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しんどい興信所の超常探偵  作者: 赤羽道夫
花嫁の夢を見ていた
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桃崎杏南は何者?

 先野光介はもう一度、依頼者から話を聞くことにした。

 桃崎杏南……彼女はいったい何者なのか──。

 結婚の約束までしておきながら、なぜ宗中の前から姿を消したのか。それもどうやら計画的に。いっしょにいたという中年男に、なにか秘密があるようなのだが、どこのだれとも知れない。

「先輩、まだ僕のサブはいりませんか?」

 翌朝、先野が事務所に出社すると、原田翔太ハラショーがデスクにやって来た。

「ああ、まだそれはいいよ」

 先野は素っ気なく答える。まだそんな段階じゃない。

「朝から浮かない顔ですね」

「そうか?」

「調査がうまくいってないんですか?」

「まぁ……そんなところだ。そういう案件もある。なに、こういう難しい依頼だからこそ、おれが担当に選ばれたってことさ」

 そう言って自らを奮い立たせたが、後輩に焦燥しているのを悟られるとはおれもまだまだだな、などと先野はひとり苦笑した。かつて個人で探偵事務所を立ち上げたものの顧客がつかなくて廃業し、今は妥協してこの興信所に所属してはいるが、いつかは再び個人事務所を持つ夢を往生際悪く抱いている中年男は、そのためにもっとがんばらねば、と両手のひらで頬を叩く。

 飲みかけの缶コーヒーを飲み干して気を取り直し、会社から貸与されたスマホで電話をかける。コール五回で相手が出た。

「おはようございます、宗中さま」

「もうわかったんですか!」

 宗中総一は朝っぱらの電話で興奮していた。早く消息を知りたい気持ちが電話ごしに伝わり、これは早く解決しないといけないな、と思わずにはいられない。

「いえ、それが……調べていましたら少し腑に落ちない点がございまして、今一度お話をうかがえませんか?」

「はあ……よろしいですが……」

 少しがっかりした口調だ。

「今から行ってもよろしいですか?」

「はい、かまいませんよ」

 莫大な資産を持つ宗中総一であるが、すでに第一線は退いており、時間はたっぷりあった。大きくした会社は人に売り渡し、今は株の売買を気まぐれにやっていたり、配当で暮らしていた。それで家政婦まで雇っているのだから、まったくもって羨ましい生活である。

「では、すぐに向かいます」

 通話を切った。

 事務所のホワイトボードに社用車ナンバーを書き込み、ひっかけてあるキーを取る。雨を心配して、原付バイクではなくクルマにした。

 ビル横の駐車場に停めてあるプリウスの運転席に乗り込むと、スマホにメールが入った。電話番号で送れるショートメールだ。あの青年からだった。

『思い出しました、桃崎さん、スポーツジムに通っているって言ってました』

 ジムの名前が書いてあった。

(ジムか……)

 先野は低い天井を見つめ、思案する。

 毎朝ジョギングもしているとも言っていた。その上にジムにまで通っている。運動が好きな女らしい。だが引っ越しているならジムも辞めているだろう。

 先野は『ありがとう、参考になりました』とおざなりの返信をし、クルマを出す。あとでそのジムも行ってみよう、と思った。



 ここまでの調査で、たしかにいくつか判明したことがあった。だが桃崎杏南の行方を追う以前に、そもそも失踪した理由がわからなかった。それがわかれば行方もわかるのかもしれないが、まずは彼女が何者なのかを明らかにしたかった。

 一昨日入った応接室で、宗中総一と向かい合って座っていた。

 家政婦の出してくれたお茶を一口ふくみ、先野は調査の進展具合を説明したあと、ここへ来た目的である本題に入った。

「桃崎さんとの馴れ初めを聞かせてください。どんな出会いだったんですか?」

「出会い……ですか……?」

 宗中はシミの浮いた顔に手をやり、記憶を探りだした。

「あれは……そう、三ヶ月前。桜が咲いている頃でした……」

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