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しんどい興信所の超常探偵  作者: 赤羽道夫
ロミオとジュリエットと人形の話
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三条愛美の受けた依頼とは

 人形を探してほしい──という依頼であった。

 モノを探してほしい、という依頼は、ときどき舞い込む。

 コアなコレクターが八方手をつくしてもままならなかったアイテムがどうしても欲しいとか、家人が誤って売っぱらってしまった国宝級の古美術品を買い戻したいとか、もう生産されていないメディアの再生装置が必要なのだとか、理由はさまざまだ。

 で、今回は人形──。

 ただの人形ではない。

 写真を見せられたとき、先野は言いようのない悪寒が背筋を登っていくのを覚えた。

 日本人形である。着物を着たおかっぱ頭の少女だ。ガラス玉の目が大きく、なにかを凝視しているかのよう。

「こいつはなんだ?」

 先野がストレートに尋ねると、三条は説明した。

「江戸時代の中期、岸浜仁左衛門という人形作家が作った人形だそうです」

「聞いたことないが、そういういわれのある品なら、かなりの値打ちがありそうだな」

「希少価値はあるでしょうが、ネットで調べても出てきませんでしたから、それほど有名ではないのかも」

「ネットのオークションサイトにも上がってないから、興信所を頼ってきたんだな」

 ネットで解決するなら苦労はない。

「古物商をしらみつぶしにあたってみるしかなさそうだな」

「はい、そうです」

 なんのひねりもなく、三条は肯定した。

「県内の古物商を手分けして聞き込みましょう」

「わかった」

 探偵というのは非常に地味な仕事だ。ミステリー小説に登場する、殺人犯人のトリックを見事に解明して事件を解決する、というのは架空の存在だ。探偵が犯罪捜査に協力するというのは、まったくの皆無ではないにしろ、そんな希有な経験などしない探偵がほとんどだ。先野も警察に頼られたことはない。職務質問されるのは日常的だが。

 地図を広げて、三条が説明する。

「県を東西に分けて、東側を受け持ってくれます? はい、これ、タウンページね」

 机の上にうずたかく積まれた県内全市町村の黄表紙を一冊手渡す。

「ひとつ聞いていいか?」

 電話帳を受け取り、先野は尋ねる。

「ちなみに、依頼者はどんなやつなんだ?」

 こんな気味の悪い人形が欲しいとは、どんな趣味なんだろう、とその為人ひととなりが知りたくなった。

「60歳ぐらいの男性でしたね。なんかすごく存在感のある人で、きっと起業家かなんかじゃないですか。興信所うちを利用する人は、だいたいお金持ちが多いですし」

「社長なら、それなりのオーラを放ってても不思議じゃないか……ほかにはなにか気づいたことは?」

 そうですね……と、三条は、

「飲み込まれそうな雰囲気が、なんだか普通じゃなかったですね。あんな感じの人、まるで芸能人のようです」

「芸能人ね……。人を引きつけるものがあるとな……一種のカリスマ性をもってるってこことか……」

 市井の人間とは違う思想をお持ちのようだ、と先野は肩をすくめた。



 二人して電話をかけまくった。

 岸浜仁左衛門が製作したという人形はありませんか──。

 うちにはないですね、とはっきり言う店はリストから消していくが、曖昧な返事や、古い日本人形ならあるが作者までは……という店は、あとで訪ねていかなくてはならない。

 こうして午前中をかけて数十軒の古物商をあたってみたが、「ありますよ」という返事はどこからももらえなかった。

「あとは現地でこの写真を見せて、あるかどうか直接聞くしかないな」

 先野は手書きのリストを眺める。

 カラーコピーした人形の写真を手にして、三条は先野を振り返る。

「じゃ、行きますから、着替えてください」

「言われなくても着替えるさ。今日が初めての仕事じゃないから、わかってるだろう」

「一応、確認したんですよ」

「信用しなよ、ベイビー」

 先野は人差し指を突きつける。三条は無表情だった。


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