探偵は手がかりを探す
「先野さん、この案件、どう思います?」
依頼者が帰ると、三条が聞いてきた。
先野は即答した。
「彼女は根っからの風来坊だな。性格がそういうものなのか、はたまた精神障害か、あるいは発達障害かもしれん。いずれにせよ、風変りな女だ。ただ、証拠をあちこち残しているだろうから、探しあてることは不可能じゃないだろう」
「そうですね」
三条はうなずいた。先野の分析はまずまずだった。
捜索プランを検討するための打ち合わせを二人でした結果、まずはサオリの手がかりを集めるために、依頼者・番藤の自宅へ行くことから始めることに決まった。
依頼者の都合を聞いて、休日に訪ねることとなった。
番藤の住むマンションは、古びた三階建てで、最寄り駅からかなり離れていた。バスを使ってもよかったが、サオリが暮らしていたこの街並みを見ることで、少しでも手がかりになるようなものが記憶に残るかもしれないと、先野と三条は二人してメモを片手に歩いた。寂れた商店街、同じ長屋が並ぶ公営住宅の区画、小学校、ゴルフ練習場、ドラッグストアなどの横を通り、マンションに着いたのは、ほぼ時刻どおりだった。
とうぞおかまいなく、と念を押したにも関わらず、番藤はお茶とお菓子を用意してくれていた。
そして、サオリの残したさまざまな品物。二人は、お茶にすら手をつけず、それらを一心不乱に調べた。
本、コスメ、衣類、その他の日用品。そして番藤からは、サオリのプライベートについての知っている限りの情報を聞き出した。
二時間ほどかけて、わかったことを丹念にメモし終わると、分厚い手帳を閉じ、
「サオリさんは必ず見つけ出しますよ」
先野はそう言って、三条と共に辞した。
調べた結果、先野と三条は、いつまで待ってもサオリは戻ってはこないだろうという、同じ結論に達していた。残された品物があまりに少ない。もともと持ち物の少ない女だったが、もし戻ってくるならもっと多くの品々が残されているはずだった。ここでの生活の再開を考えていない、と判断できた。
ただ、番藤のもとを去った理由まではわからなかった。それについてはまったくの謎で、番藤と同じく首をかしげるばかりだった。
だから、サオリに会えたとしても説得は苦労するかもしれない。まさか性転換をしたからとか、という理由ではあるまいな、と先野は冗談を言った。
ともかく、サオリに会わなければ、話は始まらない。
「で、どこをあたります?」
「おれは京都だ」
先野はすでにサオリの行き先にアタリをつけていた。
京都のガイドブックが残されており、番藤も、サオリは京都について調べていたと言った。これ以上、確実なことはないだろうと思った。
「なら、わたしは東北に」
三条も同様に手がかりをつかんでいた。
山形県がサオリの故郷だった。それも番藤に聞いた。住所まではわからないが、村の名前まではわかった。都会の生活に合わず故郷に帰ってしまった、というのもあり得る話だ。番藤はその村に行こうとしたが、そこに帰っているという確証もなく行きそびれていた。
「じゃあ、二手に分かれての捜索だな」
「そうなりますね」
「一人ではなにかと心細いかもしれんが、プロの探偵なんだから、なんとか乗り切ってくれたまえ」
「わかりました」
三条は素直にうなずいた。
「では、おれはこれから京都に行く」
「今からですか!?」
高らかに宣言した先野に、三条は目を丸くした。
「探偵の仕事にはスピードが大切だよ。依頼者は一刻も早く結果が知りたいんだ。それに応えるのがプロたるもの」
おれを見習えと言わんばかりのドヤ顔。たしかに発言は立派であり、その通りではあるけれども――。
「わたしは準備がありますので明日出発します。レンタカーを確保しなければなりませんし、なによりこの時間ですと現地到着は夜になるでしょうから」
京都とちがって、山形となるとさすがに遠い。そして実はこのあとネコ探しの依頼が入っているのだが、そのことは黙っていた。
「そうか。ま、余裕こいてターゲットの足取りを逃さないよう、がんばってくれたまえ」
先野は意味深な笑みを浮かべた。
三条には、締まらない半笑いに見えた。




