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しんどい興信所の超常探偵  作者: 赤羽道夫
見る夢は異世界かもしれない
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目覚めの違和感

 その声は、どこかから発せられていた。誰の声かもわからない。

 ──ここはあなたの世界ではない。早く戻らなければ。

 視覚的イメージが固定される。

「誰なの? どういうこと?」

 ──私がなんとか修正をします。今しばらく待ってください。

「だから、なんのことなのよ?」

 ──私は……

 そこで目が覚めた。へんな夢だった。夢に出てきたのは見知らぬ男性だ。だがどんな外見だったか、ぼんやりとして思い出せない。

「まぁ、いいか……」

 夢のことだし。たいしたことではない。

 わたしは上体を起こし、ベッドを出る。

 すぐ隣のベッドで眠っている夫を見て、すごい違和感を覚えた。

(なんでわたしの隣でこの人が寝ているのだろう?)

 そんなことを思ってしまい、そしてこの人が夫であり私立探偵である先野光介であると認識すると、さらに違和感が増した。

 しかし、その違和感の正体がわからない。そもそも、なぜ、そう感じるのか。

 結婚して何年もたつ。今さらそんな感覚に戸惑った。

 夢のせいだろう──そう結論した。

 目覚まし時計に目をやると、時刻は八時である。早く起きる必要がなかったから、今日はアラームをセットしていなかった。

 寝息を立てる夫を起こそうと右手をのばそうとして、その手が止まる。触れるのがためらわれた。嫌悪感、とは違う。というより、親しみがないような気がしたのだ。

 そんなばかな、と理性が訴える。

 しかし、体は一瞬だがぞくりとした寒気に襲われたのだ。

「……………」

 わたしは夫の顔を見る。造形のよくない、動物園で惰眠をむさぼる獣のような印象を抱いてしまった。

 わたしは毎日この部屋で夫と寝起きしているのに、このしっくりしない非現実感は、夢のせいにしてはリアルすぎる。

 手早く着替えると、わたしは冷静になろうと部屋を出てキッチンに入り、冷蔵庫からよく冷えたミネラルウォーターを取り出して、いつも使っているグラスに注いで一気に飲みほした。

 大きく息を吐くと、少し落ち着いた。

 朝食の準備にかかろう。

 そう思っていると、ドアが開いて、夫がダイニングキッチンに入ってきた。

「おはよう」

 と言う。もう着替えていた。

「あ、ごめんなさい。まだ朝食が準備できてないの」

「いや、かまわないよ。手伝おうか」

「いいわ、座ってて。すぐに用意するから」

 わたしは冷蔵庫を開け、昨日の夜に残りの筑前煮を取り出し、電子レンジで温める。

「今日はどこへ出かけるんでしたっけ?」

 その間、プレーンオムレツを手早く作る。

「うん、盗難にあったという焼き物を探しにね。警察に盗難届を出して家族に知られると困るってのは、よほど高価なものをこっそり買ったんだろうな」

 そんなものだから、どこかの古美術商に売られてしまっているに違いない。そこを丁寧に一件一件調べていくしかないのだった。

「だから、きみにも手伝ってほしい」

「わかりましたよ。手分けして探しましょう」

 食器棚からプレートを取り出し、オムレツを載せ、ミニトマトとレタスを添えた。二人分。筑前煮の鉢といっしょにテーブルに置いた。それとご飯。

「もしかしたら、国宝級のものだったりして」

 わたしはテーブルにつく。

「うーん、もしかしたら、そうかもしれないね。なにせ探偵を雇うとなれば、かなりの料金が発生するからね。それを払ってでも取り戻したいとなるなら、相当値が張るものでないと割りが合わない。いただきます」

 夫は手を合わせ、箸をとる。

 違和感は消えていた。やはりあれは夢の残照ともいうべきものだったのだ。わたしはこれからも光介の妻として生きていく。なにも不自然なことはない。

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