を台無しにしたくないというわけだった。芽が出る前に腐らせてしまっては元も子もない。

「本来でしたら、我々でなんとか調べたいところなんですが、日常の業務もありますし……」

「みなさんお忙しいですからねぇ。ま、そのための探偵です」

 分厚いシステム手帳をパタンと閉じ、安心してもらえるよう先野は力強く言った。

「──わかりました。しっかり調査させていただきます」



 依頼者である芸能事務所のマネージャからは、できるだけ山丸剛毅のスケジュールについての情報を提供してもらった。歌やダンスのレッスンの時間以外に本人を尾行するためだ。密会の現場を押さえたのち、ターゲットの女を追跡する、という段取りになる。

「レッスンのスケジュールの合間をぬっての調査だからな。よく見て分担を検討するとしよう」

 事務所の隅の会議テーブルで、先野はプリントアウトされたスケジュール表を広げる。依頼者が帰ったあと、三条と調査方法についての打ち合わせをするところであった。

「まだデビュー前だというのに、レッスンがびっちりですねぇ……」

 三条はあきれ顔でスケジュール表を一枚取り上げると、上から下まで目を通す。

「そりゃそうだろう、みっちり稽古を積んで、プロのレベルまでひき上げていかないといけないからな。TYの息子だけあって素材はいいわけだから、きっといいものになると事務所も踏んでの先行投資だろう」

「どこのだれとも知らない人を育てるのと違って話題性はありますものね」

「だからこそ、へんな虫がついてちゃ困るってわけなんだな。芸能事務所もたいへんだ」

 調査期間は無期限──。結果がわかるまで調査を続ける。カネに糸目はつけない、というものであった。さすがに大金を動かしている依頼主は違う。しみったれたことなど言わない。

「あのマネージャさんも、テレビ局なんかに出入りして、いろんな立場の人と仕事の打ち合わせをしたり調整したりするわけですから、さぞかし苦労が多いでしょうね。先野さんの服装にまったく動じなかった人って、初めて見ましたよ」

「そうかい?」

 先野は事務所ではいつも白のスーツの上下と決めていた。たまに依頼者の元に出向くときもその格好だ。初対面の依頼者の目がこころなしか泳ぐのを、三条はいつも目にしていた。なんでその服装なのかと、事務所のだれも質問したりしないので謎のままなのだが、だれも触れないでいたし、先野本人も語らなかった。

「これはおれの仕事への姿勢なのさ」

 先野は上着の襟をつまんでそう言ったが、もちろんなにを言っているのか三条には理解できない。理解できないが、あえてそれ以上は話題にしなかった。ここは触れないほうがよい、という判断だった。


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