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しんどい興信所の超常探偵  作者: 赤羽道夫
花嫁の夢を見ていた
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たどり着けた結論

 三軒目にやって来た山橋探偵事務所は、一軒目と二軒目のような個人事務所と違い、会社組織として運営されている規模の大きな興信所だった。雑居ビルのワンフロアを借り切って営業していた。

 三条から連絡があって、探偵事務所を片っ端から調べていた。

「おれもそう思っていたところだよ」

 三条に言われて、先野も自分の考えを話した。推測にすぎなかったが、その可能性はある、と踏んだ。

 偽名まで使っていたということは、最初から宗中の前から消えるつもりだった、との結論に至った。その上で偶然を装って出会い、結婚の約束まで取り付けた。なんの目的でそんな工作をする必要があったのか……。

 山橋探偵事務所、とプレートの貼られたドアを開け、すぐ正面にある受付で来訪目的を告げた。

「こちらにいらっしゃる弓野さんは今お手すきでしょうか? 以前、依頼を受けてもらったので今回も頼もうかと思いまして」

 しばらくお待ちください、と受付係の女性スタッフに面談ブースに通された。

 ちょうど先野が所属する「新・土井エージェント」と同じように、事務所横にパーテーションで区切られた面談ブースがあるのだ。

 事務所の規模が大きくなると似るものなんだな、と思っていると、パーテーションをノックする音がした。

 現れた女を見て、ビンゴだ、と先野は内心指を鳴らした。宗中から転送してもらった写真の女、桃崎杏南に間違いなかった。

「お待たせしました、弓野です」

 そう言って一礼したとき、「しまった」という感じの表情がほんの一瞬だけ見えた。先野とは初対面のはずで、本当なら「あれ?」なのだが、それが「しまった」なのであるのを見逃さなかった。その表情の変化は、先野が白のスーツで身を固めているからではなかった。

「どうも……いきなりすみません」

 先野は申し訳なさそうな顔を返した。

「いえいえ、お客様からご指名があるとは光栄です」

 弓野は心境を隠して笑顔でそう応じるので、

「私のことを憶えておられますか?」

 だから先野も白々しく水を向けてみた。

「ええ……」

 戸惑う弓野。

「憶えてはいませんよね、なにせ桃崎さんとは初めてお会いしますので」

 ここで桃崎の名前を出してみた。

「どういうことでしょうか?」

「宗中さんが捜していましたよ……」

「…………」

 弓野はついに黙ってしまった。顔は平静を装っていたが、額に汗が光っていてもぬぐわない。

「まぁ、いいですよ。探偵には守秘義務がありますからね。顧客の情報、依頼内容とかを口外するわけにはいかないでしょうし」

「どこまでご存知なんですか?」

「おたくが宗中さんの奥さんからの依頼を受けて、亭主の浮気相手になって離婚を切り出すよう仕向けた、というところまで。うまくやっているかどうか心配したおたくの部長さんと会ってたってことも」

 いくら資産家とはいえ、親子以上に歳の離れた男に好意を持つはずがないのに、疑われることはなかった。宗中はおそらく、恋愛経験な豊富な男ではなかったのだろう。だから気がつかなかった。思惑どおりに進み、妻との離婚が成立したため桃崎という女は必要なくなって消えた。

 いっしょにいるのを目撃された中年男性は、おそらくここのスタッフだ。弓野の上司だろう。

「あなた……探偵ですか」

 先野はすぐに肯定しない。たっぷりと時間をかけて、立ち上がる。

「ま、想像におまかせしますよ。私としては、弓野さんがここに勤めていることを知れただけでもうじゅうぶんです」

「あの……っ」

 立ち去ろうとする先野を呼び止めようとするが、次の言葉が出てこない。

 先野は一度振り返り、

「たいした演技力だ。探偵なんかより女優が向いているんじゃないかと思うぐらいだぜ。ただ、もしおれにその話がきても、そんな仕事は受けないな。人を不幸にするのは探偵の仕事じゃない」

 そう言い残して、探偵事務所を後にした。


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