表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/13

入学式にゃー

【前回のあらすじ】

小学校卒業を期にギャルになることを決意した陰キャ女子のあーし、ことナツメ。

喫茶店で会った人達はあーし達の進学する中学の先輩でした。

そして春休みも終わり、いよいよ入学式です。

 私立猫又女子中学校は、あーし達が通っていたにーにー第二小学校から2駅ほど離れた場所にある。

 住宅街の中にある小学校とは異なり、街中にドーンと建っていた。

「だから受験しに来たでしょ?」

「言われてみればたしかに」

 受験で一度訪れた記憶が蘇る。

 あの時は冬真っ盛りで寒くて、コタツに入って受験したいと思ったほどだった。


 しかし季節は変わってすっかりぽかぽか日和の春。

 集う生徒たちの表情も受験の緊張感MAXな険しい顔じゃなく、これからの期待に満ち溢れた明るい表情だ。


「さあ、行くよ」

 両親と連れ立って来ているシャミが振り返って言った。

「おー!」

 あーしは置いて行かれないようにシャミに駆け寄って、その後ろをお父さんお母さんも付いて来ている。


 ―――そう、今日はあーし達の入学式なのだ。



 体育館の前に受付があった。

 簡易の長机にパイプ椅子が3つ置かれ、それぞれに上級生が座って受付を担当しているようだ。

 大きな掲示板にクラス分けが提示されていて、クラスごとに受付を済ませて入場するらしい。

 すでに受付を済ませた印のコサージュを付けてもらった子達ががやがやと体育館に入って行っていた。


「さて、あーしのクラスはっと……」

 あーしは掲示板を見上げて自分の名前を探した。

 隣ではシャミが同じように掲示板を見上げている。


「あ、あった」

 シャミが声をあげた。

「ナツメも同じクラスだよ、ほらあそこ!」

 ナツメに指さされた先にあーしの名前が見えた。

 その少し上に確かにシャミの名前もあった。

「おー、また一緒じゃん。よろしくー」

 あーしはシャミに抱き着いた。

 シャミも「良かったーよろしくー」と抱きしめ返してきた。


 あーし達のクラスは1年2組。

 3組までの編成になっていてちょうど真ん中だ。

「さ、受付済ませよう」

 シャミに引かれて受付に進む。


「この度はご入学おめでとうごッ――!?」


 担当上級性の流暢な挨拶が途中で途切れて、あーし達は顔を覗き込んだ。

「あ……メイさん」

 シャミの言葉にメイさんが顔を赤くして背けた。

「おお!仮面ニャンダー!」

「なっ―――!?」

 メイさんは慌ててこちらに向き直り立ち上がって声を潜める。

「や、やっぱりあんた達が盗ってたのね……!!」

「いや盗るなんて人聞きの悪い。落ちてたのを拾って取っておいてあげたんですよ」

 あーしはにやにやと答えて、ポケットから例の物を取り出した。

「はい、これ()()()

 メイさんはひったくるようにして取り上げてポケットにしまった。

「はい、シャミとナツメね。受付終了、おめでとさん。早く行って!」

 そして早口にそう言うと、シッシッとあーし達を払った。

 あーしとナツメは苦笑いしながらコサージュを貰い、体育館へ進んだ。


 ここでひとまず保護者とはお別れ。

 あーし達は入学生の席へ向かい、お母さん達は保護者席へ向かう。

「それじゃまた後で」

「きちんとしておくのよ」

 シャミのお母さん達、あーしのお母さん達が口々にあーし達に注意を促して保護者席へ向かったのを見届けあーし達も自分たちの場所へ向かった。



 予定時刻になり、アナウンスが始まった。

「只今より、私立猫又女子中学校入学式を開式致します。一同起立」

 それまでのざわつきが収まり、生徒たちが起立するのに合わせてあーしも起立した。

 チラリと左側少し離れた場所に座っているシャミを見ると、若干緊張した表情をしている。

「礼!」

 一斉にぺこりとお辞儀する。

 小学校ではみんなあれほど自由だったのに、中学になると少しはきちんとしようという気持ちが芽生えてるんだろうか。

 それともあれほど自由だったのは第二小だけだったんだろうか。

 あーしはそんなことをぼんやり考えながら他の子に倣ってお辞儀し着席した。


「理事長先生挨拶」

 アナウンスがあって、理事長が壇上に上がった。

 校長とか理事長とかはてっきりよぼよぼのお爺ちゃんだとばかり思っていたが、登壇したのは若いペルシャ猫の女性で、茶色の髪に耳をピンとたて、黒のパンツスーツを着こなして尻尾も揺らさずに颯爽とマイクの前に立った。

「一同、礼」

 号令がかけられて生徒達、そして檀上の理事長がお辞儀をした。


「コホン……。新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます!」


 ―――10分後……。

「当校の校訓に『窮鼠にも噛まれるな』とありまして……うんちくぴーちく……」


 ―――20分後……。

「ですから、猫には九つの魂が宿ると申しまして……」


 ―――60分後……。

「というわけで、猫に小判とは言われないようしないとなりません。しかしながら……」


 長い。長すぎる。

 理事長挨拶が始まってすでに1時間半。

 未だにそのお喋りは留まることを知らず、勢いは加速していくばかりだ。

 これもしかして一日終わるんじゃ……?と思った矢先、ようやくアナウンスが鳴った。


「理事長先生、ありがとうございました」

「へっ?吾輩まだ言い残したことが……」

 突然のぶつ切りに理事長は戸惑いを隠せない。

「理事長先生!ありがとうございました!」

 心なしか二度目のアナウンスは口調がキツイ。

 しかし理事長もめげない。

「あとちょっと……!あとちょっとだから!ね?」

 最終的に、ゴネる理事長の元に生徒会らしき上級生が駆け寄って、首根っこを掴まれ引きずられていった。

「はにゃーん。あとちょっとなのにーーーー……」

 理事長の無念の声が体育館にこだまして、ようやく理事長挨拶が終わった。


 それから式は後れを取り戻すかのように駆け足で進み、あっという間に閉式になった。

 これからクラスへ行き、最初のホームルームをして解散だ。

 長時間座っていたせいでお尻が痛い。

 あーしは立ち上がりうーんっと背伸びをした。

 他の子達もよろよろと立ち上がり同様に背伸びをしたり、腰をさすったりしていた。

 シャミがあーしの元へ駆け寄ってくる。

「長かったね」

 呆れた笑いを浮かべてシャミは言った。

「ほんとに。しかしまさか引きずられてっちゃうとは……」

 あーしは理事長が引きずられて行った方を遠い目をして見つめた。

「全く……。さて、吾輩達も教室へ向かおっか」

 シャミの言葉に促されて、あーし達は教室へ向かった。



 私立だからお金があるのか、小学校のボロさとは打って変って綺麗な校舎だ。

 噴水のある中庭を覗く渡り廊下を渡ると校舎棟になっていて、2階が1年生の教室だった。

 1年2組の札を見上げて、あーし達は教室へ入った。


 中にはすでに教室に入った生徒達が、各々近くの生徒とお喋りをしている。

 席にはそれぞれ名前が書いてあって、あーしの席は真ん中の列の一番後ろ、そして奇遇にも左隣がシャミだった。

 あーし達も着席して、これから何があるのか、いつ帰られるんだろうかと喋っていると担任と思しき先生が入って来た。

 それまで騒いでいた生徒達もお喋りをやめ、先生の動向を見守る。


 先生はこれまた若い女性で、アメリカンカールだろうか、黒髪から丸い耳がぴょこんと出ていて、赤い縁の眼鏡が黒に映えている。

 先生は、ツカツカと教壇の前まで歩んできて姿勢を正した。

「新入生の皆さん、初めまして~」

 ザ・女教師といった見た目とは裏腹に、口調は穏やかで緩い。

「吾輩、担任のミケコです~」


 全然三毛感無いのにミケコとは、これ如何に?

 おそらくクラスの大多数がそう思ったはずだが、緊張もあってか誰一人ツッコミは入れない。

 そんなあーし達のことは気にすることもなくミケコ先生は話を続けた。


「今日から皆さんは一年生というわけですが~。一年生には一人一人、一年間、お世話をしてくれる二年生のお姉さんがついてくれます~。要するにペアになってもらうわけですね~」

 緩いミケコ先生の話を要約すると、この学校では、一年生に慣れない学校生活を学習面、生活面でサポートしてくれる二年生を振り分けていて、これから各自のペア確認をするということらしい。

「それじゃあ、お姉さん達、入っておいで~」

 ミケコ先生の合図に合わせてぞろぞろと二年生達が教室に入って来た。

 各々初めて顔を合わせる同士自己紹介をしてお辞儀しあっている。


「あ、なんだ。シャミじゃないか」

 聞き覚えのある声が隣で聞こえた。

「ミズシマさん!あっ、もしかして私の……?」

「どうやらそうらしい。よろしくね!」

 なるほど、シャミのペアはミズシマさんだったとは。

 奇遇を通り越して運命の歯車感すらある。

 あーしがそうした運命やら陰謀やらを思ってううむ……と唸っていると、ミズシマさんはあーしにも気づき「なんだ。ナツメも同じクラスだったのか。良かったね」と肩を叩いてきた。

 あーしも「そうなんすー」と返事をした。


 さて、ではあーしのペアは……?

 クラスのほとんどがペア同士、話をしている中、あーしのところにはまだペアの二年生が来ていなかった。

 あーしがきょろきょろと教室を見回していると、人混みをかき分けるようにして小さな物体がこちらに向かってきた。


「初めまして!私があなたのペア、メイです!よろしくねっ!」


最高にキャピってて、にこやかな笑顔は一瞬で消えた。


「……って、またお前かーーーーーーい!!!!!!!!!」


「あ、どもー。あーしっす」

あーしは片手をあげて挨拶した。

こうして、ウキウキワクワク、前途多難な中学校生活がスタートしたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ