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春休みにゃースマホ買うにゃー

【前回のあらすじ】

小学校卒業を期にギャルになることを決意した陰キャ女子のあーし、ことナツメ。

卒業式後すぐに眼鏡を捨て、黒髪を捨てて金髪ゆるふわウェーブギャルへと変貌を遂げたものの、

卒業アルバムに親友から書いてもらったメッセージに悶絶することに……。

 あれから、シャミとは一度も顔を合わせていない。

 今は絶賛春休み中。

 親友と言えど、学校が無ければほぼ会うことは無いのだ。


 さて、あーしは今、お母さんと一緒にケータイショップに来ている。

 様々なメーカーのスマートフォンが並んでいて、店内にいる人達が各々好きに色々触って見ていて、あーしとお母さんもそんな人達のうちの一組だ。

「で、どれにするの?あんまり高いのはやめてよ」

 お母さんが値段を見て身震いしながらあーしに言った。

 見ていたのは最新機種のにゃんPhone12か。

 たしかにスマホと言えば、マタタビ社(会社のマークがマタタビになっていることで有名)のにゃんPhoneシリーズという風潮がある。ことあーし達のように若い女の子にとっては特にそうだ。

 しかし、最新機種の12はダメっぽいなー……。


 あーしがブツブツ言いながら物色しているのを見て、まだまだ時間がかかりそうなことを察したお母さんは「吾輩はあっちで座ってるからね。決まったら教えて」と言って、後ろを振り向いた。

 あーしは、目もくれず「はいはーい」と手を振って、目の前に並ぶスマホの物色を続ける。


 ―――しかし、次の瞬間。


「あらぁ、シャミちゃん!」

「あ、おばさーん。こんにちはー」

 聞き慣れた親友の声に私のウェーブがかった金髪がぞわわと逆立った。

 ヤバい。シャミがいる!!バレる!!!吾輩がギャルになったことがバレる!!!

 本能は確実に振り向くなと言っていたが、お母さんとシャミの会話は当然の如く容赦ない。

「シャミちゃんもスマホ買いに来たの?」

「ええ、そうなんです。どうしても要るんだって聞かなくて」

 あ、シャミのお母さんもいる!!

「ほらシャミ。早く選べよ」

 お父さんまでいらっしゃってる!!

「はいはい。あ、おばさんもスマホ買いに来られたんですか?」

「いや、吾輩じゃなくてナツメがね」

「ナツメ?ナツメも来てるんですか?」

 シャミの声色が明らかに高くなって、シャミがあーしに会えることを喜んでいることがわかった。

 それゆえにこうして親友に背を向けて固まっている自分が情けない。

 これじゃあ今までと変わらないじゃないか。

 見た目だけギャルになっても、心の中は今までと同じ。いつも隅っこで微妙な顔をして立っている陰キャなあーしのまま。

「ナツメなら、ほらすぐそこにいるよ」

 お母さんの声がこちらに向いたのが分かった。

「えっ……?」

 シャミの戸惑う声が聞こえた。


 ―――変わるなら、今しかない。


「あ、えっと……ども」

 あーしはくるりと後ろを振り向いた。

 シャミと、シャミのお父さんお母さんが目を丸くして口を開けて固まっていた。

 ほんの数秒間の沈黙だったはずなのに、あーしにとっては何時間も何日もというように長い時間に感じた。

 そんな沈黙をブチ破ってくれたのは、親友であるシャミだった。

「何その髪!?金髪!?えっ!?眼鏡もしてない!?コンタクト!?うっそー可愛い!!ナツメ可愛すぎるー!!!」

 怒涛の勢いであーしの変化への驚きと称賛を送りつつ駆け寄って抱きついてきたシャミに、今度はあーしが目を丸くする番だった。

 そんな私達を後ろから見ていたシャミのお父さんやお母さんも「ナツメちゃん凄く可愛くイメチェンしましたねー」とか「前のナツメちゃんも良かったけど、こっちも今風で良いですねー」と私のお母さんに話しかけていた。

「あ、あの……」

 あーしは何と言って良いのかわからずなされるがままだ。

「どうしたナツメ!?前から可愛かったけど、可愛さが100倍くらい上がってるぞ!?」

 今度はシャミは、あーしのウェーブがかった金髪を面白そうに指でくるくるしながら言った。

「そう……かな……?あの……おかしくない?」

「全然!!可愛いじゃん!!」

「けど……アルバムに、変わらないナツメでいてって……書いてあって……あの……」

 私はアルバムに書いてあったメッセージについて、遠慮がちに聞いた。

「え?馬鹿だなぁ。見た目の話じゃないし!!」

 シャミは耳をピクピクっとさせて笑った。茶色と白の尻尾も緩やかに右左と揺れている。本心からの言葉だ。あーしにはわかった。

 もはやあーしとシャミの間にそれ以上このことについての言葉は不要だ。

「ね、スマホどれにする?ナツメと連絡とれるようにしたくてさ、強請っちゃったんだよね!」

「あーしも!!あーしもシャミと連絡が取りたくてお母さんに頼んだの!」

「お揃いにしようよ」

「良いね、賛成」


 それから数分して、あーし達は、にゃんPhone10という2つ前の機種を選んだ。

 カラーが、シャミはシルバーで、あーしはゴールド。

 あーしに言わせたら、どちらかというとシャミがゴールドだと思うのだが、シャミから「ナツメが金髪だからゴールドでしょー」と一蹴されてしまった。

 機種にカラーが決まると、契約がどうのこうのという難しい話はお母さんたちに任せて、あーし達はお店のソファーに座り、数日ぶりの会話を数時間みっちり楽しんだ。

 そして、あーし達に新品のスマホが手渡された時、それまで楽しい時間を過ごしたあーし達とは裏腹に、お母さん達は契約の長さに疲れてゲッソリしていて、あーしとシャミは素早く連絡先を交換して別れた。


 初めて扱うスマホに、メッセージアプリでのやり取りが楽しくて、帰る途中も家に帰ってからももうずっとシャミとアプリでやり取りを続けている。

 にゃーんと音が鳴って、シャミからメッセージが届いた。

「今日楽しかったね」

「楽しかった!」

 あーしもすぐさま返事を返す。

 他愛無く、意味も無い会話がもうずっと続いているが、飽きる気は全然しなかった。

 既読がついて、すぐに返事が来る。

「ところで、あーしって何?」

 そこかーい!!と心の中でツッコんでから返事を送った。

「吾輩のことだよー」

 またすぐに既読が付いた。

 ギャル界では吾輩の事を「あーし」と言うのだ。

 これは学校のパソコンでインターネットの授業があった時にリサーチした内容だから間違いはないはずだ。

 にゃーんとメッセージが届いた音がして、あーしは再びスマホに目を落とした。

「そこは吾輩で良いじゃん。変な言葉使ってると大人になってから困るよ?」

 マジかー。流石に大人になってからのことまでは考えて無かった。


―――それからこの「吾輩とあーし」の話題は夜中2時過ぎまで続き、何とかもうしばらくあーしを使い続ける許可をシャミさんから得たあーしであった。


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