先野、三条から話を聞く
先野が乗ってきたレンタカーは三条が運転して最寄り駅まで戻してきたものの、意識のない先野を特急電車に乗せるわけにもいかず、近くの病院に担ぎ込んだ。なにを言われるかと冷や冷やしたが、見立てた医者は過労だと診断し、とくに怪しむ様子もなかった。
原田翔太とマネージャには電話をし、安心するよう言っておいた。
翌日──。
駅前のビジネスホテルに一泊した三条が病室を訪ねると、すでに先野は目を覚ましていて、三条の説明を待っていた。しばらくなにも食べていないかったようで少しやつれてはいたが、点滴でやや元気は取り戻していた。
霊にとり憑かれていたときのことがまったく記憶になかったと言う先野は、三条の説明を口をさしはさむことなく最後まで聞くと、神妙にうなずいた。
「そうか……わかった。手間をかけさせてしまったな、悪かった。そして、助けに来てくれてありがとう」
ベッドから半身を起こして、素直に言った。
「なんだか先野さんらしくないですね」
「そんなことはないだろ。あのままではおれは死ぬまであの山で霊の奴隷になっていたわけだし、感謝するは当たり前だ。おれをそこまで非常識な人間だと思ってたのか?」
「いいえ……ただ、先野さんは、霊の存在をどの程度信じているのかな、と思って」
「霊、というか、その根源となる魂は存在しているだろう。脳神経が一定の水準以上に複雑になれば、そこに『意識』というものが宿る。本来ならその器である肉体が滅びてしまえば、魂も存在しなくなるだろうが、稀に肉体がなくても存在し続ける……。それはたぶん、その意識の強さに因るのだろう、と仮定することもできる。ちょうど電気が導体がなくても伝わるように」
「幽霊の存在を頭から否定するかと思いましたが」
「否定はしないさ。もしそんな頭が固いなら、今回の案件はおれには回ってこなかったろうよ」
「じゃあ、今回、霊にとり憑かれていたことも、素直に信じてくれるんですか?」
「遺憾ながら、今回、おれの記憶が欠落しているのは事実だ。その間、おれがなにをやっていたのかわからんが、三条さんには迷惑もかけたし、そこは信じようと思う」
「そうですか……」
状況証拠で信じる、というだけで、霊の存在を実感しているわけではない、ということだと三条は理解した。
「それで……。調査はどうします? 依頼者には、凹卜さんのことを知らせますか?」
「うーん、そうだな……」
先野は凹卜には会っていなかった。会う前に霊にとり憑かれてしまったのだ。直接会って話を聞いていない霊媒師を報告書に書くのは抵抗があった。
が、三条から詳しく顛末を聞くにつれ、やはり凹卜という霊媒師はただ者ではない、とう思いが強くなっていた。詠川の紹介は間違いなかった。
探偵を使ってまで探し求めるぐらいなのだから、きっとそんじょそこらの霊媒師では依頼者は満足しないだろう。
しばし考えた末、先野は結論した。
「凹卜さんのことは報告書に書こうと思う。原田が一両日中にもっとすごい霊媒師を見つけてくれたら別だが、それは奇跡だろう。依頼者がその報告でどうするか──まではおれたちの関知するところではないからな」
「依頼者の目的は聞いてなかったんですか?」
「今回は聞かなかった。なんだか聞いてはいけないような気がしてな……」
強力な霊媒師になにを依頼するつもりだったのか……。そんなことを考えるのは、先野の領分ではない。
「事務所に帰ったら、すぐに報告書を書くつもりだ。すまんが、少し手伝ってくれないか。おれは凹卜さんがどんな人か知らんのでな」
先野は言って病室の窓から外を眺める。桜の木に蕾が朱く膨らんでいた。春はすぐそこまで来ていた。
「はい、いいですよ。手伝います」
三条はにっこりと微笑んだ。
【すごい霊媒師をさがして】(了)




