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しんどい興信所の超常探偵  作者: 赤羽道夫
花嫁の夢を見ていた
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なれそめ

 桜の季節がやってきた。寒かった冬が去り、暖かな春が町を覆っていた。

 その日、お花見に行きましょう、と妻が言うので、いっしょに外出した。近くの川辺はタウン誌にも紹介されるほど有名な桜の名所なので、そこへ歩いて行くことにした。

 肌寒さはあったものの天気もよく風も穏やかで、お花見日和といったところだ。家から十分ほど歩くと、川に沿って植えられたソメイヨシノは七部咲きで、まさに見頃を迎えていた。

 川にかかる橋と橋の間、約八百メートルにわたって両岸に連なる桜並木は、静かに流れる川面にも映り、実に見事な風景を見せてくれていた。

 平日ではあったが花見客は大勢いて、大きなカメラを持って夢中で写真を撮っていたり、レジャーシートを広げて宴の最中であったり、それぞれのやり方で桜を楽しんでいた。

 河川敷の遊歩道をゆったりと歩きながら、二人して桜を眺めていると、

「あっ、そうだわ。山本さんのところへ行かなきゃいけなかったんだわ。ちょっと行ってくる」

 妻が思い出してそう言った。

「そうか、それじゃ送ろう」

「いいのいいの。せっかく来たんだから、あなたは桜を楽しんでから帰ってらっしゃるといいわ。スマホで写真を撮ってあとで見せてくださいな」

「そうかい? それじゃ、見てくるよ」

 妻が去っていくと、宗中はひとりで桜を見物する。毎年毎年、ここの桜が春を感じさせてくれた。今年もまた季節が移り変わっていく。子供のない暮らしであるが、子供の成長が感じられない分、月日を感じるなにかを求めているのかもしれないと、宗中はしんみりと思い、心穏やかに歩いていると──。

 突然、後ろから背中になにかがぶつかった。

「きゃっ!」

 かわいい悲鳴があがり、足元に倒れこむ人影。

 驚いて見てみると、二十代中頃ぐらいの若い女が派手に転んでいた。

「だいじょうぶですか?」

 起き上がろうとして、うまく起き上がれないようで、宗中は手を貸す。

 その手をとって女は立ち上がった。

「どうもすみません」

 スニーカーにジーンズ、ブルゾンを羽織っていて、活発的な感じだが、彼女は服についた砂を払い、よろける。

 反射的に体を支えた。

「足を痛めたんじゃないですか? そこのベンチで休んではどうですか」

 宗中はすぐ近くのコンクリート製のベンチを指した。

「はい。そうします」

 手を貸してもらいながら、彼女はベンチに移動する。

「ごめんなさい。つい桜に見とれてしまってて」

「いえ、こちらこそ、ご迷惑をおかけして」

「迷惑だなんて、わたしからぶつかってしまったのに」

「それは気にしないで。ほら、ここから桜がよく見えますよ」

 ベンチに並んで座ると、桜の木がより大きく見えた。

 そうやってしばらく眺めていると、

「わしはそろそろ行くよ。あなたはもう少しここで休んでいるといいよ」

 宗中は言って立ち上がろうとした。

「あっ、待ってください」

 すると、女は呼び止める。

「お侘びがしたいので、連絡先を教えてくださいますか?」

「そんなのいいですよ」

「わたし、この近くに引っ越してきたばかりなんですよ。知り合いがぜんぜんいないので、わからないことがいっぱいで……」

「あっ、そうなんですか……。この時期は引越しのシーズンですからね」

「いろいろ教えてくださると、ありがたいんですが……」

「まぁ、そういうことでしたら」

 互いにスマホを取り出し、メッセージをやり取りできるようにした。

 じゃ、またお話しましょう、と言ってその場は別れた。

 それが桃崎杏南との出会いであった。

 その後、桃崎のほうからメッセージが入り、食事に行ったり、町を案内してあげたりした。友だちがいない、ということで、宗中は親切心からそれに付き合っていた。親子以上に年齢の離れた女性に対して恋愛感情を抱くことはなかった。が、やけに頻繁であり、その積極性に戸惑いつつも、瞬く間に交友は深まっていった。お互いプライベートなことも話すようになっていた。

 桃崎は、すでに両親を亡くしており、兄弟もいなかったので、早く家族を作りたいと言った。それを聞いて、なんとかしてあげたいと思う宗中だったが、年齢の釣り合いそうな若者の知り合いはいなかった。

 ひと月ほどたって、桃崎から告げられる。

「わたし、宗中さんのことが好きです。奥さんがいるのに、でもこの気持ちは抑えられないんです」

 宗中は呆気にとられた。宗中も好意は持ってはいたが、そこまであからさまには言えなかった。しかし桃崎に胸に飛び込まれて、年甲斐もなくときめいてしまった。それでも、

「私みたいなおじいさんなんかじゃなくて──」

 気持ちを抑えてそう言うと、

「宗中さんじゃないとダメなんです!」

 涙目で下から見つめられてしまうと、もうそれ以上、なにも言えなかった。

「宗中さん、子供さんがいないって話してましたよね。わたしなら子供が作れるかもしれませんよ」

 若い体を押し付けられた。いつも血色がいい桃崎は、たとえ相手が六十代でも元気な赤ん坊を産めるだろうと思えた。正直、子供はあきらめていたが、ここに来てこんな機会がやってくるとは。しかし妻はどうする?

 葛藤であった。しかし莫大な財産が背中を押してくれた。それがあれば妻は一人でも生活に不自由はないだろう、と。

 妻に話すと、意外にも理解を示した。子供を産んであげられなかったことに、宗中に対する後ろめたさがあったと告白した。

 桃崎も真面目に考えていて、

「奥さんと離婚してから結ばれましょう。でないと不貞になってしまいます」

 と、言動もきちんとしていたので、速やかに離婚の手続きを進めた。妻には財産をきっちり半分、もっていってもらった。

 お互い親族が呼べないので、海外での挙式を予定していた。

 その矢先、なんの前触れもなく、桃崎はいなくなった。

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