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しんどい興信所の超常探偵  作者: 赤羽道夫
ネトゲの旅人
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仮想世界のルール

 再度道頓堀からプレーして大阪城にたどり着いた。天守閣のなかに入ると、パーティーを申請する役場というだけあって、大勢のアバターがいた。本物の大阪城内部は博物館になっているが、ゲーム内ではただの広い部屋で、パーティーの登録受付カウンターが、空港の手荷物預所のように一方の壁面を占めていた。

 場内を観察していると、同じか近いレベルのプレイヤー同士が声をかけあってパーティーを作っているようだ。出現するモンスターの強さは、プレイヤーのレベルに比例するので、一人だけ抜きん出たプレイヤーがいると、全員でモンスターに対処するのが難しくなってしまう。たとえば一人だけが高いレベルだと、ほかのプレイヤーには歯が立たないし、一人だけ初心者がいたら、そいつはイの一番で殺されて経験を積むどころではなくなる。

 新しいパーティーができあがったら役場に申請して、共同装備の保管やメッセージのやりとりに利用するクラウドをもらう。パーティーを解散したり脱退するときもここで申請する。

 聞き込みをするにはレベルの高そうなプレイヤーがいいだろうと、先野は周囲を物色する。チャルーという捜し求めるプレイヤーは二年もこのゲームで楽しんでいたわけで、依頼者からの情報によると、レベルは50だという。レベル80で市議会議員、100で市長候補という地位を得られるらしいので、まだ先は長そうだが、ともかく50と同等のレベルのプレイヤーでないと、チャルーと接触する可能性は低い。

 他のプレイヤーのレベルがどの程度あるのかは、外見を流し見ているだけではわからない。直接聞くかパーティーを組んで開示される情報を見るかしない限り。装備を見ただけでだいたいの当たりをつけるとなると、どんな装備がレベル50なのか先野には見当もつかない。さきほど道頓堀で会話したヨロイの男はかなりのやり手だと思え、まずはそれと似たようなプレイヤーへの聞き込みから始めてみよう、と思った。

 役場内部をうろついていると、声をかけられて、強制的にアバターの歩みが止まる。

「フリーでしたらパーティーを組みませんか?」

 近づいてきたのは、腰に段平をさげた軽装の男性アバターであった。初心者よりややレベルが高いといった程度だろう。でなければ、先野に声などかけてこない。

 先野はキーボードでたどたどしく文字を入力する。

「チャルーというプレイヤーを捜してるんだが、知りませんか?」

「知らないなぁ。リアルの友人?」

「友人の友人です。せっかくパーティーに誘ってもらったが、そういうわけなので」

「早く見つかるといいですね」

 段平のアバターは去っていった。

 キーで日本語を入力するのがわずらわしい。

 先野はポーズボタンをクリックすると、席を立つ。

 やはり音声入力デバイスが欲しかった。静かな事務所内でぶつぶつつぶやきたくはなかったが、キーボードでは時間がもったいない。休憩がてら買いに出かけようと思い立ち、ついでに少し離れた三条のデスクに回った。同じ案件を担当する同僚の進捗具合が気になった。

 ゲームの真っ最中であった。

 普段なら、仕事もせずになにを遊んでいるんだと叱責されるところだろうが、今回はこれが仕事だ。目にもとまらぬ速さでキーを打ち込んでいる。

 ノート型の画面を後ろから回り込んで見ると、戦闘中のようである。先野がもたもたしている間に三条はもうパーティーを組んで戦っているのだ。数人のプレイヤーが犬のようなモンスターと対峙している。ときどきエフェクトがきらめいて、攻撃もしくは防御をしているようだが、縁台将棋とちがってなにが起きているのか、今一つわからない先野であった。

「どうだい、首尾は?」

 それで訊いてみた。

「先野さん、いたんですか」

「邪魔したかな。しかし、今からレベルを上げていくんじゃ、たいへんだろう?」

「チャルーを知ってるプレイヤーと知り合うにはこちらもそれなりのレベルに達してないと。たぶん遠回りにみえて、これが一番確実かもしれません」

 パソコンのディスプレイから目を離さず、三条はそう答える。

「しかし時間が無限にあるわけじゃないぞ。何ヶ月もかかるようだと尺にあわない」

「課金して装備をグレードアップするのもひとつの手ですよ。別の方法もあるかもしれませんが、ともかくゲームシステムに慣れないことには、その方法も思いつかないでしょう」

「だからがんばって戦っている、というわけか……。おれもがんばらないといけないわけだが、今回ばかりはやりとげられる自信がない」

「あら、先野さんらしくないですよ」

 三条は初めてディスプレイから顔をあげ、先野を振り返る。

「軽く解決してやるぜ、と余裕を見せてくださいよ」

「おれはそんなにチャラかぁないぜ」

 言い捨てて、先野はその場を離れる。もっとさりげなくシブくキメるのが理想だった。めんどくさい男であった。

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