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しんどい興信所の超常探偵  作者: 赤羽道夫
ネトゲの旅人
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半年のずれ

 夕方、事務所で打ち合わせをおこなった。

 先野光介と三条愛美、それぞれがつかんだ情報を元に、今後の調査方針を決めるのである。ここまでは各自が手探りで調査を進めてきた。だがある程度の情報が集まったところで、ぼんやりしていた捜索対象もしぼられてきただろうからと、情報整理をしたうえできちんと方向を定めようというわけだった。

「いくつかチャルーの名前に行き着いたんだが……」

 互いの進捗を確認しあってから、先野が切り出した。

 事務所の隅にある会議テーブルのひとつに陣取り、二人だけの会議が始まる。

「間違いなくそれだと思えたプレイヤーがいたのに、残念ながらターゲットじゃなかった。彼女は一年前に死亡していたから、半年前からログインしていない、というその一点だけにおいてちがっていた」

「わたしもその女の子に行き着きました」

「このゲームでは相当腕の立つプレイヤーだったらしいな。高校生だというが、かなりの時間をこのゲームに費やしていたようだ」

 で……と、先野はシステム手帳を広げ、調べて書いたメモを苛立たしげに指先でたたく。

「他にもチャルーはいないかと捜してみたんだが……今一つ、依頼者の条件と合致しない。くそ、せっかくハラショーがチャルーの所属したパーティー名をリストアップしてくれたというのに」

「原田くんが手伝ってくれたんですって?」

「頼んでもないのに、あいつなりに考えてのことなのだろう」

「他にチャルーの候補がないとなると、だれかにアカウントを乗っ取られた、ということになるんでしょうか?」

「おれもその可能性が高いとみる」

「でも、なんの目的で?」

「それはわからない。もしかしたら、チャルーのきょうだいがログインしたのかもしれない。本人の死後、半年だけやってみて飽きてしまったのかも。なにせ自分で育てたアバターではないからな、愛着もわかない」

「身内ならIDやパスワードを知るのも簡単ですよね……」

「赤の他人がウィルスを使って盗んだのかもしれないが、『キング・オブ・大阪』での個人情報漏洩事件は報道されていない」

「表沙汰になるのを嫌ってニュースになっていないだけかもしれませんが」

「それはありそうだな」

 ネットが生活のなかに根を下ろして、個人が何十個ものアカウントを持っているのだから、それを狙うサイバー犯罪者が世界中から攻撃をしかけ、ものすごい数の漏洩事件が発生しているはずだ。よほど大規模で影響のありそうな事例でない限り外部に知られない、というのは想像に難くない。企業が公表しなければ、一般人には知りようがない。

「では、今後の調査としては、乗っ取ったのがだれかをつきとめますか?」

「いや、それは難しいだろう。おれたちの手にあまるよ」

 そこまでできるほど興信所のサイバースキルは高くない。ただ、この分野を今後強化していく必要は会社として重要だろう。同様の依頼が増えていくのは目に見えている。先野もそんな案件に関わっていかざるを得ず、苦手だなどと言っていられなくなり、目の前が暗くなる思いであったが。それはそれとして──。

「他にチャルーらしきプレイヤーがいるという可能性は棄てきれない。なにせまだ調査開始から二日しかたっていないからな。期限の一週間やってみて見つからなかったら、チャルーはすでに亡くなっていた、と報告するしかないだろうと思う」

 いつまでも調査を続行するわけにもいかない。探偵が働いたその費用は直接顧客に請求される。一週間という期限は、依頼料から計算した期限だ。

「そうですね。わたしも引き続きチャルーを捜します」

 ゲームのプレイヤーがどれぐらいの数いるかわからない。まだまだ捜しきれているわけではない。

「発見したら、すぐに知らせます」

「ああ、こちらもそうする。ところで、おれは気づいたんだが──」

 先野は、聡い三条ならわかるだろうと質問をぶつけた。

「オンラインゲームは、ネットで世界中からアクセスできるわけだろ? だったら、見つかったチャルーが遠い国に住んでいる可能性だってあるわけだ。なのに依頼者は消息を知りたいと……どう思う?」

「さぁ……もし近かったら、会いに行こうと思ってらっしゃるのかも」

「近くに住んでいる確率は限りなく低いだろうに」

「わたしもそう思います」

「わかった、おれの認識が誤ってなくてホッとしたよ。じゃあ、これから毎日、打ち合わせしよう。情報共有して同じプレイヤーに重複して聞き込みしないようにな」

「わかりました」

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