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しんどい興信所の超常探偵  作者: 赤羽道夫
ネトゲの旅人
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チャルーはどこに?

 そのプレイヤーは、ナギ、といった。もう一年半もこのゲームのプレイヤーをやっているという。レベルは45。強力な武器と、それを使いこなすスキルを有するハイレベル・プレイヤーだ。見たところ軽装で重そうなヨロイは着ていなかったが、そんな無骨なものに頼らなくてもよい防御能力があるのだろう。

(このレベルになるまでゲームを続けられるほど、よく夢中になれるもんだな……)

 そう先野は感心する。自分なら途中で飽きて投げ出してしまいそうだった。

「チャルーなら、ここ半年ほどログインしてない」

 ナギはそう答えてくれた。文字だけなので、ひどくぶっきらぼうに感じさせる。しかし、恩人なので会いたいという人がいるのだ、という先野の理由を信じたかどうかはわからないが、まったく相手にしてくれない、ということはなかった。

「なんとか連絡つかないものだろうか?」

 ネットでしか知り合っていない者同士が多いゲーム内で、しかも半年もログインしていないプレイヤーとなれば、無茶な要望である。

「おれでは無理だな。だがリアルで知っているプレイヤーなら、以前おれとパーティーを組んでいた」

「そのプレイヤーと話をしたいけど、どこで会えるだろう?」

「そいつは夜しかログインしない。現在の所属パーティーは、新世界界隈で活動してるから、おれが話をつけてやってもいい」

「それは助かる。ありがたい」

「今夜10時になる少し前に通天閣下のセーブエリアに来るといい。運がよければ接触できるかもな」

「わかったよ。恩に着ります」

(よし! やっと手がかりをつかめたぞ!)

 先野はパソコンの前で拳を握りしめ、小さくガッツポーズをした。



「おれ一人でなんとかなるかもしれん」

 コーヒーブレークがてら三条のデスクに寄って、先野は声をかけた。

 パソコンに向かってゲーム中……捜索中の三条は、いつもの白の上下のスーツに身を包む男のドヤ顔を見上げる。頬に落ちる髪をはらい、

「チャルーさん、もう見つかったんですか?」

「いや、まだ本人と会話をしたわけではないが、チャルーを知っている、というプレイヤーを見つけ出した。今夜、そいつがログインしてくるそうだから、そのときに話をしようと思う」

「そうですか……。でも、たまたま同じ名前の別人という可能性もありますから、わたしはわたしで聞き込みを続けます」

 三条に言われて、先野は鼻白む。

「たしかにそれはあるかもしれんが……」

 ゲーム内では重複するプレイヤーネームでも登録できた。三条の言うのももっともであった。チャルーが何人もいる可能性はある。

(おれも念のために、聞き込みを続けるか……。その前にタバコだ)

 先野は事務所の外に出る。外の空気を吸って気分をリフレッシュ。春の空気が冷たい。近くの公園のソメイヨシノはやっと咲き始めたところであった。

 もし、このままチャルーが見つかったとしたら……。

 ビル屋外の非常階段で紫煙を吐き出して、先野は思案する。

 即、依頼主に知らせる──かといえば、それはそう簡単ではない。

 人捜しではよくあることだが、互いにリアルでの面識がないため、不測の事態も考えられた。一方的な感情を抱いていて、相手に迷惑がかかってしまうかもしれないのだ。

 そのため、対象人を見つけ出すことができたとしても、対象人に確認し、了承を得たうえで依頼者に報告することになる。探偵がストーカー犯罪の片棒を担がされることがないよう、ここは注意しなければならないのである。

 依頼者の「音信不通の恩人の安否を気にしている」という依頼理由を鵜呑みにするのは危険だし、それは探偵業の基本だ。依頼者の面談時の様子を思い返すに、どこか普通でないオーラを発していたように感じられたし、ここは注意が必要だろう。

 先野は手首のセイコーに眼をおとす。秒針の巡る文字盤にはローマ数字。シンプルな意匠だが、そこそこ値の張る品で、こういうところにカネをかけるのが先野のこだわりだった。

「4時か……」

 10時までまた6時間もある。10時からどれくらいの時間がかかるかわからない。今さらだが、確実な約束でもない。

 携帯灰皿で火を消す。

 三条の言ったとおり、別のルートからも捜してみることにすることにし、暖房のきいた事務所に引っ込んだ。今夜は長期戦を覚悟した。


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