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しんどい興信所の超常探偵  作者: 赤羽道夫
約束の地に行く方法
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三条が動く

 アポイントを取り付けようと電話をかけると、幸い先方は自宅にいて外出の予定はないという。

「今からうかがってもよろいしいですか?」

 三条愛美は相手の同意を得ると、すぐにクルマで向かった。

 閑静な住宅街。戸建ての家が占めるこの地域は、県の中心部からやや離れているものの、電車で30分程度なので人気があった。だから土地の価格はそこそこ高く、ここに家を構えようとするなら、かなりの値になるはずだった。

 窓村優元の家は、敷地面積30坪ほどの二階建てで、一階の道路に面した側のガラスブロックを埋め込んだ壁は弧を描いており、広いアトリエがあるのが外からでもわかった。アトリエが道路に近いのは、描いた絵を搬出しやすいようにだろうが、建築費のかかる注文住宅は、地価と合わせて相当にカネがかかった物件だと思えた。三条は絵画については明るくはなく、窓村優元の名もこれまで聞いたことはなかったが、その世界ではかなり有名で、よほど稼いでいるらしい。それで独身だという。嫁の来手ならいくらでもありそうなのに、性格が問題か? 穏やかだと聞いていたが、それとも年齢? 46歳……微妙なところだ。

 呼び鈴を押すと、涼やかなチャイムがなって、芸術家の家は呼び鈴の音も違うな、と思わせた。

 インターホンから、はい、という男性の声。

「さきほど電話しました、新・土居エージェントの三条です」

 インターホンに向かって告げると、

「玄関の鍵はあいておりますので、どうぞお入りください」

 そう言うので、三条は門扉をあけ、レンガを敷き詰めたアプローチに踏み込む。5メートルほどさきに玄関ドア。高さは2メートルほどの両開きのドアは、一般住宅にしては大きく、これも作品の搬出のためだろう。

 玄関ドアは見た目より軽く開いた。ひと部屋ほどありそうな広い玄関ホールに百号ほどの立派な絵画が飾ってあった。農村の風景と畑で働く人を描いた絵で、油絵の具独特の匂いが鼻孔に届く。

 左側の、半円形のアトリエに続くドアがスライドし、紺の作務衣を来た中年男性が顔をのぞかせ、かるく会釈する。

「窓村優元です。どうぞこちらへ」

 アトリエに入るよう促した。

 三条は深く一礼し、

「お邪魔します」

 靴をそろえてあがると、アトリエに入った。

 道路に面する壁が、外側からもわかったように弧を描いており、そのため部屋の面積はわかりにくかったが20帖ほどの広さはあるだろう。

 イーゼルに掛けられた製作中の絵画が存在感たっぷりであった。まだなにが描かれようとしているのかわからない段階だが、これも百号ほどの大きさがありそうだ。

「お仕事中、失礼します」

「ここへかけてください」

 優元が指し示す部屋の隅にテーブルセットがあった。黄色いイスと、アールのかかった脚のテーブルは、どこか欧州のデザインっぽい。さすがに芸術家である。

「お手伝いさんがまだ来ていないので、お茶も出せませんが」

「いえ、おかまいなく」

 向かい合って座ると、

「で、なにをお聞きになりたいわけで?」

 三条から受け取った名刺から視線をあげ、優元はおもむろに尋ねる。

「もちろん、遺言書の土地についてです」

「それについては先野さんにすべて話してありますが、担当が変わったんですか?」

「いいえ、先野は先野で調査を続けております。わたしも詳しく説明を聞きました。それでなお確認したいことがございまして、こうして朝っぱらから参ったわけで」

 お時間をとらせてしまいますが、と今一度頭を下げた。

「調査活動は続いているんですね」

「はい。依頼をお受けしたかぎりは。しかし優元さんは、あの土地は実在しない、とおっしゃったそうですね」

「そうです。お恥ずかしいかぎりですが、兄たちには遺産相続なんかで揉めてもらいたくないですな」

「お兄様たちは遺言書にある以上、必ず土地があるはずだと思ってらっしゃいますが、優元さんは、なぜ土地がないと断言できるんでしょう? 見つかってしまっては遺産争いがさらに大きくなるから、調査を中断して『土地が存在しない』ということにすればいいとお考えだったので?」

「だったらどうだというんです?」

「やはり土地はあるんですね。そしてその土地は今日にも見つかってしまう。だからこのタイミングで調査中断をもちかけた……」

 優元の眉がピクリと動くのを三条は見逃さなかった。

「もっとも、お兄様からの依頼なので断られるだろうと承知のうえで……」

「さすが探偵さんですな。なにもかもお見通しですか……。たしかに、おっしゃる通りです。土地はたしかに存在します。しかし実のところ詳しいことはぼくも知らないんですよ。具体的な所在地とか面積とか、もちろん地価も」

「そうですか……。残念、土地の場所をご存知かと思っておうかがいしたわけなんですが……。わかりました、では独自で調査を続けることにします。それはそうと……」

 三条は、ハンドバッグから取り出したスマートフォンを操作して社内クラウドに保存してあった写真を表示させる。それは先野が撮影した遺言書だった。

「ここの最後にある、この暗号のようなもの、優元さんはなんだとお考えですか?」


 東13、南6、北西8


 三条は優元の答えを待った。その唇が、数瞬の間をおいて動いた。

「さてさて、探偵さんにもわかりませんか……。むろん私にもわかりませんが。番地……ではないですか? これが手がかりなんでしょうけど、私には……」

「そうですか……」

 三条はスマートフォンをハンドバッグにしまう。

「わかりました、どうもありがとうございました」

 立ち上がり、どうもお邪魔しました、と頭を下げる。



 窓村優元邸を辞して、三条は路上に駐めてあった社用車の軽自動車に乗り込む。架空ダミーの白アリ駆除会社のマグネットデカールを剥がし、後部座席に放り投げる。

 さて──。

 本来なら先野のサブとして、リストアップされた未調査の自治体に問い合わせをするところであったが、三条はそうはせず、運転席でじっと50メートルほど先の窓村優元邸を見つめている。

 20分ほどが経過したとき、優元の運転する紺色のBMWがのっそりと自宅駐車場から出てきた。

「ビンゴね……」

 三条はクルマのエンジンをかける。パーキングブレーキを解除。そして、一方通行の道路を走り去っていくBMWを追跡しはじめた……。


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