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しんどい興信所の超常探偵  作者: 赤羽道夫
会いたい人はいますか
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妻と会っていたのは

ある日、塔山雄哉とうやま ゆうやは、妻の香代かよの行動を不審に思いだす。


浮気をしているのではないか、と疑い、興信所に依頼してきた。


探偵の先野光介さきの こうすけは、三条愛美さんじょう まなみとペアを組んで香代を尾行するが、調査は意外な方向へとつながっていく。


探偵が見た真実とは。

 結婚して三年といえば、そろそろ夫婦仲が変化する頃である。

 新鮮さが失われ、お互いに、慣れと飽きと本音が現れる。そこでぎくしゃくするか、それとも円満に保てるかは人それぞれだろう。たまりにたまった不満が解消されなければ離婚に至るし、居心地の良い関係が築けていれば長続きする。どうなるかは本人にもわからない。

 塔山雄哉とうやまゆうやにもわからなかった。というより、夫婦間に危機が訪れる心配なぞしたことがなかった。妻の香代かよを疑うときが来るとは思ってもみなかった。

 つい最近までは――。

 思い返せば、些細な変化だった。

 香代のスマホによくメールが入るようになった――。

 それに気づいていながら、雄哉はなにもただそうとはしなかった。着信音が鳴らなくてもマナーモードにしていればバイブレーション機能が働いて静かな室内にいればわかってしまう。以前は滅多にメールなど入らなかったのに、どういうわけか急に頻繁にメールが入るようになった。

 不審には思ったものの、プライベートに踏み込むのも遠慮があって気づかないふりをしていた。

 それぞれ仕事を持っていたため、日中、外でなにをしているのかは知る術がない。残業で遅くなったと言われれば、そうかと納得するしかないし、わざわざ訊くこともなかった。

 そんな関係の夫婦だった。

 そのうえ雄哉は鈍かった。だから香代の態度や表情のちょっとした変化も気がつかなかった。

 ところが、そんな雄哉でもついに決定的な現場を目撃することとなったのである。



 その日、たまたま取引先から直帰してきた雄哉は、いつもよりかなり早い時間に帰宅した。そのことをいちいち香代にメールしなかった。今日の夕食の用意をする当番は雄哉だったし、とくにメールする必要を感じなかった。

 五月も後半に入って、ずいぶん日が長くなっているせいで、この時間でもまだまだ明るい。

 駅前のスーパーで、割引されていた総菜を買って帰ろうとしたときだった。前を歩く香代を見かけた。今朝着ていった夏用のグレーのスーツにパンツスタイル。

 おーい、と声をかけようとした雄哉だが、香代の隣には見知らぬ若い男がいて、上げかけた手を下げた。ジーンズに濃緑のジャケットというカジュアルな服装の青年……。

 二人が肩を並べておしゃべりしながら歩いていく後ろ姿を、呆けた表情で見ていた雄哉だったが、さすがに「これはおかしい」と思った。

 香代の実家は他県で、この近所に知り合いは少なかった。若い男の知り合いがいるようには思えなかった。会社の同僚というのもありそうにない。事務職の香代が会社の用事で同僚と外を、しかも会社から1時間もかかる家の近所をいっしょに出歩く可能性はほとんどないはずで、そもそもあんな垢抜けた服装が同僚というのも無理がある。では、どこかの店の御用聞き?――そうだろうか?

 雄哉には、横を歩く男が何者なのか、とんと見当がつかなかった。

 そこで後をつけることにした。気づかれないよう、三十メートルほど離れて歩く。親しげに話す香代の声は聞き取れない。

 駅前から住宅街へ続く夕方の道をこそこそと尾行しながら、雄哉の心に黒い疑念が産まれた。

 婚活サイトに登録して二年半、なかなか女性を紹介してもらえず、紹介してもらっても相手から断られ続け、もう自分は結婚なぞできないのではないかとあきらめかけていた。そんなときにようやっと巡り会えた相手が香代だった。お互いの権利や自由を尊重するという価値観も一致した。理想的な相手だと思って悦に入っていたのは、自分だけだったのかと雄哉はショックだった。

 まさか、このままマンションに連れ込むのか――と思ったが、途中で別れた。

 若い男は去っていき、香代はマンションへと帰っていった。香代は夫の存在にまったく気づくことなくマンションの玄関から入っていった。

 エレベーターに乗るのを、マンションの外の、剪定が終わったばかりの植え込みの陰からガラスドアを通して見届けると、雄哉は一、二分待ってから動いた。

 動揺していたせいか、つまずいて転んだ。



「あら、早かったのね……?」

 まだスーツのままの香代は、玄関ドアを開けて入ってきた雄哉を見て、驚いた顔で振り向いた。

 雄哉はなにも気づいていない様子を意識して口を開いた。

「取引先から直帰だったんだ。きみこそ……今日は早かったんだな」

「うん、そうなの」

 香代は口ごもることなく言った。

「だからわたしが食事を作ってもよかったんだけど……」

「メールしてくれたら、惣菜を買わなかったんだが……ま、しかたない」

 ダイニングの合板テーブルにレジ袋を置く雄哉。

「ごめんなさい。ちょっと予定外だったから……」

「そうだったんだ……」

 なにがあったのか、香代は正直に打ち明けてはくれなかった。動揺した素振りも見せない。

 そして雄哉も質問したりはしなかった。これまでそんな態度で接していなかったから、急に踏み込むのもためらわれた。お互いを信用し、尊重する、というルールが自然とできあがっていた。それをここで破ってしまうと、もし浮気ではなかったとき、もはや二人の関係は元に戻らないような気がした。

 といって、真実を面と向かって告白されても、おそらく動揺してしまうだろうが。

 表面的な会話で平和を保つ。

「じゃあ、少し早いけれど、夕食の準備をしようか……ごはんを炊こう」

 雄哉は不安を隠しながら、何度も訊こうと思ったが、ついに聞けなかった。

 あの若い男は誰だったのか?

 そしてその後、香代は一度外泊した。


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