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しんどい興信所の超常探偵  作者: 赤羽道夫
エアな奈々子
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先野、真相を見抜く

 夜になった――。

 先野は昼間訪れたCCZパートナー紹介センターのビルの前でずっと待っていた。応対した職員が出てくるのを……。

 すっかり日が暮れて、巣に帰っていくカラスの鳴き声がする頃になると、繁華街に近いこの辺りでも怪しげな雰囲気が漂ってきた。

 忘年会もたけなわな頃で、今がいちばんの書き入れ時だろう。

 七時――職員が出てきた。先野の張り込みに気づく様子もなく、駅の方向へと向かっていく。

 すかさず駆け寄った。

 足音に気づいて振り返った職員のコートの胸倉をつかんで、薄暗い露地へと引きずり込んだ。

「な、なんですか!」

 驚く職員をビルの壁に押し付けて、先野はドスをきかせた声で言った。

「やい、本当のことを言え。誰を紹介してるんだ?」

 以前の失敗があって、こういう強硬な手段をとるのは覚悟がいった。三条もそれを注意した。だから相手の靴を見て、いける、と判断した。

 爪先つまさきの円い靴を履く男は気が優しいのだ。反対に靴先が尖っていると攻撃的な傾向がある。靴屋が言っていたので間違いない。

「なんのことですか?」

「しらばっくれるな。調べはちゃんとついてるんだ。おれに幻の相手をさせるつもりだったのか?」

 職員の目が見開かれたのが、暗がりでもわかった。

「ばれないとでも思っていたのか? え、ペテン師め、説明してもらおうか。おれを担ごうとしてもそうはいかないからな」

 さもなにかを知っているふうにたたみ掛けた。確信はあったが、まだ証拠がなかった。だから鎌をかけてみた。

「わかりましたよ。説明しますよ」

 職員は観念したように横を向いてつぶやいた。しかし先野は胸倉をつかむ手を緩めない。隙を見せれば逃げられる。

「催眠術ですよ……。恋人がいるように錯覚するように強力な催眠術をかけるんです。本人は恋人がいると思い込んで疑いもしません」

 ついに白状した。

 催眠術――。それが見えない恋人の正体だったのだ。強力な催眠術で、本人にはいるはずのない恋人が存在するように感じる。所田明二の奇妙な振舞いはそれで説明がつく。が――。

「しかしそれでは写真とか残らないだろ」

 先野はつっこんだ。

 現実にはいない、となれば、それに伴う矛盾が生じるはずだ。頭の中には架空の記憶が残るが、物的なものはなにも残らない。それでもばれないのか?

「本人には見えるんです。それに第三者にもできるだけそれを見せないように細工します」

 そっぽを向いたまま、職員は答えた。

 なるほど。奈々子の写真を見せてくれない、という理由はここにあったわけだ。巧妙な仕掛けだ。

「だがいつまでも幻でいるわけにもいかんだろ」

 それでも限界があるだろうと、食い下がった。いくら本人にとっては「現実」といえども幻は幻だ。他人にそれを指摘される事態がいつか来るはずである。そう、今回の依頼のように。

「早い段階で別れを告げられることになっています」

 先野は呆れた。そこまで計算してあるのか。

「人間は、自分の欠点がわかっています。そこを指摘されて別れる原因にすれば、本人もわかっているだけに強くは言い返せないんですよ」

「そんなペテンで多額の紹介料をぶんどるなんて、この悪党め……」

「そんなに簡単に条件に合う相手なんていませんよ!」

 職員は開き直ったように言い放った。

「写真や書類をどう見ても相手が見つかりそうにない人は、永遠に待つことになってしまう。催眠術にかかっていたとしても、その人にとっては現実の恋人なんです。その想い出は楽しいはずです。それさえ提供できない紹介センターよりはマシですよ」

「ぬけぬけと、よくそんなことが言えるな」

 先野は職員を突き飛ばした。露地の脇においてあったビールケースにぶつかり、音をたててくずれた。

「本当のことを知って、そんな紹介センターでもいいなんていう人がいたらお目にかかりたいぜ」

 きびすを返し、その場を後にした。


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