リアル世界は残酷
調査報告書を受け取った依頼者は、真実を知って取り乱した。
「うそだ、そんな、うそに決まってる!」
興信所「新・土井エージェント」の面談コーナー。パーテーションで区切られたひとつで先野光介は、
「心中お察しします」
お悔やみを述べたつもりだったが、白の上下のスーツを着て白いソフト帽をかぶったいで立ちは、どこかバカにしているように受け取られかねなかった。
「詳しくはその報告書にありますが、住所も書いてありますので、お線香のひとつでもあげるのもよいかもしれません」
報告書にはチャルーの本名と住所や、交通死亡事故当時の新聞記事のコピーまで載せていた。
依頼者は先野をキッと睨みつけた。目つきが危険な色をしていた。
報告書を奪い取るようにわしづかむと、身を翻してその場から駆けだしていった。
先野はホッとする。先に調査費用をもらっていてよかった。報告のあとだったら払ってくれなかったかもしれないな、と思った。
「まぁ、あんな感じだったから、おれも少し気になって跡をつけたんだ。こんなこともあろうかと、念のために警察にも連絡してたけど」
翌日の昼休み。
先野は、約束どおり原田翔太をラーメン屋につれていった。たたずまいの汚い店なため、なんとなくテンションの低い後輩に、こういう店のほうが美味いんだ、と通ぶってカウンター席につくと、モツラーメンをふたつ注文した。厨房の壁で脂で黒く汚れた換気扇がごうごうと回っている。
ラーメンが出来上がるまでの間、先野は先日の依頼の顛末を語る。
「依頼者は一方的に感情をつのらせていたんだな。家の前でわめき散らしていたよ。パトロール中の警察官に引きずられていったのを見るにつけ、哀れだと思ったな……」
「そういうことは、よくありますよね」
原田は調子をあわせる。
「ネットで知り合っても、遠くに住んでたら会えないよな。だから依頼が来たとき、ピンときたんだ。こいつはターゲットのことを知ってるな、と。でないと、捜してくれなんて頼まない」
「さすが先輩」
「死んだあとにログインしてたのが母親だったのも、おれの睨んだとおりだった」
「探偵の推理力っていうやつですか」
「推理とまではいかないだろうが、カンの良さだな。探偵小説のような込み入った事件に関わることはないが、おまえがおれみたいな一人前の探偵になるには、もっともっと経験が必要だろうな」
先野の鼻息が荒くなる。
へいおまち、と湯気のたつラーメン鉢がカウンターごしに出された。モツのたっぷり入った白いスープにラーメンが浸かっていた。胡麻の香りが鼻孔を刺激する。薄切りカマボコが桜の模様なのは、今どきらしい。
「うまそうだ。さぁ、食え」
「はい、先輩。いただきます」
二人してラーメンをすする。
「ところで先輩、次の仕事はどんなものなんですか? また手伝いますよ」
先野は思わず口のなかの麺を吹いてしまいそうになって、むせる。
【ネトゲの旅人】(了)




