表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

従者の散歩

作者: Wasanus

主と従者の平和な昼過ぎ。

何気ない彼女達の様子を切り取った、そんなお話です。

日差しは柔らかく、春風はゆったりと頬を撫でる。一面の薔薇は赤く輝き、全身を揺らして喜びを歌う。遠くにそびえる城壁は、そんな薔薇を楽しむ観覧席のように見えた。歌声を楽しみながら、私は遊歩道を歩く。太陽を讃えるような石の温もりを、厚い靴底越しに味わう。特等席で聴く歌は、とても美しい。

「ふふ、とてもいい天気ね。」

私の隣を歩くドレス姿の女性もまた、歌うようにそう言った。

「はい、正に御散歩日和でございます。」

「こんな日にはお城から出て、街や森に出てみたくなってしまうわ。」

歌うような声は大人しい人物を連想させるが、彼女は度々街や森に出てはガチョウや鶏の丸焼きを食べたり、弓を担いで鹿を追ったりする。遊び相手として幼い頃より彼女と過ごしたが、私では力不足になることも多かった。

「では、すぐに護衛隊を招集致します。」

素早く踵を返すつもりだった。

「いいの、あまり振り回しては彼等も疲れてしまうわ。」

「しかし、姫様の望みであれば――。」

彼等も喜んで、と言う前に彼女は一歩、二歩前に進んで振り返る。その微笑みはこの日差しのようだった。

「ニーサとの散歩は、それだけ楽しいのよ。」

「…光栄にございます。」

そう言う声も、軽く下げた頭も全てはいつも通りだった。だが、顔だけが自分のものではないかのように熱かった。何とか冷えるまで待ち、顔を上げると彼女はまだ微笑んでいた。この時だけは薔薇の赤さが目に刺さるくらいだった。

「ふふ、少し疲れてしまったかしら。」

「い、いえ。決してそういう訳では。」

見透かしたような口振りに、気づけば頭を下げる理由を探し始めていた。

「隠さなくてもいいのよ。丁度私もニーサの淹れたお茶を飲みたい気分だし、そろそろ帰りましょう。」

…少し勘違いをしていたようだ。さわさわと揺れる薔薇達は、どこかからかっているような気がした。

「かしこまりました。」

城に向かう道に進み、私達は再び歩き始めた。城壁に囲われた薔薇の庭。そこで敬愛する彼女と過ごす一時は、何ものにも代え難い。頭の中で紅茶に添えるお菓子を選びながら、そんなことを考えた。

最後までありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 明るく品があって素敵な文章ですね。『太陽を讃えるような石の温もりを、厚い靴底越しに味わう。』暖かい日差しが感じられて気持ちいいです。 [気になる点] 文章の強いテーマがあるのかもしれません…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ