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しんどい興信所の超常探偵  作者: 赤羽道夫
約束の地に行く方法
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発見、遺産の土地

 車内の空気はよどんでいたが、運転する先野光介は気にならない。

 先野はおしゃべりではないし、ミヤコも窓外を流れる景色を見ているばかりだった。見習い探偵気分でいるわりには、あれこれと質問したりはしない。かといって先野からなにかしゃべりかけようとはしなかった。勝手についてきているわけだし、そこまで面倒をみるつもりなどさらさらないのである。

 最初の目的地まで約二時間半のドライブの予定だった。

 市街地を通っていた道は郊外へと入り、次第に田畑が増え、いつしか山林の中へとつながっていた。植林された杉の山の間をいくつものトンネルをくぐり、集落をぬけていく。

 途中、道の駅で休憩した。

 車内禁煙のため、クルマを降りたその場でタバコに火をつけ、盛大に紫煙を吐き出す。

「少し早いけど、ここで昼メシにするか」

 助手席から降りて伸びをするミヤコは、

「うん!」

 元気よく返事をする。

 地元農産物を販売するプレハブの直販所の隣に小さいレストランが建っていた。

 ソフトクリームやホットドッグやコロッケやらを販売しているテイクアウトコーナーの前を通り過ぎ、レストランの前に移動した。ガラスの自動ドアの横の食品サンプルを二人して眺める。

「どうせカネなんか持ってないだろうから、おれがおごってやる。好きなもん頼むといい」

「じゃあ、これ!」

 1800円のステーキを指し示した。

「……遠慮のないやつだな。よし、ここは豪華にいこう」

 そう言いつつ、こぢんまりした店内の壁際の二人掛けテーブルについた先野はわかめうどんを頼んでいた。

 にしても……と、テーブルの向かい側で不器用な手つきでナイフとフォークを使うミヤコを見て、先野は思う。

 運転中は運転に集中してなにかをじっくり考える余裕はなかったが(なにせ来たことのない道を運転しているから)、ここでこうして考えてみると、ミヤコはますます不思議な女の子だった。

 だいたい高校生というならこの時間学校で授業を受けているはずではないか。毎日のように探偵事務所に出没する時間などとれるわけがない。それとも全日制ではなく、通信制の高校なのか? いや、そんなことより両親はなにも心配していないのか? いや、両親がいるとは限らないぞ。それでも未成年なんだから保護者はいるだろう。複雑な家庭事情があるのだろうが、それにしたって……。

 ステーキをナイフでうまくカットできず皿から肉にかぶりついている野生児のようなミヤコを見つつ、一般的な家庭で育っていないのは間違いなさそうだな、と結論する。というか、ミヤコ(こいつ)は家でちゃんとメシを食わせてもらっているのか?

「うまいか?」

 わかめうどんを食べ終えて、先野は聞く。値段から輸入牛肉とおぼしき硬そうなステーキは、もうあらかたミヤコの胃のなかに消えていた。こんな場末のレストランでは、あまり頼みたいとは思わないメニューだな、と思っている。

 そんな先野の感想など関わりなく、まさしくむさぼり食うといった感じのミヤコは、

「うん、おいしい」

 無邪気に喜んでいる。

「そうか、そりゃよかった。食ったらすぐに出発するぞ。ゆっくりしてたら役場が閉まっちまうからな」

 それはそうと、三条はどうしてるだろう? 独自に調べてなにか手がかりでもつかんだろうか……。

 三条が有能だというのは先野も認めていた。しかし前回のネコ捜しといい、そうそう手柄を横取りされたとあっては先野も内心穏やかではない。ここらできちんと調査結果を出さないと、ますます仕事が減りそうだった。原田のような新人のように、サブ専門に回されかねない。がんばらねばならないところだ。

「ごちそうさまでした」

 ステーキを食べ終わったミヤコが両手を合わせていた。

「よし、じゃ、行くか。目的の村役場はすぐこの先だ」

 先野は伝票を拾い上げて席を立った。



 たどり着いた村役場で調べてもらったが、ここでも窓村良松名義の土地はなかった。

 礼を言って辞すると、早々に次の役場へ移動することにする。幸いなことに隣接する村だった。クルマで一時間も走れば着く、とカーナビの表示。峠を越える曲がりくねった山道が、小さな画面に表示されている。田舎道に慣れていない先野にとっては安全運転に気をつけなければならない道のりだ。

 その自治体──舞瀬村は、いくつもの村が合併してできた自治体で、ここには二つの山田村が存在する。合併前の旧山田村と、べつの旧村内にある山田地区だ。つまりいっぺんに二カ所の山田村を調べてもらえるのである。

 カーナビの指示どおり、きっちり一時間で舞瀬村役場に到着すると、ガラガラの駐車場にマーチを停めて、田舎にしては立派な村役場庁舎へと入っていく。なんども繰り返してるため、ほとんど無意識に用件を伝えると、対応にあたった落ち着いた感じの定年前っぽい男性職員は委任状にざっと目を通し、調べてきますのでしばらくお待ちください、と言って奥へ引っ込んでいった。

 いつものように、先野は横長の待ち合い椅子に座る。

「ここで見つかるかな?」

 当たり前みたいに先野の隣にピッタリと腰をおろすミヤコ。

「そうだな」

 回転式のガラガラ抽選器のように、いつ当たりが出るかわからない。山田村リストを眺め、まんじりと待つしかない。

 ミヤコは待っている間、暇つぶしにスマホを触ることもない。今時珍しく持っていないのかもしれない。複雑な家庭事情というのを連想した。

「あの、ちょっとすみません──」

 と、そこへ、さっきの職員が戻ってきた。

 先野がリストから顔をあげると、職員は申し訳なさげに言った。

「うちはまだ電子化がすすんでいませんで、当該地区の資料は出せたんですが、調べるのに時間がかかりそうなんですよ。手伝っていただけたなら助かるんですが」

「わかりました」

 先野はすかさず立ち上がる。自分のできることであれば、進んでやるのが探偵としてのポリシーだった。

「おい、ミヤコ、きみも手伝え」

 探偵を目指すならなんでもこなす姿勢でなければいけないし、せっかくの人手を使わない手はない。こういうことがあるから、やはり電話ではなく、直接足を運ぶべきなのだ。

「はい!」

 返事はよかった。

 職員のあとについて、奥の部屋へと入っていく。資料室から運び込まれたらしいキングファイルが会議机の上にいくつも乗せられていた。青い背中には「舞瀬村・土地登記一覧(山田地区)」とある。これがそうです、と職員。

「ほんとにすみません」

「いえ、こちらが頼んだことですから、喜んで手伝いますよ」

 先野はさっそく手近なファイルを手に取る。それを真似るかのようにミヤコもファイルをとる。華奢な手にキングファイルは重かったらしくとり落としてしまうが、拾い上げてなかを開く。

「いいか、窓村良松だぞ」

 先野は指示をだす。スマートフォンに遺言書を表示させ、

「こんな字だ」

「わかった」

 三人は黙々と調べる。古いものは和文タイプではなく手書き文字だ。代々の所有者の氏名・住所が書かれている。それを一枚ずつめくっては確認していく地味な作業だった。紙ズレの音だけが会議室に聞こえる。一冊調べ終わると脇へやり、次のファイルを手に取る。電子化されていれば一瞬で検索結果がわかるのに、予算がつかなかったのだろうか?

 数分が経過したとき、

「ありましたよ!」

 職員が叫んだ。

「どこですか!」

 先野とミヤコが頭を寄せる。

「ここですよ」

 職員は興奮を隠しきれない様子である。

 しかし……。

 そこには奇妙なことに、何人もの名前が記されていたのだった。

「これは……どういうことですか?」

 先野は職員の顔をうかがう。

「共有名義ということですが……しかしこの場所は……小学校ですよ」

「?」

 先野な頭のなかにハテナマークが浮かぶ。実業家・窓村良松と小学校の土地がつながらなかった。


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