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まだ春休みにゃー遊びに行くにゃー

【前回のあらすじ】

小学校卒業を期にギャルになることを決意した陰キャ女子のあーし、ことナツメ。

春休みに入り親友のシャミとも会わなくなっていたが、ケータイショップでバッタリ会うことに。

それからシャミとスマホでのメッセージのやり取りに没頭中……。

 ―――スマホを買いに行ってから数日後。

 相変わらずあーしはスマホを弄って遊んでいた。

「ご飯の時くらいスマホは辞めなさい!!」

「ご、ごめん。シャミからメッセージ来てて」

「まったくもう!」と鼻息を荒く言って、お母さんは空いた皿を片付け始めた。


「遊びに行かない?」

 シャミからのメッセージだ。

 お母さんが背中を向けていることを確認して返事を返す。

「良いよ!どこに行く?」

 お母さんがこちらを振り向いたことに気づいて、あーしは慌てて鰹節にかぶりついた。

 芳醇な香りが口の中に広がる。

 はにゃ~ん…。


 にゃーんとスマホが鳴ってメッセージの着信を知らせた。

 いけない、いけない。ついつい鰹節の香りで幸せの世界に行ってしまうところだった。

 私は鰹節を離してスマホを見た。

「またシャミちゃんから?なんて?」

 いい加減注意するのも諦めたのか、片付けをあらかた終えたお母さんが私の前に座って、自らも鰹節を齧りながら聞いてきた。

「遊びに行こうって」

「どこへ?」

「その返事を今から見るとこ」

 あーしはそう言ってスマホに目を戻した。


「美味しいマタタビミルクティーが飲める人気の喫茶店があるから、そこ行かない?」


「マ、マタタビミルクティー!?」

 あーしはスマホを持って立ち上がった。

 お母さんが唖然とした顔でこちらを見ている。

 しかし、マタタビミルクティーだ。それどころではない。

 今やギャルはおろか若い女の子たちの間で絶大なる人気を誇る飲み物、甘いミルクティーの中にマタタビを何か色々加工して小さなお団子状にしたものを入れ、太めのストローでミルクティーと共に味わう。それがマタタビミルクティーだ。

 再びスマホがにゃーんと鳴った。


「チーズケーキも美味しいらしいよ」


「にゃ、にゃあああ!チーズケーキとか大好物ー!!」

 あーしはスマホを持ち上げて喜びの舞を踊った。

 友達と喫茶店でチーズケーキを食べてマタタビミルクティーを飲みながら語らうというギャルっぽい日常イベントがついに来たのだ!!

 あーしはすぐさま「OK!行く!」と返事をして、残りの鰹節を平らげた。

「で、どこに遊び行くの?」

 お母さんが呆れた顔を向けて聞いてきた。

 あーしは、髪をくるりと指で回して得意げに答える。

「ちょっと友達とサテン?に行って来るー」



 ―――数十分後。


 あーしは待ち合わせ場所の駅前広場で、シャミの到着を今か今かと待っていた。

 心なしか道行く人達があーしを見ている気がする。

 今までのあーしであれば、何か自分が嘲笑われているんじゃないかという思いに囚われ、疑心暗鬼になって、隅っこで小さくなっていたことだろう。

 だがしかし、今のあーしは違う。

 足を前後にクロスさせ手すりにもたれ掛かるようにポージングをし、自慢げに金髪ウェーブの髪の先を指でくるくるしながら、耳は時折ぴくぴくと、尻尾は優雅にふにふにと揺らしながらギャルらしく堂々と振る舞うことが出来ていた。


「あっ、おーいナツメー!」

 シャミの声がした。

 柱時計を見ると待ち合わせ時刻の11時を3分ばかり過ぎていた。

「もう!遅刻だよ!」

 マタタビミルクティーやチーズケーキのことを想えば、全く怒りなど湧いてきていないのだが、可愛く両手を腰にあててポージングを取りつつ、あーしはシャミのほうに振り向いた。

 あら?

 シャミの顔が固まっている。

 どうしたんだろ?

「あの……」

「ん?」

「なんでパジャマ……?」

「へっ?」

 シャミの視線が私の服装に向いているのに釣られて、あーしも自らを見下ろした。

 ピンクの生地に水玉模様。

 首元や手首の箇所にフリルが付いた見慣れたあーしのパジャマ。

 あれ……?

 そう言えば鰹節食べて……。

 お母さんに「サテンに行って来る」って言って……。

 靴履いて……。


 沈黙の時間が10秒ほど続いた。


「あっ、着替えて無いわ」



 ―――数十分後。


「いやあ、まさかシャミが新喜劇張りにズッコケるとは思わなかったね」

「吾輩はナツメがパジャマのまま来るとは思ってなかったけどね」

 あれから慌てて一度自宅に帰り、着替え、メイクを済ませて、再び駅前の広場に戻って来たところだ。

 シャミは、黄色地に小さな花柄のワンピースにサンダルというシンプルな恰好であるものの可愛らしく、シャミ自信の元が良いからだと改めて思わせられた。

 あーしはというと、黒地に謎の文字がピンクで書かれたロングTシャツに、ホットパンツという出で立ち。ホットパンツはポイントが高い。ギャルの正装と言っても過言ではないとあーしは思っている。

「あースマホで写真撮っておけばよかったかな?」

 シャミはにやにやとあーしを見て行った。

「さっきのは忘れて……あ、今撮ろうよ」

 あーしがそう言うと、シャミも「だね」と言ってスマホを取り出し、カメラを起動させて液晶を自分たちのほうへ向けた。

 あーしもシャミにこれでもかというほどくっついてピースサインを作る。

「はい、にくきゅー」

 シャミの合図でシャッター音が鳴り、シャミのスマホにぎゅーぎゅーにくっついてピースをしているあーしとシャミが映った。

「撮れた撮れた。あとでメッセージで送るね」

「ありがと」

 素っ気なく返事をしたあーしだったが、心の中は震えていた。


 ―――何ということでしょう。喫茶店でのマタタビミルクティーだけじゃなく、人生初の自撮りまで達成してしまうなんて。


 可能であれば、そこら辺を歩いている人達に言いたい。

 ねぇ、見ました!?今あーし自撮りしましたよ!?ねぇねぇ!自撮り!ギャル真っ盛りですよね!?

 ……ってね。

「何ブツブツ言ってるの?」

 シャミの声にハッとして現実世界へ戻って来る。

「あ、ごめんごめん。そろそろ行こっか?」

「だね、行こ行こ」

 こうしてあーし達はようやく駅前広場を後にした。


 駅から南北に抜ける大通りを南の方へ。

 並木通りになっているその通りにはお洒落なファッションのお店が多数立ち並んでいて、今を生きる若者達で賑わっていた。

 他にも、これまたお洒落なパスタのお店やら、ファストフード店などが店を構えていて、朝ご飯に鰹節にかぶりついているあーしにとっては異世界のような通りだ。

 そんな通りを数100メートルほど、のんびり二人で歩いていると、シャミが立ち止まった。

「あ、ここだよ」

 シャミが指さしたお店にあーしも目を向ける。

 

 ランプのようなオレンジ色の灯りで照らされた店内が入口からは見え、通り沿いにはオープンテラスまである。

 オープンテラスでは、大学生くらいのカップルが語り合っていたり、ビジネススーツを着たサラリーマンがコーヒーを片手にパソコンに向かっていたり、あーし達より少し上くらいの子達がはしゃいでマタタビミルクティーを飲んでいた。

 なるほど確かにシャミが言っていた通り人気のあるお店のようだ。

「良かった。まだ座れそう」

 シャミがホッとしたように言った。

「そんなに人気なの?」

「人気も人気。大体いつも席埋まってて座れないんだよね」

「そうなんだ……」

 あーしは純粋に驚いた。

 そんな世界があったなんて。

 いつも隅っこで佇んでいたあーしとは無縁の世界だった。


 ―――が、しかし今のあーしは今までのあーしとは違うから。


 あーしはシャミの肩に手を置いて言った。

「さぁ、行こうか」

 シャミも「うん」と言ってあーしに続いた。


 ―――さあて、マタタビミルクティー、かかってこいや!!

よろしければアドバイスや評価などいただけますと幸いです。

今後ともよろしくお願いします

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