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禁断のレッドカードにゃー

【前回のあらすじ】

小学校卒業を期にギャルになることを決意した陰キャ女子のあーし、ことナツメ。

なんと中学校でも親友のシャミと同じクラスに。

そして猫又女子中では通例の二年生とのペア決め。

その時あーしの前に最高にキャピッたメイさんが登場したのであった。

「なんでまたあんたなのよ……!!」

 イラついた表情で腕組みをして足先をトントンするメイさん。

「そんなこと言われても……別にあーしが決めたわけじゃないし……」

 あーしは頭を掻いて答えた。

 ミズシマさんとシャミが「まあまあ」と、苦笑いをしながらメイさんを(なだ)める。


 そこへミケコ先生がやって来た。

「どうかしたの~?」

 各ペア問題が無いかを確認しながら名簿のチェックをしているようだ。

 ミケコ先生を見てメイさんが吠えた。

「あの!!ペアを変えてもらえませんか!?」

「どうして~?」

 ミケコ先生は穏やかに尋ねる。

「こいつ……彼女とは犬猿の仲なので!!」

「あなた達は猫ですよ~」

 ミケコ先生のトンチ返しに、メイさんは「ぐぬっ……」と言って唇を噛んだ。


()()()……」

 ミケコ先生は指を口に当てるようにして続けた。

「不当に下級生を虐めるようなことがあれば……」

「あれば……?」

 珍しくメイさんが大人しく、ゴクリと唾を飲み込んだ。

 あーし達も先生の次の言葉を待った。


「一発レッドカードですよ~」


 ミケコ先生はスーツの内ポケットから真っ赤なカードを取り出してヒラヒラさせて見せた。

 あーし達は「おお~」と言ったものの、レッドカードでどうなるか知らない。

 メイさんが「くぅぅ……」と頭を抱えているのを見る限り、良いことでは無いようだ。

 ミズシマさんもうんうんと頷いている。

「あの~レッドカードになったら、どうなるんす?」

 あーしは、控えめに手を挙げてミケコ先生に聞いた。

 先生はレッドカードをポケットにしまい、眼鏡をクイッと上げた。

 日の光か、眼光か、眼鏡が一瞬光る。

「理事長先生からきつ~い……お仕置きがあります~」

「きつ~いお仕置き……」

 あーしとシャミは背中にゾッとするものを感じて身震いした。

 ミズシマさんが腕を組み、手を口元にあてて声を潜めた。

「一日中、理事長先生に()()()()されるらしい……」


「呼んだ?」


 背後から声がして、メイさんが「にゃぁっ!?」と飛び上がった。

 声の方を見ると理事長がにこにこして立っている。

 あーし達は当然のこと、気が付くと教室中の視線が理事長に集まっていた。

 その視線に首を傾げて「なになに?どうしたの?」と理事長は楽しそうだ。

「理事長、いらしてたんですか」

 ミケコ先生が理事長の方に向き直って、コホンと咳払いを一つ。

「実はこちらのメイさんがペア決めについて不満があるようで、もしかしたら新入生イジメなどの問題に発展するかと……」

「いやいやいやいや違うんです!!違うんです!!こいつ…彼女とは旧知の仲で、もはや心の友!?ソウルメイト!?そういう感じでイジメなんてまさか!!」

 メイさんが大慌てで両手を振って早口にまくし立てた。

「いやー、あーしの親友はシャミだけっすよ」

 あーしは苦笑いして答えて、シャミのほうを向き、「ねー」と言った。

 シャミも苦笑いで答える。

「ちょっとあんたねぇ!!状況わからないの!?私がレッドカードになりそうなのよ!?ねぇ!!」

 メイさんはあーしの両肩を持ってゆさゆさ揺さぶった。

 それを見た理事長が「なるほど……」と呟く。

 メイさんの動きが固まって、恐る恐る理事長のほうを見た。


「これはレッドカード寄りのイエローカードね」


 何という曖昧(あいまい)さ。

 しかし、あーしは事の顛末をワクワクして見守った。


「罰として、これから1時間のぺろぺろタイムを設けます。メイさんは速やかにお仕置き部屋へ」


 そう言うと、理事長は踵を返しツカツカと教室を出て行った。

 メイさんが膝から崩れ落ち、止まっていた時間が動き出したかのように教室は賑やかさを取り戻した。


「まあ……止む無しね」

 ミケコ先生が名簿にチェックを入れて次の生徒の元へ立ち去った。

「が、頑張れよメイ……」

 ミズシマさんは憐れむような表情でメイさんに声を掛けた。

 メイさんはピクリとも動かない。

「メイさん……」

 シャミも今にも泣きそうな顔をしている。

 メイさんはピクリとも動かない。

「まー、社会勉強だと思って行って来たら良いんじゃないっすか?」

 あーしは()()()、明るく言ってメイさんの肩を叩いた。

「あんたのせいだろうがぁっ―――!!」

 突然ガバッと顔を上げて吠えるメイさんに「にゃぁっ」とあーしは声をあげた。

 再び両肩を掴まれ首が落ちそうになるほどガクガクと揺さぶられる。

 これはギャルじゃないよね、メタルだよね。

 それに……。

 揺さぶりがひと段落したところで、あーしは再び口を開いた。

「それに……ぺろぺろって……発情期の男子だったらご褒美案件ですよ?」

「私は発情期でも男子でも無いわぁ――――!!!」

 再びメイさんが吠えたところで学内アナウンスが鳴った。


 ピンポンパンポーン。

 ―――2年2組、メイさん。至急、お仕置き部屋へ。


 メイさんは顔面蒼白になって、あーしから手を離し立ち上がった。

 何も言わず教室の出口へ足を向けたところで振り返る。


「あんた……後で覚えておきなさいよ……?」


 冷たくて鋭い目で薄っすらと笑みを浮かべたメイさんの表情に、あーしは背筋を凍らせた。


 それからあーしは、戻って来たメイさんにどんな恐ろしい仕打ちを受けるのかと恐れていた。

 ……が。

 1時間後、ぬるぬるのびちょびちょで戻って来たメイさんは、ぐったりとあーしの隣に座り込んだかと思うと「二度とこの悲劇は繰り返されてはならない……」と呟いた。

 よっぽど堪えたのだろう。

 目はどこか一点を見つめたまま茫然としている。


「辛かったっすか……?」

 あーしは恐る恐る声を掛けた。

「うん……」

 か細い声でメイさんが答えた。

「なんか、すいません……」

「うん……」

「……」

 しばらくの沈黙の後、再びメイさんが話し始めた。

「私ね、生徒会立候補するわ……この悪しき習慣を辞めさせるために……」

「そうなんすね……」

「投票して……」

「あ、はい……」


 こうしてあーしは、メイさんとなんか少し仲良くなれたような感じで中学校生活初日を終えたのでした。

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