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まだまだ春休みにゃーマタタビミルクティー飲むにゃー

【前回のあらすじ】

小学校卒業を期にギャルになることを決意した陰キャ女子のあーし、ことナツメ。

親友のシャミと一緒に喫茶店に行って大人気のマタタビミルクティーを飲むことになり、

道中色々ありはしたものの、ついにオープンテラスのあるお洒落な喫茶店の前にたどり着いたのだった。

 店内に入ると、コーヒーの香りが漂っていた。

 一つ一つが違うコーヒー豆で匂いも違うんだろうけど、それらが全て集まって、お客さん達の賑わいなんかもごちゃ混ぜにして、あーし達を迎え入れてくれるように感じた。

 そう、あーしは今お洒落な喫茶店に受け入れられるレベルに達したと確信している。


「いらっしゃいませ」

 すぐに店員さんが声をかけてくれた。

 たぶんアメリカンショートヘアかな?銀色にも見えるような灰色のショートカットヘアで、灰色のシャツに黒のネクタイと黒のパンツというスタイリッシュな出で立ちの綺麗な女の人だ。

「ご注文はお決まりですか?」

 そのお姉さんがカウンター越しに尋ねてきた。

「えっと、マタタビミルクティーを二つ」

 それでいいよね?と確認するようにシャミがあーしの顔を見た。

 あーしはそれにうんと頷いて答える。

「あと、チーズケーキも」

 これまたシャミがあーしの気持ちを読み取ったように追加した。

「マタタビミルクティーとチーズケーキをお二つずつですね?」

 お姉さんが微笑んで復唱する。

 あーし達はそれに頷いた。


「サイズはどうされます?」


 え?サイズ……?

 シャミが「どうする?」とあーしに聞いてきた。

 どうする……?どうするって……何が???

 

 シャミがあーしの方を見ているのにならって、お姉さんもにこやかにあーしの方を見て注文を待っていた。

 あーしの人生において未だサイズなんて聞かれたことが無かった。

 あーしは、落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせて必死に考えを巡らせた。

 サイズというからには大きいとか小さいとかそういうことだろう。

 しかし、大きいので!とか小さいので!とかそんな風に言うのは絶対このお洒落な喫茶店には似つかわしくない。

 大盛で……?

 いや違うな。鰹節じゃないんだから。

 きっとなんかお洒落な響きの言い方なんだ。

 

 ―――よし……!


「エ、エレガントで!」



 マタタビミルクティーのレギュラーサイズとチーズケーキを受け取って、せっかくなのでとオープンテラスの席に着いた後も、シャミの笑いは収まらなかった。

「く、くふふ……ダメだ…エレガント……くふふふ」

「いやーシャミさんにウケて良かった。本当に良かった」

 よほどあーしの渾身のギャグが受けたらしい。よきかなよきかな。

「あれ、マジで言ってたよね?サイズわかんなかったらわかんないって言ってよー!くふふふっ……」

「いやーわかってましたけど……?場を和ませようとしただけですけど……?」

「はいはい。あー面白かった」

 ようやく笑いがひと段落したところで、あーし達は各々ストローを口に含んだ。

 すぅと吸い上げると、甘いミルクティーに混じって小さな団子状にされたマタタビも入ってくる。

 団子マタタビもまた甘く味付けされていて、もっちりとした食感が何とも面白い。

「美味しくない?」

「美味しい!!」

 シャミに聞かれてあーしは即答した。

 こんな飲み物がこの世にあったなんて。いつも飲んでるただのミルクとは大違いだ。

「ねぇチーズケーキも食べてみよう?」

「うんうん」

 チーズケーキをフォークで切って一口、口に運ぶ。

 しっとりとしてふわふわな生地から甘さとチーズの良い香りが鼻を抜けた。

「美味しっ……!」

 あーしはまたもや衝撃を受けた。

 まるで耳の先から尻尾の先まで行き渡って広がるような美味しさだ。

「ほんと美味しいね」

 シャミも尻尾をゆらゆらさせて言った。

 きっと同じ思いなのだろう。

 あーし達は夢中でチーズケーキを食べてマタタビミルクティーを飲んだ。



「はー美味しかったね」

「美味しかった」

 あーし達は口々にどうだったああだったと感想を述べ合ったが、称賛以外の言葉は全く出てこなかった。ここが大人気なのにも頷ける。

「また来たいね」などと至福の一時の余韻に浸ってシャミと会話していると、ふと尻尾をぱしっとはたかれた。

 あーしが振り返ると、先ほどあーし達が店に入る前に見た、あーし達より少し年上の女の子達のうち一人がこちらを睨みつけていた。

 いや、気のせいかな。

 あーしは気づかなかったふりをしてシャミのほうに向き直った。

「いや、無視かい!!」

 すぐに背後から声が聞こえて、気のせいじゃなかったことを知った。

 あーしはもう一度振り返った。

 女の子達は三人。

 背丈はあーし達とほとんど変わらないけど、何となく中学生感があるから中学生だろうか。

 一年生か二年生と見た。

 両サイドにいる2人はおそらく雑種。茶色の髪を二つ結びにしているA子さん(仮名)と元のあーしと同じように黒髪でポニーテールにしているB子さん(仮名)。

 それから真ん中であーしを睨みつけ何やらギャーギャー言っているのは、真っ白な髪とブルーの目、黒い耳と尻尾をしたシャム猫のC子さん(仮名)。一番背が低く、あーしよりも小さいが、たぶん態度的に彼女がボスなのだろう。

「勝手に名前つけんじゃないわよ!!」

 C子さん(仮名)がハァハァ息を荒げ目を吊り上げて怒っている。

「だからC子じゃないってのよ!!」

 あら、心の声が漏れてたのかも。


「あの……ナツメが何かしましたでしょうか……?」

 シャミが恐る恐る立ち上がりながら低姿勢で尋ねた。

「何かじゃないわよ!!大体マタタビミルクティーくらいではしゃぎ過ぎなのよ!!一口飲み食いする度にこいつの尻尾がペシペシと私の頬に当たってたんだっつーの!!!」

 C子さん(仮名)はあーしの尻尾を持って乱暴に振りながら答えた。

 しかしC子さん(仮名)の態度とは裏腹に、両サイドの二人は落ち着いていた。

「メイ、落ち着け。そんなに怒らなくても良いじゃないか」

 そう言ったのは黒髪ポニーテールのB子さん(仮名)。

「うるさい!!ミズシマは黙ってて!!」

 C子さん(仮名)がB子さん(仮名)に反抗した。

 なるほど、B子さんはミズシマさんというのか。

「大体ね、あんた達みたいなガキにはまだこの喫茶店は早いのよ!!私達のようにそれ相応に似合うようになってから出直して来なさい!!」

 C子さん(仮名)は、あーし達が口を挟む隙を全く与えず喋り続けている。

 オープンテラスの他のお客さんどころか、通りを歩いている通行人からの視線も集めているが、お構いなしのようだ。

「メイちゃん、本当にそろそろ落ち着こう?」

 今度は茶色二つ結びのA子さん(仮名)だ。先ほどのミズシマさんはキリっとしていたが、A子さん(仮名)は喋り方もおっとりとしていて、物腰の柔らかさがにじみ出ている。

 しかしC子さん(仮名)は聞かない。

「タタラも黙ってて!!この世間知らずなガキ達に……」

「メイちゃんもマタタビミルクティー飲んだことなくて今日初めて来たんでしょ」

 そこまで言ったC子さん(仮名)の言葉を、A子さん(仮名)ことタタラさんが遮るように言った。

 C子さん(仮名)が動きを止めた。

 しかしお構いなしにタタラさんの攻撃が続く。

「さっきこの子達が来る前まで、メイちゃんも大はしゃぎで飲んでたじゃない」

「い、いや……それはまぁ……美味しかったし……でもこういう喫茶店は常連っていうか?いっつも来てるし?初めてじゃないから、うん……」

 明らかにC子さん(仮名)に動揺の色が見えた。

 タタラさんはやれやれと首を振りミズシマさんを見た。

 バトンタッチをしたようでミズシマさんがトドメを指した。


「注文する時にサイズを聞かれてわからなくて、エクセレントって言ったのどこのどいつだっけ?」


 ―――エクセレント?


 その瞬間、あーしの背後から「くっ……くっ……」と苦しそうな声が聞こえた。

 シャミが再び笑いのツボに入ってしまったようだ。

「くふふふっ……エクセレント!くふふふっ……!!」

「ち、違う!!わ、私は場を和ませようとしただけだ!!」

 顔を真っ赤にしてC子さん(仮名)が苦しい言い訳をした。


 わかる。わかるよ。

 あーしにはよーくわかる。


 ―――もちろんこの後、シャミによって、無情にもあーしのエレガント発言も暴露されたのであった。

良かったらアドバイス等いただけますと幸いです。

どうぞよろしくお願いします。

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