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しんどい興信所の超常探偵  作者: 赤羽道夫
キツネの嫁入り
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伏見稲荷にはキツネがいて

 京都で最も安いランクのカプセルホテルの狭い棚は、毛布にタバコのにおいが染みついていた。

 夜が明けているのにも関わらず薄暗い部屋で目が覚めた先野光介は、時計が八時をすぎているのを知り、苦笑した。

 ゆうべ、飲みすぎたか――。

 カプセルホテルのベッドで、聞き込みに入った酒屋で買ったウイスキーを飲みつつ、酔った頭でメモをじっくりと眺めて、捜索のパターンをあれこれと検討しているうちに眠り込んでしまった。

 すでにチェックアウトした部屋から聞こえる掃除機の音で目が覚めてしまうとは、我ながら情けない。

 量は少ないとはいえ、アルコール度の高い酒を飲んだせいで、酔いつぶれてしまった。

 先野は机の上の空きビンを片づけると、いやに寒いシャワー室でシャワーを浴び、いくぶんすっきりとした気分でホテルを出た。

 伏見稲荷神社は、京都駅から南に三キロほど離れたところ、クルマなら十五分とかからない場所にある。

 JR奈良線・稲荷駅は一番近い最寄駅である。

 平屋建ての駅舎を出ると、先野は大勢の参拝客に流されるようにして、正面に見える大きな朱の鳥居に足を向ける。稲穂をくわえた逆立ちのキツネの像(狛狐?)を横目で見て、大鳥居をくぐった。

 まだ九時だというのに人が多い。ガイドブックやネットではパワースポットとして超有名なだけあって、外国人がやたらと多かった。どこの国のともわからぬ言葉が飛び交っている。

 彼らとともにやや上り坂の石畳の参道を歩いていくと、立派な朱の楼門が参拝者を出迎える。楼門の左右には、シンボルである狛狐がカギをくわえていた。さすがに全国にある稲荷神社の総本山だけあって、あちこちにキツネがいた。台座に「奉献」とある。

 山の上へと視線をあげれば、一面の紅葉が見事だった。鮮やかな赤黄と快晴の青空とのコントラストは目に焼き付くよう。みんながスマートフォンや一眼レフで写真を撮っている。

 ここまで境内を見回すが、サオリはいなかった。もっとも、これだけ人が多いと見逃している可能性もなくはない。注意深く見回す。手水場、賽銭箱の前、人の集まる場所を注視する。

 ――いない。

 左手の階段を回り込んでいくと、左手に社務所、右手に本殿など。さらにその向こう側には、あの名高い千本鳥居へと続いている。

 境内は広い。

 もしサオリがここでも、半年前の公園と同じ行動をしているなら、人の絶える夜中や早朝もここにいたはずである。

 先野は売店に寄る。お守りを買い求める客が群らがっていた。客が絶えたところを見計らって、売り子に声をかけた。

「あの……すみません」

「はい、なににいたしましょう?」

 巫女姿の若い店員がにっこりとほほ笑む。

「ちょっと聞きたいんですが、最近、この境内にずっと一人でいる女の人はいませんでした?」

 この売り場からでは本殿前ぐらいしか視界に入らないが、聞いてみた。

 すると、ああ、と売り子は心当たりがあるようだった。

「この人ですか?」

 念のため写真を見せた。

 写真を見た売り子は、そうです、この人です、と言った。

「朝から晩までずっといましたね……。わたしのバイトが終わっても、まだいました。けど……」

「けど――?」

 嫌な予感がした。

「二、三日前から見かけなくなりましたね」

 売り子はこたえた。嘘ではないだろう。

 一歩遅かった。先野はほぞをかんだ。

「だれなんですか?」

 気になっていたようで、売り子は訊いた。

「ぼくは施設の者で、施設から行方不明になったんで、探していたんです」

「そうだったんですか……」

 怪しまれないような作り話を信じて、売り子は同情してくれた。

「どこへ行ったか、わかりますか?」

 売り子は残念そうにかぶりを振った。

「ごめんなさい。そこまでは……。そうと知っていたら、もっと気をつけていたんですけど……」

 性格の良い娘だ。

「いえ、どうもありがとうございました。あ、これをひとつください」

 先野は、大願成就の御守りを買い、ついでにおみくじを引いた。せっかく京都くんだりまで来たのだ、神に頼ってでも、サオリの居場所をつきとめたい気分だった。

 会釈をして、その場を去る。

 行き詰ったな……と、先野はつぶやく。

「この周辺で徹底的に聞き込みをするしかないな……」

 そして、せっかく来たのだからと、千本鳥居をくぐって山の上まで行ってみるか、と思った。山の中はさぞかしもっと紅葉がきれいなことだろう。途中の社で祈願すればいいさ。

 その前に、おみくじを開いた。

 中吉

 探し物 見つかり難し

「くそっ」

 小さく毒づいた。

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