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しんどい興信所の超常探偵  作者: 赤羽道夫
約束の地に行く方法
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土地をさがして調査開始

 山田村の土地──。

 なんとも漠然とした遺言文だ。故人はなぜこんな謎めいた遺言書を残したのだろう?

 先野はその点が気になった。

 その日、夕方までかかって探したが、部屋からは山田村の土地と関係のありそうなものはなにも見つからなかった。固定資産税の納税記録もなかった。あの遺言書だけが手がかりで、だから余計に不可解なのだ。

 なぜあのような書き方をしたのか。もしかしたら本人もよく記憶おぼえていなくて、ああいった書き方ににせざるを得なかったのか。三男は画家ということもあって、先代の事業には一切関わっていないことから資産を相続させず、かといってなにもないでは可哀想だからと、例の土地を相続させようというハラだったのか。

 暗号のような『東13、南6、北西8』の意味するところは皆目見当もつかないが、そこは今は無視する。なんだか推理小説のようなそれが本当になんらかの意味をもっているのかどうかわからないし、そんなものに関わっている時間はない。

 故人がどんな考えだったかは推測するしかなく、そこはいくら考えたところで答えがでるわけではない。先野は、ともかく問題の土地の所在を地道に探すことにした。

 翌日事務所に出ると、ネットで「山田村」を検索した。検索ではヒットしない自治体もあるので、日本中の市町村をひとつひとつ調べていった。自治体としての山田村だけではなく、自治体内の地区名として存在する山田村、市町村合併によって消滅したところも含めると、それは調べるだけで相当な作業になりそうだった。

 リストアップしたら、次はそれらに窓村良松名義の土地があるかを調べていかなくてはならない。自治体の役場に電話で尋ねたところで相手にされないから、直接出向いて確認するのがいいだろう、と思う。日本中に点在する山田村を虱潰しに調べるなど、たしかにこんな面倒な作業、探偵にやってもらおうなんて気にもなるというものだ。

 とりあえず近隣の県内に調査範囲をしぼった。昨日、窓村邸を辞した足でよった書店で買ってきていた地図を広げ、マーカーで印を付けていく。

 山田村は三十数ヶ所に及んだ。漏れがないようエクセルで作った一覧表を缶コーヒー片手に眺める。前途多難だな、と思った。だがネコ捜しよりは自分にとってはかなりマシな仕事だ。



 事務所を出て雑居ビルの一階玄関から出ようとすると、玄関に一人の若い女がうずくまっており、先野はギョッとする。無視して通り過ぎようとした。

「どこへ行くの?」

 いきなり声をかけられて、先野はまたもギョッとする。しかし話しかけられたのではなく電話でもしているのだろうと振り向くと、女は立ち上がっていて先野に正対した。

 かなり若い。化粧っけがなく、二十歳そこそこだろう。高校生かもしれない。袖の長い花柄模様のワンピースの裾は膝のあたりまで。走りやすそうなスニーカーは目の覚めるようなピンク。

 見覚えのない顔だった。ぱっちりとした視力のよさそうな目は、目尻がやや上がっているのが特徴的だった。過去にいた依頼者かと思ったが、こんな若い依頼者がいたことはなかった。

「きみはだれだい?」

 相手にする必要はなかったが、なぜか気になった。

「チャーミングなお姫様が、こんなところでなにをしてるのかな?」

 女の意図を探るように、おどけた口調で質問する。

「またネコ捜し?」

「…………」

 先野が何者かを知っているようだった。

「なにか依頼がおありでしたら三階の事務所へどうぞ。お力になれるかどうか、ぜひご相談ください」

 セールス文句とともにエレベーターを手で指し示す。

「ネコを捜してたよね?」

 しかし相手は斬り込むように一歩踏み出す。

 先野はふうっと息をつく。

「ああ、そういう仕事だからね。きみも迷子ネコをお捜しかな?」

 評判を聞いてやって来たのだろうか。

 ところが彼女はかぶりを振る。

「ネコ捜し、手伝うよ」

 なにを言うかと思えば。

「遊びじゃないんだ。それにこれから行くところはネコ捜しとは関係ない。べつの依頼なんだ。そんなわけだから、じゃあな」

 冷やかしか。

 先野がネコ捜しに苦労しているところを見ていて興味を抱いたようである。

 もちろん相手をする気はない。いつまでもビルの玄関で話し込んではいられない。背を向けてビルの外へ出ると、社用車の停めてある駐車場に向かった。



 近隣の──といっても県内の市町村すべてのなかから「山田」と名の付く地域をもつ自治体を順番に訪ねていくことにした。

 土地の登記については法務局が管理しているが、どこともしれない土地の所有者を探すとなると法務局では埒があかない。いちいち有料というのもいただけない。

 役場なら固定資産税の関係から地主の情報はもっている。そこで聞くのが一番だと思った。役場も持ち主不明の土地には困っているだろう。空き地や空き家がどんなことになっていても、不法侵入となるため役場の人間といえども立ち入ることさえできないのだから。たとえば道路を造ろうとしてもできないし、廃棄物が投棄されていてもすぐには対処できない。危険な構造物があっても勝手に解体できない。先野が地主がだれかを知っている、となれば調べてくれるはずだ。

 社用車のダイハツをとばし、まずは県北部の山間やまあいに近い、山田地区を有する六杉市を目指す。かつて山田村と称していた農村があった市だ。いまや田畑もつぶされ新興住宅地に変わり果ててしまって、のどかな田園風景は消滅している。もっとも、開発されたのは人口の増えていた遙かな昭和時代で、昨今では県中心部から遠いとの不便さから人口流出が起き始めているという。そんななかに遺産の土地がある可能性はどれぐらいだろうか──。

 軽自動車を走らせていると、季節はようやく秋に入ったと実感する。つい最近まで夏の暑さがしぶとく居座っていたが、やっとスーツで外出しても苦ではなくなった。ハンドルを握る先野の気分も軽くなる。

 カーナビの指示にしたがって広い国道を突っ走る。途中、牛丼屋のカウンターで少し遅い昼食をかきこんでいたりしたため(カレー屋は白いスーツの敵なので敬遠して)、六杉市役所に着いたのは午後二時をすぎていた。

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