表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しんどい興信所の超常探偵  作者: 赤羽道夫
エアな奈々子
4/231

恋人はどこに?

 雑踏のなか、背の高いビルの間をぬけていくと、巨大なオブジェが目印の五階建てのショッピングモール入口付近の広場まで来た。人待ち顔の男女が大勢いた。ガイドブックにも紹介されている待ち合わせスポットだ。

 この季節、クリスマスも近いせいで、モールの壁面はイルミネーションで飾られ、夜になればさぞかし華やかに見えるだろう。入口は買い物客の出入りが激しかった。これだけ人出があると、尾行にも気づかれにくい。好都合である。

 所田明二は入口付近でたたずむ。見上げるオブジェには時計がついており、時間は十時五十分。待ち合わせ時間は十一時とみた。

 先野たちは待ち合わせ場所から少し離れたところに位置し、会合を待った。きょろきょろしている所田明二と目を合わせることのないように、壁ぎわに立ってスマホをいじるフリをしつつ、ときどき視線を送って観察する。

 十一時になった。ショッピングモールのオブジェに設置された時計が鐘の音を鳴らし、機械仕掛けの人形が登場してくるくると回って、思わず見とれてしまう。

 と、明二が動き出した。

 奈々子が来た──。

 先野は緊張した。どんな女なのだろう、と目を細める。

 が、明二は一人でショッピングモールへと入っていくではないか――。

 不審に思いつつも後を追う。人ごみに紛れて尾行はしやすかったが、逆に見失ってしまうこともあった。注意して尾行する。

 ショッピングモール内であちこちの店舗を見て回る明二。だが、相手はまだ現れない。

(時間をつぶしているのか……? それにしては……)

 明二の表情を見て、先野は不審に思う。

 そのうち正午になった。明二は四階レストランフロアのイタリアンにひとりで入っていった。

 色鮮やかな料理サンプルが飾られているイタリアンレストランの前で、先野と三条は合流する。

「奈々子さんが未だに現れないのは、こちらの尾行を感づいたからでしょうか?」

 三条は明二の行動に首をひねる。

「ばか言え。麻薬クスリの受け渡しをしているわけでもあるまいに。それに、ターゲットの表情を見たか? 楽しそうにして、いかにもデートの最中って顔だぜ」

「でも……」

「だからおれも不思議に思ってるんだ」

 ドタキャンをされたなら、うろうろせずに帰ってしまうだろう。奈々子が来るのが遅れている?

 今日はデートではなかったのか。

 そう思うのが常識的だろう。しかし、先野にはなにかひっかかるものがあった。

「ともかく、まだしばらく様子を見よう」

 と、先野はそう言うしかない。今日は終日そのために時間をとってあるのだ。奈々子が現れて、どこに住んでいるのかまでつきとめたい。

 一時間ほどして明二が店から出てきた。今度はどこへ行くのだろうかと尾行を続けると、ショッピングモールの最上階へとエスカレーターを上がっていった。シネコンがあった。

 フロアはいくつものスクリーンに分けられ、複数の映画が上映されている。ややひかえめな照明のロビーにチケット発券機が並び、ポップコーンや飲み物を売るカウンターの前に客が群がっている。

 どうやら座席を予約をしてあったようである。いくつかある映画のどれを見るつもりなのかと思えば、話題のヒット作で、しかもこれはまさしくカップルで見るようなベタベタの恋愛映画だった。一人で入るにはイタいぞ、と先野には思えた。

 所田明二が劇場内へ消えていくのと同時に、三条が先野のもとへとやって来た。

「ターゲットはこちらの尾行を感づいて、それでこんな偽装をしているのでしょうか?」

 そう言う三条も、その意見に自信がない様子だった。

「それはないだろう。ターゲットの行動はすべてが予定どおりだ」

「でも、へんですよ」

「同感だ」

 今日は奈々子と会うわけではなかったのか……と先野は首をかしげた。しかしそれでもこの行動は奇怪だった。明二はよほどの映画好きだということか――そんな情報はもらっていなかったが。

 映画が終わるまで待つことにした。途中で出てくる可能性があるため、シネコンの出入り口で、交代で休憩をはさみつつ、さも見る映画の上映時間を待っているふうで。

 二時間が経過した。大勢の客にまじって田所明二は一人で出てきた。シネコンの中で奈々子と落ち合ったのかと期待したが、それははずれた。

 そのまま帰るのかと思えば、また階下の店舗を見てまわる。いったいなにが目的なのかわからない。しかし遠目で見る限り、楽しそうだった。

 そのうちある店に入った。靴屋だった。しかも女性向け専門の。

 出てきたときには商品を持っていた。プレゼントにしては、本人の足に合うかどうか確かめずに買うとは不可解である。いや、すでにサイズや好みを知っているのか。

 その後も長い時間一人でうろついて、一人で喫茶店で休憩し、また一人でうろついて、ショッピングモールを出たときにはもう夜になろうとしていた。

 今度はどこへ行くのかと見ていたら、駅までもどり地下街へと入っていった。レストラン街である。この時間、まだ宵の口であるためか、どこも店もそれほど混雑していない様子だった。店の前に置かれた待ち客用のイスにすわっている人はほとんどいない。

 所田明二はしゃぶしゃぶ店に入っていった。ここもあまり一人で入るような店ではない。もっとも、最近は一人で堂々と入る者もいるので奇異だとは決めつけられないが……。

 ターゲットの一連の行動は、「奈々子がドタキャンしたものの、いろいろと予約をしており、仕方なく一人で」と理解できなくもない。というか、それ以外にはなさそうである。

「三条さん、もう帰ろう」

 店の外で、明二が出てくるのを待つ三条に、先野は今日の仕事の終了を宣言した。

「え? 先野さん、彼が帰るまで尾行しないんですか?」

「おそらく今日、彼女は現れないだろう。残念ながら空振りだ」

 先野はふっと吐息を漏らし、歩きだす。

 だが三条はまだその場から動かない。じっと店を見つめていた。

「どうした、行くぞ」

「あ、……わかりました」

 先野にせっつかれて、三条はその場を離れた。歩きつつも、だが店からなかなか目が離せなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ