ある朝のわたし
わたしの夫、先野光介は、名探偵だ。わたしはそれを誇りに思うし、その手伝いをするのも、楽しい。
毎日充実した日々を送っている。
が、どこか違和感がある。違和感の正体がわからないまま、今日も夫の手伝いをしに町に出る。
すると、今の現実が本当ではないと告げる人物に出会う。
彼はいったい何者なのか。
枕元に置いた時計がアラームを鳴らす前に目が覚めた。
液晶の表示は六時五〇分。たった今まで見ていたはずの夢が霧散して、わたしは現実世界に引き戻されている。
隣のベッドはすでに空で、夫はもう起きていてダイニングキッチンかリビングにいるのだろう。
部屋を出てダイニングキッチンに移動すると、すっかり身支度を整えた夫の光介は、朝食の準備を終えてテーブルについている。窓から差し込む朝日がフローリングを矩形に照らしている。
「おはよう」
と、声をかけてきた。テーブルには焼いたトーストとカップスープが二人分置かれ、皮をむいて切り分けられたリンゴが皿に盛られていた。
「今、起こしに行こうとしていたところだった」
「今朝は早いのね」
わたしはまだパジャマ姿だ。
「うん。いよいよタイムリミットだからね。今日中になんとかしないと、彼が逮捕されてしまうだろう。コーヒー、もうできるよ」
コーヒーメーカーがこぽこぽと音を立てて、湯気と香りが立ち上っていた。
「ごめんさない、全部してもらって」
「朝食のこと? これぐらい、どうってことないさ。それより、例の件、頼んだよ」
「そうだったわね。わかっているわ。まかせといて。しっかり調べてくるから」
わたしは胸をたたいてテーブルにつく。
夫の先野光介は私立探偵だ。今回は、ある殺人事件について調べていた。警察は状況からもう犯人を特定して、その行方を追っていたが、光介は真犯人はべつにいると踏んでいた。そしてその証拠を集めているところだった。これを突きつければ、警察も考えを変えてくれるだろう。これまでいくつもの難事件を解決してきた名探偵なのだから──。
「………?」
マグカップにコーヒーを注ごうとして、わたしはそこで違和感を覚える。
(夫が私立探偵……? いや、そうじゃなくて……)
なにか重要なことを忘れているような気がした。だがそれがなにかわからない。さっき見た夢とつながっているような気もするけれど、〝そんな気がする〟だけであって、茫漠とする。
「じゃ、行ってくるよ」
早々に朝食をすませ、夫が席を立つ。上着に袖を通し、ダイニングキッチンを出ていく。
「いってらっしゃい」
わたしも玄関に移動して、靴を履いて出ていく夫を送り出す。
「がんばってね」
「帰るときには連絡するよ」
玄関ドアが閉じて、わたしは一人になった。




