百年の想い人
本日、ハルト様が初めて魔物を倒されました。
自分に向かってくる魔物を、たった一発の魔法で。
事前にホーンラビットの行動パターンなどをお教えしていたとはいえ、さすがとしか言いようがない完璧な一撃でした。食用になるという私の言葉も覚えていらっしゃったようで、肉に傷を与えすぎないよう魔法も工夫されていました。
ですが命を奪うという行為に対しては、やはり拒否反応があるようです。
昔の私も、そうでした……。
だからこそハルト様がご自分で魔物の解体をすると言い出した時、少し驚きました。震える手で魔物を解体し終えたハルト様を、私は全力で抱きしめてしまいました。
本当に良く、頑張りましたね。
ハルト様はきっと偉大な魔法使いになります。
命から逃げず、それを大切にできるお方ですから。
またそれとは別に、ハルト様が偉大な魔法使いになると思う理由がありました。
魔物を逃がさないように私が発動させた魔法を、ハルト様の魔法が貫通していたのです。レベル250の私が発動した魔法を、まだ五歳の彼が打ち破ったのです。
信じられませんでした。
それだけではありません。ハルト様はおそらく気付いていらっしゃいませんが実は私、訓練所の的を保護する防御魔法を日々強化し続けているのです。そうしなければ、ハルト様が訓練の際に使用する魔法に耐えられないからです。
私が訓練用の的の耐久力を日々上昇させているのに、ハルト様は毎日変わらず、的がボロボロになるまで魔法を撃ち続けます。
ハルト様はまだ、レベル1の魔法使い見習いのはず。
今日ハルト様は魔物を倒しましたが、ホーンラビット一体ではレベル3まで上がったかどうか、というところでしょう。そもそもハルト様は魔物を倒す以前から、日々強くなっていました。
レベルを上げることでステータスが上昇するこの世界において、ハルト様はまるでステータスに依存しない──ステータスなど関係ないというように、どんどん強くなっていくのです。
やはりハルト様は、彼の生まれ変わりなのでしょうか?
……いえ。そう決めつけるのは、まだ早いですね。
もし本当に彼であれば、私に何か言ってくださるでしょう。
それに、急いで答えを出す必要もありません。
だって私は──
百年も彼のことを待っていたのですから。