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しんどい興信所の超常探偵  作者: 赤羽道夫
約束の地に行く方法
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遺言書の謎

 遺産相続を巡って遺族が骨肉の争いを繰り広げるのはよくあることで、人間の欲の感情がストレートに出ていて実に醜い。とりたてて資産家でもない家でもこういった揉め事はおこり、カネというのはなんとも罪深いものだ。

 裸一貫から事業を興し、一代で巨財を築き上げた窓村氏には三人の息子がいた。先野の目の前にいるのがその三人で──。

 跡取りであり、現在、窓村グループ会社を取りまとめる窓村ホールディングスで社長を勤める長男、竜栄りゅうえい、50歳。教育のたまものか、しっかりした顔つきをしている。先野に遺言書をわたしたのがこの男だ。

 同じくグループ会社の一つであり、基幹業務を担う窓村商事の副社長にすわる次男、剛覇ごうは、46歳。鋭い目つきは、寄らば斬るぞとの覇気を感じさせた。

 三男はグループ会社に勤めていない。というか、会社員ですらない。洋画家をしているという、優元ゆうげん、43歳。変わり者と一族から揶揄されているが、三男故のしがらみの弱さからか、自由に生き、毒のなさそうな顔をしていた。早くに結婚して家族もいる二人の兄と違って、独身で結婚歴もない。職場からすっ飛んで来たような隙のないビジネススーツの兄に対し、優元は紺の作務衣がよく似合っていた。

 その三人が一同に会しているわけであるが……。

「ここで問題になっているのは、三男に相続される土地です」

 長男・竜栄が切り出した。

「実はこれがどこにあるのか、わからないのです。広さも不明。どうやって相続させてよいやら……」

「権利証もないんですか?」

「はい。ですから法務局に行って登記を閲覧しないと、はっきりしたことがわからないというわけなのです。所在地がわからないでは、ホームページから調べようがありませんから」

 なるほど。山田村の土地、とあるだけではなにもわからない。所在地も所有者も。

「最後の暗号のようにある『東13、南6、北西8』というのは、なんですか?」

 先野の当然な質問に、弁護士・蜜山は残念そうにかぶりを振る。

「さっぱりわかりません。土地を特定するキーワードのように見えますが、今のところなんのことやら……」

「その土地をいつ父が手に入れたのかはわからないが、かなり昔のようだと思われます。今、どれぐらいの価値になってるか……」

 そこへ次男・剛覇が口を挟んできた。せっかちな性分のようだ。

「それをそっくり優元が相続するっていっても、もし途方もない額なら、バランスが悪くなる」

 抑えてはいるが、剛覇の語気は荒い。

 ははあ、そういうことか、と先野は察した。もしかしたら、三男への相続額がいちばん多くなるかもしれないと、そこが気になっているわけだ。土地の評価額がもしも数百億ともなれば、兄二人が相続する株式や現金を上回ってしまいかねない。もしそうなったら我慢ならない──というわけなのだ。

「遺言書には記されていますが、ここはきちんと分けて相続するべきかと──」

「ちょっと待てよ、兄さん。まさか等分にするなんて考えてないよな? 兄さんの相続額が一番多いんだから、ここはそれも考慮しなきゃな」

「なにを言ってるんだ? 優元への相続は土地だけなんだぞ。優元の取り分が多いに決まってるだろう」

「優元は人がいいから、あとで事業の運転資金にといって、横取りするつもりじゃないのか?」

「バカ言え! おまえこそ欲の皮が突っ張りすぎだ。おれはこの家を守る責務があるんだ。相続が多くて当然だろう」

「そんなの納得できないな。長男だってだけで仕切るのも気にくわない」

 なんと浅ましい。先野は閉口した。探偵業を営んでいると、ときどきこういった場面に居合わせてしまう。でもドラマを見ているようで、多少興味深い。

「まぁ、少し落ち着いてください」

 そう言って腰を浮かしかけたのは、弁護士の蜜山である。

「いま揉めてもしかたないですよ。土地が確かに存在して、かつ、換金できるのがはっきりしてから配分は決めましょう」

 エキサイトしていた兄弟は、気まずい空気を読んで押し黙る。

「換金できない、というのは?」

 先野は蜜山の言ったことに疑問を感じて尋ねる。

「はい、探偵さん。所有者がはっきりしない土地に、だれかが建物を建てて住んでいたりすると厄介です。居住権が発生し、好きに売ったりはできないんです。戦前から引き継いだ土地が在日米軍基地のなかだった、というのもありえます」

「まぁ、広い土地がずっと空き地のままなんて、なさそうですしね……」

 軍事基地ならもういっそあきらめもつく。よもや米軍を相手どって交渉なんて個人にできることではない。もっとも、手の届かない土地を遺言書に書くわけはないとは思うが。

「そういうわけで、ぜひ探していただきたのです」

 蜜山は遺族に代わって頭を下げる。弁護士としては、その土地の在処まで探し出してこそ、なのだろうが、他に仕事もあることでそうもいかないのだろう。

「わかりました。お任せください」

 先野はメモを書き込んでいたシステム手帳をパタンと閉じる。

「ところで、優元さん」

 さっきから一言も発しない三男が気になった。

「はい。なんでしょう?」

 物静かな立ち振る舞い。画家をしているといったが、残念ながら窓村優元という名前を先野は知らない。どれだけ有名か、描いた絵にどんな価格がつくのか興味をそそられたが、とりあえず今は関係ないのでそこには触れない。いずれ時間があるときに調べてみてもよかった。

「優元さんはこの遺言についてどう思ってらっしゃいます? あるかないかもわからない土地だけを相続することについて、なにか知っていることはおありですか」

 優元は首を傾げる。

「さぁ……なにも知りません。父の決めたことですし、僕としてはおカネにこだわりません。好きな絵を描ける生活で満足しています」

「とくに不満はないと?」

「はい」

 キッパリと言ったその目が、なにか小さく光を宿しているように感じたが、

「そうですか……。わかりました」

 では、と先野は立ち上がる。

「どなたかの立ち会いのもとで、ご主人の部屋を調べさせてください。なんらかの手がかりがあるやもしれませんし」


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