プレイボーイの資質とは
女の名前は得山みのり。パロッティーニ悠也とは、ネットの出会いサイトで知り合って、会うのはこの日が初めて。職業、看護師。この日も病院に勤務していた。病院勤めのため、勤務は不規則なうえ出会いがぜんぜんなく出会いサイトに登録していて、これまでなんにんもの男とあってきたが恋人にまで発展したつきあいはない。24歳、看護専門学校卒。
原田翔太の報告を聞いて、よくそれだけ調べられたな、と先野光介は感心する。
ぼんやりと立っていた女に、だいじょうぶですかと話しかけ、聞き出したうえ、その出会いサイトにアクセスして情報を引き出したのだそうである。
ダイニンングバーで楽しく飲んでいたのだが、どういうわけか、そんな記憶がないという。酒に酔ったか?
だが、だとしたらひどい男だ。酔った女を放置するなどと。
しかし、となると、パロッティーニの浮気相手、というわけではなくなる。いってみればゆきずりの女だ。パロッティーニは女と別れた後、まっすぐ家に帰っていた。
浮気、ではないのか──。
これはまだまだ調査を継続する必要がある。ターゲットの行動をきちんとつかまなければ──。
翌日、先野はまた自宅を張った。
行動パターンがまだ読めなかった。
昼間は昨日同様動きはなく、夕方になってから外出した。
先野は、昨日とは違うカジュアルな服装でパロッティーニ悠也を尾行する。
ツツジの咲く季節であった。面がわれてしまうのを恐れて顔をマスクで覆っていると却って不自然な陽気で、服装も分厚い上着で体型をごまかせない。せいぜいグレーのパーカーで、眼鏡をかけての追跡である。
依頼者とのデートがおとついで、これで三日連続の外出だ──いや、それ以前から毎日のように出かけているかもしれない。
電車を乗り継ぎ、昨日の繁華街に現れる。
そして、まるで昨夜の再現ビデオを見ているかのように、女と落ち合い、バーに連れ込んだ。昨日とはべつの女で、入ったバーも昨日とは違う店だったが、行動パターンは同じだった。連れているのは女は大人っぽい黒を主体とした服装で、ボレロの胸にブローチが光っていた。スリットの入ったタイトワンピースからでている足首に、高めのビールがはまっていて、マスカラもばっちりなメイク。これからキャバクラに出勤するキャバ嬢、といわれても不自然ではない雰囲気だった。
原田とともに様子を監視していると、バーを出た二人は、しばらく歩き、通りを一本へだてたホテル街へと移動した。そして手近なところへ入っていった。
「これじゃ、朝まで出てこないかもしれませんね」
ネオンサインが光るホテルの前で、原田がうんざりした声音でつぶやく。徹夜で張り込むなんてやってられないよ、とその目は訴えていた。
ううむ……と先野はうなった。
「こんどこそ、本当の浮気相手なのか……」
「どうします?」
「そうだな……」
少なくとも二時間は出てこないだろう。原田のいうとおり、朝まで出てこないかもしれない。
「とりあえず、おまえは先に帰って休め。ただし、おれはここで見張ってるから、事務所で交代要員を確保してくれ」
「わかりました!」
敬礼する原田、回れ右して去っていく。スキップでもしそうな足取りの後ろ姿を、先野は忌々し気に見送ると、再びホテルへと視線を向ける。5階建てのホテルの、カーテンの閉じられた窓にはどれも明かりがついていた。
こんな夜中にいつまでも路上で立っていたら職務質問されてしまう。もっとも、警察は事情を説明するとたいがいは見逃してくれるが。それよりも、一晩中、屋外での張り込みは体力的にもきつい。
交代要員が来てくれたら、どこかの24時間営業のネットカフェで仮眠をとることもできるのだが……などと考えていると、やってきた1台のクルマがすぐそばに停止した。見覚えのある白のプリウス。ドアミラーの小さな擦り傷は、以前、先野がつけたものだ。
「乗ってください」
社用車の運転席の窓ガラスが開いて顔を出してきたのは、同じ興信所の探偵、三条愛美だった。ときどきペアで仕事をしたり、サポートをしたり、してもらったりする間柄だった。先野よりも一回り若いが優秀だとだれもが認める社のホープである。
先野は社用車の助手席に乗り込んだ。
「すまんな」
「手こずっているようですね」
「まぁな。浮気というより、単に一夜のアバンチュールを繰り返してる、という感じだな、今のところ」
「でも依頼者にしてみれば、いつ遊びが本気になるか気が気じゃないでしょうね」
「だろうな。だれだって『棄てられてしまうかもしれない』とは思いたくはない。なんだって、よりによってあんな男に惚れちまうんだろうな……」
「理屈に合わないのが恋というものでしょ。だからわたしたちの仕事がある」
「若いのに、達観してるなぁ……」
なにかあったのか、と余計なことを聞こうとしたとき、
「あ、だれか出てきたわ」
三条が言ったとおり、ホテルからだれかが出てきた。
目をこらすと、
「ターゲットだ」
パロッティーニ裕也が一人でホテルから出てきたのだった。
時刻は午前1時。終電の時間はすぎており、今から外へでてもタクシーでも使わないかぎり帰宅できない。
「コンビニで買い物かしら?」
「つけてみる」
前日と同じだった。女を置いて一人で去っていく──。コンビニに行ってまたホテルに戻る、という三条の考えは常識的ではあるが、たぶんそうではない、と先野は睨んだ。
あとは頼むと三条に言い残してドアを開け、パロッティーニを尾行する。
昨日は家に帰ってしまったが、今夜はどこへ行くつもりだろう……。
帰宅はしないだろう。もし帰宅するなら明日の朝でもいいはずだ。こんな真夜中に帰宅する意味がわからない。
別の女のところへ転がり込む? それも妙だった。こんな時間に歓迎してくれるとは思えない。職業やなにかの事情でこんな時間に起きている女もいるだろうが、その可能性はかなり低いだろう。
単純な浮気調査だと高を括っていた先野であったが、意外にも男の尻尾が捕まらない。
──こうなったら、意地でも今夜の行き先を突き止めてやる!
先野は執念を燃やした。




