いよいよ春休みも終わりにゃー
【前回のあらすじ】
小学校卒業を期にギャルになることを決意した陰キャ女子のあーし、ことナツメ。
春休みにマタタビミルクティーを飲みに喫茶店に行ったところ、二人の良識あるお姉さん猫と、一人のおかしな猫に遭遇してしまいました……。
一時はどうなることかと思ったが、意外と話してみると良い人達だということがわかって、あーし達は打ち解けていた。
「フフフ、まさかあのパジャマで駅前にいたのがナツメだったとはな」
そう言って静かに笑うのはミズシマさん。
「ミズシマさん達も見られてたんですねー」
にこやかに笑うシャミ。
「バッチリ見てたよー、何かおかしな子がいるなぁって」
タタラさんが、手元を隠し穏やかに笑ったのにあわせてその豊満なバストも揺れた。
「いやー、お恥ずかしい限りで」
あーしは照れ笑いをしながら頭を掻いた。
「いやいやいや、和んでんじゃないわよ!!!!」
和やかな昼下がりの喫茶店を切り裂くようにタタラさんとは真逆の小さな身体が吠えた。
「誰がタタラと真逆の小さな身体じゃ!!!」
いけないいけない、どうも心の声が漏れてしまっているようだ。
「まあまあ、メイさん。お互い失敗したもの同士仲良くしましょうよ」
「誰が失敗したもの同士よ!!!」
「えー……じゃあ、マタタビミルクティー初めて同士?」
「チッ!!!」
これでもかというほど大きく舌打ちをされてしまった。
しかし、それを見て益々ミズシマさんとタタラさんは微笑んでいた。
「そう言えば、ナツメとシャミは学校はどこなんだ?」
ミズシマさんの問いに、あーし達は市立にーにー第二小学校であると答えた。
「この前卒業式だったんですけどね」
「あら~おめでとう」
タタラさんが手をパチパチさせて言う。
「ほらね、やっぱりガキじゃない!!」
メイさんがフンッと言い捨てた。
「いやいや、メイ、我々も中一だし大して変わらないじゃないか」
「全然違うわよ!!」
「でも身長はメイちゃんよりナツメちゃん達のほうが高いわよ?」
「うるさい!!!」
あーし達と比べられたことが癪なのか、メイさんはまた暴れだしたが、ミズシマさん達はあまり気にしていない。
「ミズシマさん達は中学一年生なんですね」
「どこ中なんですか?」
シャミの問いにあーしも被せて聞いた。
「猫又女子中よ」
タタラさんが答えた。
猫又女子中学と言えば、制服が可愛く、ここら辺の女子猫の間で人気の女子校だ。
「へぇー、良いところ行ってんすねぇ」
あーしは頷きながら答えた。
「何言ってんの、吾輩たちももうすぐ入学でしょ」
シャミがツッコむ。
「なんだ。シャミ達は後輩になるのか」
「あらーそうなの。奇遇ね。これからもよろしくね」
ミズシマさん、タタラさんが交互に言ってあーしらの肩をぽんぽんと叩く。
「あーしは中学になったら彼ぴっぴ作るんです」
「「「「いやだから女子校だって」」」」
総員全力をあげてツッコんでくる。
ここでようやくあーしの理解が追い付いた。
「え?あーし、猫又女子中行くの?」
あーしの言葉に総員全力でズッコケた。
「いやいや、ナツメ吾輩と一緒に受験したじゃん。受かったって言ってたでしょ?」
「あー……そう言えばそんなこともあったような……?」
「ナツメは本当におっちょこちょいなんだな」
「良いじゃない。可愛い後輩で嬉しいわ」
「アホなだけでしょ」
辛辣なメイさんのコメントが痛い。
「けど良かったです。入学する前に知り合いが出来て」
シャミが場をまとめるように先輩方に向き直って言った。
「困ったことがあったらいつでも言いなよ」
ミズシマさんは頼れる姉御感満載で親指を立てて言った。
「そうそう。なんか悩みとかあったらいつでも会いに来て良いから」
タタラさんもぼいんぼいん揺らしながら母性を滲みだして言った。
「私達に迷惑かけんじゃないわよ」
メイさんはそっぽ向いて薄い胸板のような人情味の薄い対応だ。
「誰が薄い胸板よ!!!」
ガジガジとあーしの頭に噛みついてきたメイさんを制止して、ミズシマさんが「じゃあまた今度ね」と言い、タタラさんと共に手を振ってメイさんを引きずって行った。
やれやれ、前途多難。
まさかあーしの彼ぴっぴ大作戦が開始前に頓挫するどころか、先輩のうち一人は胸ぺちゃで生意気でこちらの思考を読み取る能力者だったとは……。
「いやいや、ナツメの心の声駄々洩れだったから」
「え?そーなの?」
シャミは呆れた笑いを浮かべて手を広げた。
「しかし、本当に良かった。先輩達良い人そうだったし」
「良い人かなぁ……」
若干一名を浮かべてあーしは疑問を呈した。
「似た者同士だったよ。上手くやれるんじゃない?」
シャミが答えた。
「いやいや、全然違うでしょー。あーしのほうが落ち着きあるし」
「サイズを聞かれてエレガントだのエクセレントだの言うし、あーしだの私だの言うし、十分似た者同士だと思うけどねぇ」
そう言えば。
たしかにメイさんは自分のことを吾輩ではなく私と言っていた。
あーしの記憶の中で自分のことを吾輩と言わないのはあーしとメイさんしかいない。
もしかすると彼女にも何等かの、のっぴきならない事情があるのかもしれない。
「ま、無いか」
「無いでしょ」
シャミと共に謎の納得をして、あーしらも席を立った。
なんだか凄く長い時間座っていたような気がして、にゃーんと背伸びをした時、ふと足元にキラリと光るものを見つけた。
「なんだろ?」
あーしはそれを拾い上げる。
「何それ?」
シャミも興味深そうに覗き込んできた。
「あ、あれじゃん。仮面ニャンダーのバッジ」
「仮面ニャンダー?」
「そうそう。人気の特撮ヒーロー番組で、正義の味方の仮面ニャンダーが色々敵とか倒すやつ」
「ほうほう……」
あーしはわかったようなわからなかったような曖昧な返事をして、拾い上げた缶バッジを眺めた。
そしてくるりと裏返したあーしの目に飛び込んできた文字は……。
「メイって書いてある」
「あ、メイさん仮面ニャンダー好きなんだ……」
シャミが意外そうな顔をして呟いた。
「あの性格で……?仮面ニャンダーって正義の味方なんでしょ?」
「うん……」
「それに名前書くかね、普通……ぷっ、ぷぷぷっ……」
堪えていた笑いがすぼめた口から勢いよく飛び出してきた。
「にゃはははははははははははは!!!!」
再びお客さんや通行人からの視線を集めてしまったが、あーしの笑いは止まらなかった。
シャミはそこら中にすみません、すみませんとペコペコ頭を下げながら「もう、笑うのやめて」とあーしをつついてきた。
「だって、あのメイさんがっ……かめっ、仮面ニャンダははははは!!!」
しかし、あーしの笑いの勢いは止まることを知らない。
そして、あーしの笑いのボルテージが最高潮を迎えた時、あーしのポケットから何やらぽろりと落ちた。
シャミは慌ててそれを拾い上げた。
「ほら、笑いすぎだって。落としたよ」
シャミは拾い上げたそれを一瞥した。
「暴れん坊にゃー軍……」
それはあーしが大事にしている、あーしのお気に入り時代劇「暴れん坊にゃー軍」のお守りだった。
時代劇は良い。
勧善懲悪の世界は、この世に救いがあるということを信じさせてくれるのだ。
それは小学校時代のあーしの心の拠り所であり、うんぬんかんぬん……。
「しかもナツメって名前まで書いてる……」
名前を書くというのは重要な事だ。
もし試験で名前を書き忘れたら、どんなに解答が正解であろうとも不合格となるのだ。
あーしはその話を聞いてからというものどんなものにも名前書くことを心に決めてうんぬんかんぬん。
「いや、やっぱ似た者同士じゃん!!!!」
―――シャミのツッコミをもって、あーし達の春休みは終わり、新しい生活が始まろうとしていた。
「いや、綺麗にまとめようとしないで!!似た者同士じゃん!!なんでさっきあんだけ笑えたの!?ねぇ!?」
「このことは絶対に言うな。良いか。どうかお願いします」
―――あーしの全力のお願いをもって、今度こそ春休みは終わり、新しい生活が始まろうとしていた。