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しんどい興信所の超常探偵  作者: 赤羽道夫
花嫁の夢を見ていた
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残酷な総括

 報告書を受け取った宗中総一は、信じられないという顔を浮かべて絶句すると、大きなため息をついて、そうだよな、とつぶやいた。自分でも思うところがあるらしい。

「おれみたいな年寄りが、あんな若い娘に惚れられるわけがなかったんだ……」

 正しい見方だろう、と先野光介は思った。残酷なようであるが、それが普通の感覚だ。幻を見ていたのだ、若い花嫁の幻を──。

「これからどうされますか?」

 先野に問われて宗中ははっと顔を上げる。

 離婚は、その原因が社会通念上よろしくないほうが慰謝料を払わなければならないし、財産分与にしても相手側が不利益にならないよう配慮しなければならない。本来なら離婚を切り出した宗中総一が相手に多く支払うが、今回、罠にはめられてしまったわけであるから、弁護士をたてて争うことも可能だろう。

「いや、それは……」

 だが宗中はその話に飛びつかない。裁判になっても、得られるものはお金だけ、となれば虚しい。

 弓野を追いかけたところで宗中に愛情などなく相手にされるまいし、元妻に対しても浮気の可能性のある男ともう一度所帯を築こうなどとは思わないだろうし、第一、気まずすぎる。土下座して懇願でもすればあるいは……と思わなくもないが、それができない昭和な男であった。

「ま、昔から『浅くて遠いは男女の仲』と言いますからね」

「それを言うなら『近くて遠い──』ですよ」

「あ……」

 揚げ足をとられて、先野は笑ってごまかす。浅くて遠かったらもう絶望しかない。だが案外そうかもしれない。よく理解しているつもりでいるようでいて、実はそうではなかった──。今回の案件はそれを象徴しているようでもあった。



「依頼者さん、さぞやがっかりされていたでしょう?」

 面談ブースから事務所に戻ると、原田翔太が訊いてきた。

「まぁな。だがよくあることさ」

 先野は肩をすくめる。

「それにしても、別れさせ屋を雇ってまで財産が欲しいなんて、とんでもないババアだよな。長年連れ添っていて、亭主に対して愛情のカケラもなかったのか」

「熟年離婚の原因は、ほとんど夫にあるっていうのに、無自覚な男が多いらしいと聞きますよ」

 そこへ、三条愛美も会話に加わってきた。

「今回の依頼者もそうだと? まぁ、それはあるかもな……。長く夫を支えてきた妻を捨ててしまうなんてことするからバチが当たったんだろうよ」

「でも保険金殺人なんかするよりは、よっぽどいいですよね」

 三条が物騒なことを言いだす。

「ふむん、それもそうだな。保険金ではあれだけの資産は手に入らないし、下手をすれば逮捕されて死刑になる。頭のいいババアだな。これで一生、生活には困らないだろうしな」

「一生……そうですね」

 三条はつぶやくように同意した。一生といっても、元妻があとどれぐらい生きるのか、そもそも死ぬ日が来るのかどうかわからない。あのお金がなんのためにどう使われたのか、真実を言う気はさらさらなかった。そんなことは今回の調査には関係ない。

「でも先野先輩は、『若い女の人はピュア』だと言ってましたけど、今回はピュアじゃなかったですね」

 原田は思い出してそんな指摘をした。

「ばかやろう。桃崎あのひとは探偵としての仕事で宗中さんに接近したにすぎない。プライベートではきっとピュアの恋をするだろうよ。仕事とはいえ、今度のことは、たぶん弓野かのじょの心に傷を残したに違いない」

「あらま、先野さん。女心をそんな単純に決めつけていたら、痛い目に遭いますよ」

「三条さんはドライだな」

「そうかしら……」

 三条は含み笑いする。三十八歳の先野がずっと独身である理由がわかったような気がした。



【花嫁の幻を見ていた】(了)

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