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しんどい興信所の超常探偵  作者: 赤羽道夫
ネトゲの旅人
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頼りない手がかり

 翌日、ゲーム世界に入って「くいだおれ太郎」に似たモンスターに追いかけられる、という夢を見てしまった先野は、勤務調整で事務所に10時頃に出勤してきた。土曜日である。土日だからといっせいに休業しないのが興信所であった。

「先輩、おはようございます」

 前日の疲れの残った顔でも上下の純白スーツはしっかり着込んだ先野は、デスクにつくなり声をかけられた。原田翔太である。入社したばかりの見習い探偵である。三条よりさらに若く、まだ23歳だ。新卒ではないようだが、かといって社会人としては頼りない。通称、ハラショー。

「おお、おはよう」

 反射的に挨拶を返すと、

「役に立つかどうかわかりませんけど、これをどうぞ」

 メモをわたしてきた。

「なんだい?」

 企業ロゴが隅に入った販促用の小さなメモ用紙にボールペンで書いてあったのは、いくつかの単語であったが、意味がわからない。

「チャルーが所属していたと思われるパーティー名です」

 さらっと言ったセリフに、先野は目が覚めた。

「どうやってこれを? 原田はこのゲームのプレイヤーだったのか?」

 先野は驚きを隠せない。まる一日費やしてもたった一件の手がかりしか得られなかったというのに、原田はこんなにも手がかりを見つけていた。以前からプレイヤーだったのかと思われてもしかたない。

「プレイヤーじゃないですが、ゆうべ、ちょこちょこっとね……。担当外の案件ですから、本来は首を突っ込んじゃいけないのかもしれませんが……」

「担当中の案件を放り出してやったわけじゃないんだろう? さすがハラショーだ、助かるよ。こいつが片づいたら昼めしでもおごろう」

「期待してます」

「素直なやつだ。あとはおれがやる」

 さすがネットゲームに慣れた若者だ。部長はなんで原田にこの案件を任せなかったのだろう? これまで他の探偵のサブばかりだったが、この案件ならメインを張れるのではないかと思った。なにか理由でもあるのだろうかと訝ったが、深くは考えず、では、と一礼して足取り軽く去っていく後輩の背中を見送り、

「よし」

 先野はパソコンの電源を入れる。起動するとブラウザーを立ち上げ「キング・オブ・大阪」にログインした。原田がもってきてくれた情報に勇気づけられ、本日の調査、開始である。



「チャルー? ああ、知ってるよ。少し前に暴れまわってたプレイヤーだろ」

 何人かの古参のプレイヤーからそんなコメントをもらった。

 依頼者の捜しているチャルーに間違いない、と三条は確信した。ゲーム内である程度のレベルを上げ、パーティーに参加している幾人かのプレイヤーと懇意になるうちに入手した情報を整理し、徐々にチャルーの人物像を固めていった。その結果、どうやら目的ターゲットであるプレイヤーにたどり着いた。依頼者が言っていたとおり、ここ半年、だれもその姿を見ていない。

 午後9時をすぎ、ゲームにログインしてくるプレイヤーが増え、三条の周囲もにぎやかになってきた。いっしょにパーティーに参加表明しているプレイヤーたちも次々とログインしてきた。

 パーティーの一員としてモンスター退治に出る時間になった。四人のパーティーで、三条は剣士である。残りの三人は、剣士、ヒーラー、魔法使いという標準的な編成である。

 人捜しが仕事なのだからモンスター退治など関係がないとばかりにゲームを無視するのではなく、やる気はなくとも参加することで情報を得ようという考えは先野と同じだった。ただ、三条はすでにレベル10にまで上げており、付き合うプレイヤーのレベルもそれに応じた強さだ。レベル50のチャルーに比べればまだまだ低いが、それでも噂は入ってきた。もっとレベルを上げれば、より精度の高い情報にたどり着くだろうと見込めるが、レベルは高くなるにつれて上げていくのが難しくなった。レベル10までなら、がんばれば一日でどうにか到達可能だが、それ以上となれば雑魚モンスターを倒すだけでは上がっていけない。そんな作り(システム)になっていた。

 やって来たステージはUSJだ。版権の関係か、現実とはややディテールは異なるが再現度は見事であった。アトラクションをモチーフにしたモンスターもクオリティが高い。こいつを倒せばレベルを上げられそうだが、簡単に勝てる相手ではない。チーム戦でないと倒せない──そういう設定にしてある。

 入口からしばらく進み、芝生のある広いエリアに来ると、さっそくモンスターと出くわした。いかにもUSJらしい音楽と効果音とともに出現したのは、ガイコツのようなデザインのモンスターだった。そのメタリックな外観は例の映画を連想させ、見るからに強そうである。たしか映画のなかではめちゃくちゃタフだった。

 地球を模した青い球体のオブジェの前で対峙する。

「散開するで。ナミ子は左から回り込んで!」

 リーダーの剣士が指示した。ナミ子というのは、三条愛美の名前をもじって付けたプレイヤー名だ。

 どんなプレイヤー名をつけるかは自由だったが、女名だと親しげに話しかけてくるプレイヤーが多いと思って。実際、その思惑どおりだった。ゲームのプレイヤーは男性が多く、女名でも中身が男性である場合が多いかもしれないが、それでも近づいてしまうのが哀しい男の性なのかもしれない。レベル20のリーダーもおそらく男性で、でないとレベル10の三条をパーティーに誘ったりはしないだろう。

 そんな彼に出会って早々に訊いてみた。

「チャルー? ああ、聞いたことあるよ」

 すると、剣士のリーダーはそう答えた。

「すごいプレイヤーやと。知り合いが梅田ダンジョンで最近、見たって言うとったな」

「最近? 半年前ではなく?」

「半年前? さぁ、どやろ、ようは知らんけど」


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