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狐娘と猫娘

 

 結婚披露宴を終え、イフルス魔法学園の俺達の屋敷に戻って一週間が過ぎた。


 リファに、新婚気分をもう少し味わいたいと上目遣いで懇願され、二週間は一緒に寝ると約束した。


 その結果、ローテーションしていないので、ヨウコが少し拗ねた。


 もうちょっとだけ、我慢してほしい──そんなことを告げたら、ヨウコが尻尾を具現化して俺を包み込んだ。


 もふもふに包まれる。

 柔らかい。

 肌触りも最高だ。


「ど、どうじゃ? 心地よいじゃろ。んくっ、わ、我と寝れば、んぁっ、これを朝まで好きにで、できるのじゃ。んひゃぁ!」


 ごくり。


 や、やばいよ、誘惑に負けそうだ。


 既に俺の手は、無意識にヨウコの尻尾を撫で回している。


 しかし、妻であるリファとの約束を反故にはできないので、ヨウコの尻尾はお預けだ。


 俺の意思は堅い。


「すまん、ヨウコ。リファとの約束があるんだ。あと一週間は我慢してくれ」


「あ、主殿ぉ、てっ、手が止まっておらぬのじゃ。んっ、だ、ダメじゃ! 我と寝てくれぬのなら、んぁっ、こ、これ以上はぁぁぁ!」


「あっ、尻尾消すのはダメだぞ」


 ヨウコが尻尾の具現化を解除しようとしたので、主従契約の命令を使い、強制的に具現化させたままにする。


「こ、こんなことに命令を!?」


 俺は再びヨウコの尻尾をモフる。


 まるでシルクのような肌触り。

 それでいて、揉むとほど良い弾力が指を押し返してくる。


 ずっと触っていたい。


 しかし、俺の意思は堅い。


「なんと言われても、ヨウコたちと寝るのは一週間後からだ」


「だ、だったら、んっ、我の尻尾も、んぁぁ、お、お預けじゃ、あぁっ!」


「やだ」

「──えっ!?」


「来週から、ヨウコと寝る時は朝までモフる!

 でも今は、せっかくだからもう少し堪能させてもらうよ」


 それから俺はおよそ十分間、ヨウコのもふもふを心行くまで楽しんだ。


「ふぅ」


 あー、気持ちよかった。


「も、もう、だめなのじゃぁ……」


 ヨウコが床に倒れ込み、ピクピクしている。


 やりすぎちゃったかな?


 まぁ、ヨウコも気持ち良さそうにしてくれていたから大丈夫だろう。


 とりあえず、このまま放置は可哀想なのでヨウコを抱き上げ、ヨウコの私室のベッドまで運んだ。


 あとのことはマイたちを呼んで、任せるとするか。


 俺はヨウコの私室を後にした。




 今日は学園の授業もなく、大して用事も無かったので屋敷で暇を持て余していた。


 屋敷内をフラフラ歩いていると、メイド姿のメルディがリビングの掃除をしていた。


 なかなかメイドが板についてきた。


「あっ、ハルト。おはようございますにゃ」


「メルディ、おはよ」


 メルディは猫系の獣人族だ。


 身体の外見はほとんど人族と変わらないが、頭に猫耳がピンと立っていて、尻尾がある。


 あと、手が猫の手だった。


 ちょっと気になることがあった。


「なぁ、メルディ、手を見せてもらってもいいか?」


「手? いいけど、どうするにゃ?」


 手に持っていたモップを置き、俺に手を見せてくれる。


 あった!

 肉球だ!


 それも人サイズの猫なので、かなり大きい。


 俺はメルディの手を取り、その肉球を指で押した。


 や、柔らかい。


「なっ、なにするにゃ!?」


 メルディが顔を真っ赤にして、俺からサッと手を引いた。


「ごめん、柔らかそうだったから、つい」


「つい、じゃ済まないにゃ! レディの肉球を触るなんて、な、なに考えてるにゃ!?」


 どうやらダメだったらしい。


 でも、柔らかったなぁ。

 もっかい触りたい。


 俺の中で悪魔が囁いた。


「メルディ、ティナのカレー好きだよな?」


「好きだけど……それがどうしたにゃ?」


「肉球触らせてくれるなら、今日の夕飯はカレーにするよう頼んでやるよ」


「ほ、ほんとかにゃ!?」


 メルディが前のめりで聞いてきた。

 顔が近い。


「あぁ、本当だ。あと、いっぱい食べられるように大量に作ってもらおう」


「!!!」


 その言葉でメルディが折れた。


 近くにあったソファーに座り、左手を突き出した。


「約束にゃ。今日はティナのカレーにゃ!」


「あぁ、約束だ」


 俺はメルディの左側に座り、突き出された手を包み込むように両手で持って、肉球を触り始めた。


 ふおぉぉぉお!

 し、至福ぅ。


 ヨウコの尻尾とはまた違った触感で気持ちがいい。


「んんんんっ!」


 メルディは顔を背け、嬌声を上げる。

 気持ちいいのだろうか?


 せっかくなので、少しマッサージしてあげよう。


 俺の両手の小指を、メルディの親指と小指にかけて広げるようにして持った。


 そして、親指でメルディの掌をマッサージしていく。


「んっ!? んくっ、ハ、ハルト、そ、それヤバいにゃ!」


「気持ちよくないか?」

「気持ちよすぎてヤバいにゃぁあ!」


 気持ち良いなら、いいだろ?


 そう思って俺はマッサージを続ける。


 元の世界で、俺はこのマッサージ方法をテレビで見て、翌日友達に試したら思いの外、好評だった。


 他の奴も試していたけど、俺が一番力加減が上手く、気持ちいいんだとか。


 何人も男友達の手をマッサージしていたら、それが気持ちいいらしいと噂を聞いた女子が私もやってほしいと言ってきた。


 女子の手を触るのなんて滅多に無かったが、当時の俺はそのマッサージになぜか自信を持ってしまっていたので、快く引き受けた。


 結果、女子にも大人気になった。


 休み時間になると、お菓子などと引き換えにマッサージを頼む女子が俺の前に列を成した。


 男友達は女子の視線が怖くて、教室で俺にマッサージを頼むことはなくなった。


 他クラスからも女子がマッサージ待ちの列に並ぶようになり、最終的には教室の外まで列が伸びたことで教師に問題視され、校内でのハンドマッサージは禁止するという校則が作られた。


 学校に新たな校則を作らせてしまうほど、俺のマッサージは気持ちいいのだ。


 これが俺の、密かな自慢であった。


 ちなみに、ティナとリファにも試したが、大好評だった。


 だから俺はメルディのマッサージを続ける。



「ん、んんっ、も、もうやめ──」


 そういうメルディの尻尾はピンっと真っ直ぐ伸びていた。



 持論だが、マッサージはどこをどれくらいの力で押すか、決まっているわけじゃない。


 相手の反応を見ながら、相手が気持ちいいと思う所を、相手が気持ちいいと思う強さで押すことが重要なのだ。


 メルディの反応に注目する。



 ここだ!


 メルディが気持ち良くなれるポイントを発見した。


 そこに最適な力を加える。



「────っ!?」


 メルディが声にならない悲鳴を上げて悶えた。


 そして、メルディ尻尾が大きく振れて、俺の顔をベシベシ叩いてくる。


 気持ちいいのは分かるが、ちょっと邪魔だ。



 俺はガシッとメルディの尻尾を掴んだ。


「ふにゃぁぁぁぁぁぁあ!!」

「──!?」


 メルディが叫び声を上げてソファーに倒れ込んだ。


「……えっと、大丈夫か?」


 メルディは、先程のヨウコのようにソファーに伏したまま、ピクピク痙攣している。


 や、やりすぎちゃったかな?


 とりあえず、このまま放置は可哀想なのでメルディを抱き上げ、メルディの私室のベッドまで運んだ。


 あとのことはマイたちを呼んで、任せるとするか。


 俺はメルディの私室を後にした。



 ……あれ、なんかデジャブ?


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― 新着の感想 ―
[一言] ……ハンドマッサージで大成できましたよね。
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