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しんどい興信所の超常探偵  作者: 赤羽道夫
ネトゲの旅人
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バーチャル大阪の夜は更けて

興信所に持ち込まれた依頼は人捜しであったが、手掛かりはオンラインネットゲームのなかにしかなかった。


担当したのは先野光介と三条愛美の二人。


リアルでは会ったことのない人をさがして、慣れないゲームに戸惑う先野。


モンスターに襲われながらも、しかしなんとか聞き込みをするうちにたどり着いた真実とは……


 存在感たっぷりで眼前にそびえているのは、今まさにゴールテープを切ろうとするかのように両手を上にかかげて走るランナーが描かれた、かの有名な看板だった──。

 そう。ここは道頓堀川にかかる戎橋の上だ。大阪随一の繁華街だけあって通行人がすごく多い。

 だが、南にかかるアーケードの上にのぞいているのは通天閣の頭にある展望台、西に視線を移せば岡本太郎デザインの太陽の塔、東に目を転ずれば大阪城の天守閣、北に見えるのは双子の梅田スカイビル……地理的に見えるはずのないものがすぐ近くに見えていた。大阪のランドマークを無理やりに集めてあるここは、つまり現実の世界ではない。コンピューターのなかに作られた仮想空間なのだ。

 先野光介さきのこうすけはそこにいた。といっても、先野のアバターである。現実の先野は事務所のパソコンのディスプレイを通してそれを見ている。

 仮想空間を使ったオンラインネットゲーム「キング・オブ・大阪」だった。

 プレイヤーはこの空間ステージでアバターを操り、出没するモンスターを倒してレベルを上げ、ライバルを蹴落として大阪市長となるのが最終目的だ。

 そこにログインしている先野であるが、遊んでいるわけではない。これでも仕事中なのである。

 人捜し──。

 目の前を行きかう大勢の人々は、リアルの人間のアカウントによって動いているアバターなのだ。プレイヤーはアカウント作成時に任意のデザインを組み合わせてアバターをつくる。もっとも、アバターがいくら好みに容姿を選べるとはいっても、常軌を逸するような外見のアバターは作れない仕組みになっていた。あくまで人間だ。でないと、モンスターと区別がつかなくなってしまう。

 今のところ、モンスターとは遭遇していないが、もし現れたらどうすればいいのかわからない。戦える武器など、頼りない短剣しか所持していないし、特殊な能力が備わっているわけでもない。そもそもアバターの操作すらおぼつかない。素手でも倒せそうな雑魚モンスターならどうにか対処できるかもしれないが、少しでもレベルの高いモンスターならもう逃げ惑うしかないだろう。もっとも、この道頓堀界隈にはいかなるモンスターも出現しないことになっているから、そんな心配もないのだが。

 それはともかく、仕事の内容である。

 こんなゲームにログインしているのが仕事というのは、それをやっている本人が一番奇妙に感じていた。ゲーム内で人捜しなど、そんな仕事が舞い込むなど想像もしなかったし、そもそも大人になってからゲームなどやったことがない。現実リアル世界とは勝手がちがい、先野は最初から戸惑っていた。

(こんな仕事こそ、あいつにやってもらえばいいのに)

 そう愚痴に出るあいつ──原田将太はらだしょうたの姿を事務所内をデスクにすわったまま見回すが見つからない。外に出ているのだろう。社会人となったばかりの年齢の若い男だから、こんなゲームをやったことがあるにちがいない。ただ、仕事そっちのけで遊んでしまうかもしれないが。もしかしたらそれを懸念して会社はこの仕事をやつに割り振らなかったのか──。ありそうなことだと先野は想像した。平日の昼間だというのに、これほどのユーザーがログインしているところをみると、きっと面白いのだろう。しかし夢中になってみたいかといえば、そうは思わなかった。こんなものに夢中になってしまっていたら、人間ダメになってしまいそうに感じる。

 ともあれ、こんな依頼は早く片づけてしまいたかった。

 バーチャル大阪での捜索は違和感いっぱいで、

「ほんとうにこの仕事はおれ向きか?」

 一週間ぶりにメインで入った仕事であったが、そうつぶやかずにはいられなかった。



 この依頼者はなにを言っているのだろう?──というのが先野光介の印象だった。

 目の前に座る目つきの悪い青年は、依頼内容を話すうちにときどき現れる激しい感情を抑えるのに苦労しているようだった。探偵になにかを依頼する人間は、心労の末に興信所を訪れるわけだから、多少情緒不安定なところはある。とはいうものの、この依頼者の目の色には狂気じみたものをかすかに感じるのだが。

「わかりましたわ」

 涼やかな声でそう応じたのは、先野の隣でいっしょに話を聞いていた三条愛美さんじょうまなみである。

 興信所「新・土井エージェント」の面談ブース。人の背丈より高いパーテーションで区切られた面談コーナーが事務所の壁にそってならんでいた。内にはテーブルと四脚の椅子がおかれ、現在、一人の依頼者から依頼内容を聞いている最中であった。

 わかりましたわって……と応じる三条の表情を、先野はちらと盗み見る。

(わかったというのか……。おれにはよくわからんのだが……)

 依頼内容は人捜しだった。それ自体はすごくよくある、ごく普通の依頼であるのだが、ただし、話を聞くに、どうやらゲームのなかにいる人のようなのだ……。

「よ、よろしくお願いしますよ」

 念を押すように言って去っていった依頼者を、先野は複雑な顔で見送った。


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