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しんどい興信所の超常探偵  作者: 赤羽道夫
約束の地に行く方法
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足を使ってさがせ

 こんな近場でいきなり土地の所在が判明しやしないだろうが、一応、調べてもらうことにする。

 鉄筋コンクリート三階建ての古びた庁舎の前に設けられた駐車場にクルマを入れると、先野は正面玄関をくぐった。

 受付で対応にでてきた年増の女性職員に来訪目的を告げると、ああ、それでしたら、と税務課を案内された。

 そこで、窓村良松という人が山田地区に土地をもっているかどうか調べてほしい、故人の遺産を整理しているのですが、手がかりが少なく難儀しているのです、本来は遺族が調べるところなのですが、多忙故、代わりに来ました、と丁寧に告げ、あらかじめ用意してきた委任状を提示した。長男窓村竜栄と弁護士蜜山の署名・印も仰々しく。

 先野の思惑どおり、担当職員は、それはご苦労様です、と怪しむことなく理解を示してくれた。

 日本全国の持ち主不明の土地の広さは、本当かどうか、信じられないことに九州以上の面積にもなっているという。当然、それらの土地からは固定資産税は入ってこない。財政の苦しい自治体としては、持ち主の居所がわかれば税収面で大助かりなのである。

 調べてみます、と担当職員は奥へと引っ込んでいった。

 先野は長椅子に腰を下ろし、コンビニで買ってきていたペットボトルのキャップをひねって茶を口にふくむ。冷たい液体が食道を下りていった。煙草を吸いたいところであったが役場内は禁煙だ。

 待った。それにしても、これをあと何回繰り返せば目的が達せられるだろうかと、その手間を思う。遺言書にあるのだから、どこかにはあるはずだろうが。

 数分後、職員は出てきた。

「お待たせしました」と言った職員の表情は暗かった。それだけでもうじゅうぶんだった。

「データベースを検索してみましたが、窓村さん名義の土地は、山田地区だけではなく、六杉市内全域にもありませんでした……」

「そうですか……」

 予想どおりであった。こんな近くなら、もうとっくに見つかっているはずだ。

「わざわざ調べていただき、ありがとうございました。どうもお手数、おかけしました。ほかをあたってみます」

 先野は一礼する。

「見つかるといいですね」

 回れ右して出て行こうとする先野の背中に職員は声をかけた。

 先野は振り返り、もう一度会釈した。



 駐車場のクルマのなかで先野はリストを眺める。役場は時間どおりに閉庁してしまうから、今の時刻から次の候補地へ行くとなると、せいぜいあと一カ所が限度だな、とつぶやく。遠くの自治体へと調査対象が及ぶまえに、さっさと『当たり』を引かないとなかなか大変だぞ。

 カーナビに次の目的地を設定した。パーキングブレーキを解除し、先野はゆっくりとクルマを出す。

 そうして、さらに山間の町制の自治体の役場に入ったのは、もう四時半近かった。面積は広いが人口は五千人に届かない、高齢化率の高い町である。ここなら問題の土地があるかもしれないが、その資産価値となると、がっかりするような値打ちしかないかもしれない。暇そうな役場の職員は親切に対応してくれたが、ここにも窓村良松名義の土地はなかった。



 先野は事務所にいったん帰社する。社用車で来たからそれを戻しておかなければならない。

 興信所が借りている駐車場に社用車をめ、事務所のある五階建て雑居ビルへと入る。そのときには、もうここで若い女に声をかけられたことなど忘れていた。

 が、翌朝、嫌でもそれを思い出すことになった。

 朝八時半、いつもの白の上下をしっかりと着用して出勤してきた先野はエレベーターで三階に着く。今日の調査場所を頭のなかで反芻しつつ廊下をすすんで事務所の前に至って……思わず足を止めた。

 後輩探偵の原田将太はらだしょうたが、若い女と事務所の前で立ち話していたのだ。そしてその女は、昨日一階の玄関で先野に声をかけてきたあの女だった。すっかり忘れていたが、いま、思い出した。

 原田が先野に気づく。

「あ、先輩、おはようございます!」

 朝から元気よく挨拶した。入社間もない新人探偵だ。原田将太──ハラショー(良し)と呼んでいるが、仕事ぶりはまだまだ勉強中でそこはハラショーにはほど遠い。

「あ、ああ……おはよう……」

 先野が反射的に挨拶を返すと、

「今朝、出勤してきたらこの人がいて、先野さんいますかって言うんですよ。知り合いなんですか、ミヤコさんと」

 ミヤコという名前なのか……。先野は女の顔を一瞥する。服装がきのうと同じ花柄模様のワンピース。同じ服装なのは先野もだったが。

「知り合い、というのかな……。そんなことより、なんかの調査依頼があるのかい?」

「先野さんに話があったから、来た」

 挨拶ぬきで、ミヤコは単刀直入で切り出す。

「なんでおれの名前を……」

「この人に教えてもらった」

 ミヤコはハラショーを指さす。やれやれ。

「そうかい。──では、面談ブースで話を聞きましょう。その前に、依頼は直接頼まず、ちゃんと事務所を通してやるのがルールだよ」

「先輩、事務的に扱っちゃ可哀想じゃないですか。先輩に気があるから来たに決まってんのに」

「ハラショーは黙ってくれ。そんなわけなかろう、目が曇ってんのか。さっさと事務所に入りな」

「へーい」

 わかっているのかどうか、原田はおざなりな返事をすると、「新・土居エージェント」の銘がでかでかと書かれたプレートを貼ったスチール製のドアを開けて事務所に退散する。

「さて、ミヤコさん、だったかな」

 先野は向き直り、改めて確認する。

「なにかの依頼があるんですよね?」

「ネコ捜しはもうしないの?」

 先野はため息をついた。

「いまは違う案件を扱っていて、ネコ捜しはしてない」

「じゃ、なにを捜しているの?」

「それを聞いてどうするの? きみには関係ないはずだ。正式な依頼があれば話を聞くけど、そうでないならどうかお引き取りを。失礼する」

 先野は言い捨てるようにして事務所に入る。これ以上、会話を続ける気はなかった。冷たいようだが、わけのわからない話につきあってはいられない。やらなければならない仕事があるのだ。


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