三条、調査に出る
先野光介が行方不明になった──。
マネージャから三条愛美にそんな連絡が入ったのは、案件の調査開始から七日目のことだった。
翌日になっても先野からの定期連絡がなく、なんの音沙汰もないまま一日が終わってしまった──。浮気調査の案件で外出していて、夜になって事務所に帰ってきた三条愛美に、長身のマネージャはそう説明した。
「ということで、先野さんのこと、頼まれてくれないかしら?」
マネージャの申し訳ない、という表情を見れば断れない。
「わかりました」
三条は即答した。
「ごめんなさいね。あなた、とっても忙しいのに」
「いえ、だいじょうぶです」
「さすが当社のエース。たのもしいかぎりだわ」
オネエ言葉で褒められると、「乗せられている感」がすごくぬぐえない。
それはともかく、事態は深刻だ。
ペアを組んでいた原田翔太を見ると、どうしていいかわからない様子でうろたえていた。
「とにかく落ち着いて」
原田にそう言い聞かせ、まずは状況を整理するよう求めた。
先野が連絡を絶ったとき、どこで誰と会っていたか、その記録を出してもらうのだ。
原田のスマホから共有クラウドにアクセスし、先野の予定を表示させる。
詠川という霊媒師宅に行っていることがわかったが、そこから先の記録がなかった。ここに聞いてみるしかなさそうだった。
「明日、そこに行って尋ねてみるわ」
「僕も行きます。三条さんが来てくれるなら心強いです」
「原田くんは自分の仕事を続けてください。依頼者は一日も早い依頼の解決を望んでいるのよ」
でも……と言いかけた原田だったが、
「わかりました」
と、下を向いて返事した。
とにかく、連絡がない、というのは気になった。原田からのコールにもでないし、メッセージやメールの返事もないというのは、ちょっと考えられない。
スマホが使えなくなったとしても、公衆電話から会社にかけることはできるはずで、まる一日、それさえないというのは異常だ。
翌日、三条は電話を入れ、その霊媒師・詠川を訪ねる。
県外まで一時間ほどかけてやってきた三条は、禿頭の霊媒師に向かえられる。普通の一戸建てで、霊媒師を商売にしているわけはなく、本業は学習塾の経営をしているのだと言った。
電話でもよかったんですが──と、三条はことわって、室内に通してもらう。きれいに片づけられたリビングにはソファーと低いガラステーブル。詠川は三条にソファーをすすめると、その向かい側にすわった。
「数日前に訪ねてきた男性の探偵さんが行方不明……なんですって?」
詠川は、すまなさそうに口を開いた。
三条はうなずく。
「はい、ここへ来たという記録が最後でした。それ以降、消息を絶ってます」
「自分が教えたばっかりにそんなことになってしまったなんて──」
「なにか行方不明になるような心当たりがあるんですか?」
鋭く問う三条に、詠川は困ったような顔で視線をそらして沈黙した。明らかになにか知っていそうな態度だったが、三条は急かさず次の言葉が出てくるのを待った。
十秒ほどして詠川は言った。
「凹卜さん、という霊媒師のことを、その探偵さんにお話しました。彼女の能力は非常に強すぎて、それ故、人の住む町に暮らすことができないのです。ですから、広く知られることがないように、と忠告しました」
「ちょっと待ってください。凹卜さんの霊媒師としての能力が強いと、どうして町に住めないんですか?」
「特殊な能力故、一般の人に怖がられて疎外されてしまうのですが、それは彼女自身が霊を呼び寄せるからなんです。幽霊というのは、人間の強い感情によって発生します。それは往々にして、恨みや怒りなどの負の感情が元になりがちです。そんなものが集まってきたら、霊感など全然ない人でさえ影響を受けてしまうでしょう。ですが──」
詠川は、息をつき、
「探偵さんに依頼してきた人は、話を聞いた限り、それぐらい強力な霊能力を持った霊媒師でないと、おそらく承知しないでしょう」
「具体的に先野の身になにが起きたと考えられますか? 命の危険は?」
三条は、それほど暑くもないのに額に汗を浮かべる霊媒師の顔を、心の底を射るかのように凝視めた。
「なにが起きるか予想がつきません。そんなお答えしかできないのが申し訳ないですが、本当に私でもわからないのです。命の危険も含めて……」
詠川は声をつまらせた。
「凹卜さんがどこに住んでいらっしゃるのか教えてください」
三条は強い口調で求めた。
「いや、それは……」
詠川は口ごもる。これ以上、なにかたいへんなことが起きてしまうことを危ぶんだ反応だろうが、三条はかまわなかった。
「お願いします。先野を放ってはおけません」
「わかりました。私も同行します。なにかあったら私が対応できるかもしれません」
詠川は意を決して言った。
二人はすぐに発った。先野が今、どんな状況にあるかわからなかったが、もたもたしてはいられない。




