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しんどい興信所の超常探偵  作者: 赤羽道夫
カネの成る木をもつ女
37/231

ストーカーは現れず

 半月がすぎた。

 蒼宮麗亜が始終感じていたという誰かの視線はぱったりとなくなっていた。

 そして調査終了。

 興信所「新・土井エージェント」の面談コーナーで、ストーカーはいなかった、という先野光介の報告に、麗亜は納得して帰っていった。

 先野は捻挫が癒えるまで五日間休んだが、その後は元気に復帰してストーカーの調査活動を再開した。麗亜のボディガードとしてしっかり張り付いていたが、一度もストーカーの気配を感じることはなく、依頼を引き受けたときから予想していたとおり、やはり妄想にすぎなかったのだと結論した。

「調査期間の後半は妄想も出なくなったようだしな」

 面談コーナーから事務所に戻りながら、先野は同席していた三条愛美に感想をもらす。

 そうですね、と応じる三条は、

「ところで先野さんは、宇宙人はいると思いますか」

 唐突に質問した。なぜかはわからないが、そう聞きたかった。

 なにか大事なことを見聞きしたような気がするのだが、どうにも思い出せないのだ。先野から話を聞くことでなにかを思い出せるかもしれないと思ったのだ。しかし、なぜ宇宙人? そんなこと聞いてどうする?

「なんだい、取り留めもない」

 まったくその通りである。

「いえ、宇宙は広いし、人間より遥かに進んだ文明を持つ宇宙人がいてもおかしくない、と思いませんか?」

「ふうム……」

 仕事も決着したことだし、雑談につきあってもいいか、と先野はうなずいた。

「いないだろうな、というのが、おれの見解だ」

「へえ……」

 三条には意外だった。先野なら肯定するだろうと予想していたのだ。

 先野は持論を展開する。

「宇宙には生命のいる惑星はたくさんあるだろうさ。だが科学文明を持つ知的生命となると、ましてや宇宙を自由に行き交うとなると、いないと思う」

「でも銀河系だけでも2000億以上もの恒星があるのに? 地球にだけしか知的生命がいないというのも、ありえないと思うんですけど」

「そう思いたいのもわかるがな。地球の生命は誕生から30億年以上、バクテリアだった。30億年もだぞ。進化というのは始まりにくい事象なんだ。やっとのことで始まった進化も、どこへ向かっていくのか場当たり的で、決して知的生命を生み出すのを目的としていない。恐竜は一億年以上も地球を支配していたのに、ついに文明を獲得できなかった。知的生命の人間の誕生は偶然にすぎない。その人間だって、有史以前何度も絶滅しかけた。知的であることは種の存続に必ずしも有利ではないんだな。生き残ったのは運が良かっただけだ。人間が絶滅したら、地球には二度と物質文明を生み出せる生き物は現れないだろうと、学者も言っている。地球に人間がいるのなら、宇宙のどこかに高度な文明を持つ種族がいるだろうというのは、中国にパンダがいるなら南米にもパンダがいるはずだ、というのと同じだよ」

「でも、世界中で宇宙人との遭遇が報告されているし」

「だったらニュース番組で取り上げられないのはどうしてだ? まさか政府の圧力がかかってるとか、バカなこと言うわけじゃないだろうな。宇宙人は地球になんか来ちゃいない」

 先野の理屈はわからなくもなかったが、宇宙人がいない、という証拠があるわけでなく、すべては可能性の問題なのだ。結論の出ない議論を続けるのは、単なる暇つぶしであり、遊びにすぎない。三条は、

「それはそうですね」

 と、会話を打ち切った。わずかに期待していた〝なにか〟を思い出すことはなかった。

 財布の中に入っていた覚えのない数枚の一万円札が関係があるのではないか、と思わなくもなかったが、なんの関連も考えらず、ただの思い違いと片づけるしかなかった。


  ☆


 カレは、突然去っていった。

 理由はわからない。ある日、連絡がつかなくなり、それっきりだった。

 わたしのなにが気に入らなかったのだろう?

 思い返すが、心当たりがない。

 あるいは、カレの都合なのかもしれない。なんだか変わった感じの男性ひとだったから──食事のとき、おかわり自由のパンを二十個も食べたり、デザートのライチを皮ごと丸呑みしたり。

 わたしとの付き合いは、ほんの気まぐれだったのかもしれない。

 よくあることだった。金持ちは、普通の感覚の人じゃないし(ヘッドフォンでなにを聴いているのかと携帯プレーヤーを聴かせてもらったらお経だったりした)、あれこれ考えても詮無い。

 幸い、ストーカーの気配もなくなったし、新しい男をつかまえなきゃ──。

 蒼宮麗亜は前を向く。次の恋を探して、次の金づるを探して。



【カネのなる木を持つ女】(了)

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