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しんどい興信所の超常探偵  作者: 赤羽道夫
すごい霊媒師をさがして
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霊媒師にもさまざまあり

 先野光介は神社にいた。正月三が日には初詣客に賑わいそうな、地元でも有名な、そこそこの規模の神社である。見上げるほどに大きな朱塗りの鳥居が偉そうにそびえたっていて、境内には立派なクスノキが枝葉を広げている。

 何十軒目かに訪ねた不動産屋で、仲介した物件で数年前に殺人事件があり、そのときにお祓いをしてくれたという神社の宮司を紹介してくれたのだ。

 それでこの神社にやってきた。

 とりついでもらって社務所で会った宮司は、予想外に紺色のセーターに茶色のチノパンという洋服姿で現れた。神事をやらないときは、まさか神主だとはわからない、普通の人間ひとのようである。そこは寺の僧とは違うようだ。

 先野は来訪の目的を告げ、当時の様子を尋ねると、

「この世には、人間の手の及ばぬ世界があり──」

 などと、六十代とおぼしき宮司は、とつとつと語り始めた。

 めんどくさい人だな、と思いながらも、先野は黙って聞くことに徹した。

 数分にもおよぶ長い枕詞が終わり、ようやっと事故物件の話が始まった。先野は居住まいをただした。

 不動産屋から頼まれ、現場の部屋でお祓いを行ったことを事細かに説明した。それはまるで講談師かと思うような熱の入りようで先野はげんなりしたが、口を差し挟まず辛抱強くじっと聞いていた。不動産屋は幽霊が見えないようだったが、気持ち悪いから、ということで神社に依頼したとわかった。

 これは空振りかな、と感じつつ、先野は、武勇伝をしゃべり終えていささか疲れた様子の宮司に質問した。

「それで……成仏した被害者の幽霊は、どんな感じでした?」

 宮司は一瞬応答につまり、一度わざとらしい咳払いをすると、

「人の魂というものは──」

 また演説が始まった。どうやらこの宮司も幽霊が見えるわけではないようだった。

 結局、神主という職であるけれどもちゃんとした霊媒師ではないのだとわかった。わかったものの、長演説の最中に辞するタイミングがつかめず、神社を出るのにひどく時間がかかってしまった先野であった。



 二人の調査は翌日もその翌日も続けられた。

 その日の調査結果をスマホで互いに報告しあい、芳しい成果が出ないのを確認して、また次の日も調査に出た。

 なかなか見つからない。

 はたしてこの方法でいいのだろうか──。

 原田翔太は不安になる。県内にある不動産屋は大小数えれば何百件とある。それらをひとつひとつ調べていくのは気が遠くなる作業だ。しかも、電話ではなく、直接出向いて──。

 電話だと相手にされずに切られてしまうからだ、と先野は言い、確かにそういうこともあるだろうと原田も納得していたが、探偵業とはなんとも地道な仕事で、もしかしたら弁護士やテレビタレントも、あこがれてなってみたら思っていたのと違うかもしれないと、そんなことをぼんやりと思ったりしながら、不動産屋を回る。

「幽霊物件? あったよ、数年前に」

 何十件目の不動産屋で、涼しい顔でそう話す店主に出会えた。俄然やる気が起きた。

 が、教えてもらって行ってみたら、原田とそう歳も離れてなさそうな自称霊媒師の男はひどくチャラくてイメージとかけ離れていた。

 そう印象を述べると、

「そんなのはつまらない固定観念ですよ」

 金色に染めた髪の毛に手をやって、霊媒師は白い歯を見せる。鼻のピアスが気になった。着ているスーツもデザインが凝っていて、どこかのブランド品だろう。都心にそびえる新築の、勢いのあるIT企業なんかがテナントとして入っている高層ビルの一室に事務所をかまえているのも、違和感が凄まじい。通された応接室には、高そうな調度品が並び、「この絵皿は三百万円ぐらいだったかな」などと軽い口調で言われそうだった。

 とはいえ、これだけ稼いでいる、となれば、本物だとして間違いないのだろう──。

 だが、一応、確認する。

「あの……幽霊を調伏したときの様子を教えてもらえませんか?」

「ひょっとして、ボクの能力を疑ってる?」

「いえ……そういうわけでは……」

「心外だな。ボクはこの業界でも有名な霊媒師として露出度も高いんですよ。いい加減なことはしません」

「露出度……?」

「今やさまざまなメディアを使って大々的に宣伝するのが商売の常識。ボクの能力を売り込んで、大勢の人に幸せになってもらいたいわけさ。だからすごく忙しいの。こうやって雑談している間にも、どんどん依頼は入ってきたりするんだよ。ま、なかにはボクが出るまでもない案件もあって。そういうのは弟子に対応ってもらってるんだけどね」

 事務所では、まるで普通の会社オフィスのように、何人もの従業員が忙しそうに働いていた。ここまでビジネスとして手広く業務を行っているとなると、相当な売り上げを計上しているはずだ。

 弟子、というか、霊媒師の育成にも力を入れている。霊媒師の学校も開設しているのかもしれない。

「おっと、もう出かける時間だ」

 若い霊媒師は壁の時計を見る。

「これから除霊に出かけるんだ。そうだ、ボクの仕事ぶりを見たいなら、見学するといい」

 原田は迷った。同行してみればその能力がどれほどのレベルかはっきりするかもしれない。だが、眼力のない素人の自分がいくら真剣に見ても、なにかがわかるような気もしないし、それに、これだけ宣伝して有名ならば依頼者もすでにこの霊媒師にたどりついているに違いない。それでいて探偵に依頼してきているわけなのだから──。

 そこで、依頼者の名前を出して尋ねてみた。

「そんなのいちいち憶えてないよ。事務員の女の子に訊いてみてよ。あー、でも待てよ。そういうのは守秘義務ってのがあるんだっけ。お客のプライバシーは守らないとね。ごめん、それには答えられないよ」

 そうだろうな、と首肯し、

「わかりました。今日のところは出直します」

 原田は引き下がった。

 そんなにも露出度の高い霊媒師なら、きっとその評判もネットにあふれかえっていることだろう。それを見ればある程度は能力についてもわかるだろう。

 一礼し、原田は退出した。

 すぐさまスマホで検索する。

 山ほどヒットした。

 片っ端から読んでみると、評判はまずまずだったが、なかには中傷する文書も散見された。詐欺師だ、と斬り捨てる書き込みもあった。アンチはどこにでもいるし、極端な意見は無視して具体的に書かれた評価を中心に読み進めていく。

 すると──。

 興信所に来た依頼者が投稿したと思しき書き込みがあった。投稿者名が一致していた。

「この方に話をうかがいましたが、私の求めている方とは違うようでした。たしかに調伏能力はあるようですが、そんな単純なことではないのです──」

 依頼者がなにを目的として霊媒師に接触しようとするのかはぼかされていたが、どうやら、この霊媒師は違うとみえる。

(こんなに流行はやってんのになぁ……)

 全面ガラス張りのインテリジェンス・ビルを振り返って見上げ、やはり依頼者が探しているのは、こんなところにオフィスを借りている起業家なんかではないのだろうな、と依頼者かのじょの病的なほど鋭い眼を思い出した原田であった。

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