宝剣での対戦訓練
ティナ、リファとの結婚式披露宴まで、残り二週間となった。
イフルス魔法学園において、俺たち生徒が義務的に毎月やらなければいけないのが、他クラスとの対戦だ。
今月の対戦相手が決まった。
四年生の中で、一番上位のクラスだとか。
対戦内容だが、魔力を使わないで戦うというものになったらしい。
……ここ、魔法学園だよな?
そんな対戦方法でいいのか?
なんでも、生徒会長を倒した俺たちのクラスを相手に、魔法では勝ち目がないと思ったらしく今回の対戦方法を提案してきたという。
「大丈夫です、ハルト様なら勝てますよ!」
相変わらずティナの、俺への信頼が凄い。
まぁ、もちろん全力で勝ちに行くけど。
ちなみに、今回の対戦は三対三のバトルロイヤル形式で、相手を全滅させたクラスが勝利となる。
対戦に出るのは俺、メルディ、リューシンだ。
うちのクラスで体術や剣術が優れているメンバーが選出された。
リューシンとメルディは魔法が使えなくても、Cランクの魔物を狩れるほど体術が強い。
俺は世界屈指の剣士でもあるティナに手解きを受けてきたので、そこそこ剣も扱える。
あと、エルフ王からもらったアルヘイムの宝剣、覇国もあるので十分戦えると思っていた。
リューシン、メルディとの連携を確認するため、ティナにガーゴイルを三体作ってもらい、そいつらとの模擬戦闘をすることにした。
俺は精霊界に保管されていた覇国を手元に召喚した。
対戦当日、俺たち選手には魔封じの腕輪が取り付けられ、強制的に魔法が使えなくされるそうだ。
なので、覇国を使うのであれば対戦が始まる前から手元に用意しておかないといけない。
対戦当日、忘れないようにしなくては。
そして本場同様、魔封じの腕輪を装着して、訓練所の中央でティナ特製のガーゴイルと対峙した。
長物をもつ俺が前衛。
リューシンとメルディは後衛で、俺のサポートにまわるという布陣だ。
「準備はよろしいですか?」
「あぁ」
「いつでも大丈夫」
「いけるにゃ!」
皆、準備はいいようだ。
ちなみにメルディは語尾が「にゃ」で固定された。
やはり、それが一番楽なんだとか。
「では、始めます!」
ティナの合図で、ガーゴイルの一体が真っ直ぐこっちに向かってきた。
残りの二体は左右に分かれ、俺の視界から外れようとする。
リューシンとメルディが、その二体を牽制してくれている。
そっちはふたりに任せて大丈夫そうだ。
俺は目の前の一体に集中する。
覇国を振り上げ、袈裟懸けに斬りおろす。
俺が持つと羽根のように軽くなる覇国。
そのため、とんでもない速度で斬りかかることができた。
しかし、さすがはティナ特製のガーゴイルだ。
俺の動きを読み、その腕で覇国を受け止めようとガードした。
ティナのガーゴイルは、ガードすべき部分の硬度を変えることができる。
あっ、まずい!
ガーゴイルの腕が青みがかった金色に輝いている。
ティナ製ガーゴイルの一部がこの色になっている時、その部分はオリハルコンと同等の硬度になっているのだ。
このまま斬りつけたら覇国が折れる!
──そう思ったが、勢い付いた覇国を止めることができなかった。
ズンッ!
まるで何も当たらなかったかのように覇国がガーゴイルを通過し、訓練所の床に突き刺さった。
「えっ?」
まさか、避けられたのか!?
そう思って距離を取ろうとすると、目の前のガーゴイルの上半身が斜めに滑り落ちた。
ガードしていた金色に輝く腕も真っ二つだ。
避けられたのではなく覇国が、オリハルコンの硬度を誇るガードすらものともせず、切り裂いたのだ。
「ギギギッ」
「グガッ」
リューシンとメルディが相手していたガーゴイル二体が俺に向かってくる。
仲間を倒され怒ったようだ。
リューシンたちは、俺がガーゴイルをあっさり倒したのに驚いて、固まっていた。
「す、すまんハルト」
「そっち行ったにゃ!」
分かってる。
大丈夫。
少し驚いたが、俺は覇国の切れ味を把握した。
先ず、右から来たガーゴイルに対して、床に突き刺さった覇国を逆袈裟に切り上げる。
しかし、寸前でガーゴイルが後ろに身を引いたため、動きを止めるほどのダメージを与えるまでには至らなかった。
俺は体を捻りながら、左方向に振り上がった覇国の柄を両手で持ち、真下に振り下ろす。
左から来ていたガーゴイルが、脳天から真っ二つに斬られた。
ただ、ティナ製ガーゴイルの動力源は正中線から少しズレている。
動力源を壊さなくては、如何にバラバラにされようと直ぐに回復してしまう。
そこで、振り下ろした覇国をガーゴイルの左側に構え──
そこから一直線に左薙ぎした。
脳天から真っ二つになったガーゴイルも、身体の前面を斬りつけられたガーゴイルも両方纏めて上下に斬り裂いてやった。
無事、動力源を破壊できたようで、三体のガーゴイルは床に崩れ落ち、ピクリともしなくなった。
うん、俺は魔法無しでも十分戦える。
ただ、ちょっと物足りない感じがする。
簡単に倒せすぎた。
リューシンとメルディは、ちゃんと戦えなかったわけだし。
「ティナ、もっと強いの作ってくれない? 俺たちなら大丈夫だからさ」
ティナにもっと上位のガーゴイルを作るようにお願いしてみた。
「あ、あのハルト様。申し訳ございません、ハルト様が容易く倒された先程のガーゴイル…………あれが、私の作れる最強なんです」
あっ、そうなんだ。
それはなんか悪いことをしてしまった。
「あれ、Bランクの魔物でも単体で倒せるくらいの人造魔物なんですけど……」
「主殿は剣術も人並み外れておったのか」
「「かっこよかったです!」」
ヨウコたちが褒めてくれる。
「リューシン、この切断面を見て。一切淀みがないでしょ? 貴方もドラゴンクロウで、これをできるようにならなきゃね」
「いや、オリハルコンは無理っす」
リューシンたちが、バラバラになったガーゴイルたちを見ながら話していた。
「あの、ハルト様。覇国を使うのは良いのですが、相手の生徒さんを真っ二つにしないでくださいね」
「ああ、それは大丈夫。強度も十分そうだし、峰打ちするよ」
「両刃刀で、どうやって峰打ちするのだ?」
ヨウコにツッコまれた。
相手を気絶させると言えば『峰打ちじゃ』だと思っていた。
何となく言ってみたけど、峰打ちって日本刀みたいな片刃刀じゃないとできないらしい。
「……じゃあ、剣圧で相手を吹き飛ばす」
「斬撃が飛ぶ、その剣でか?」
魔力を込めていなくても、全力で振ると覇国から斬撃が飛んでしまうのだ。
まだ完全に覇国をコントロールできていなかった。
んー、どうしよう?
覇国がなければ、俺は並の剣士程度の力量しかない。
とにかく、覇国で相手を殺さず無力化する訓練をすることにした。
「ファイアランス!」
ティナのガーゴイルでは相手にならないので、炎の戦士を三体創り出した。
「こいつら機動力はガーゴイルほどじゃないけど、槍術はかなり強いよ。こいつらで練習しよう」
「──えっ」
「む、無理にゃ! 死ぬにゃ!」
メルディに全力で拒否された。
「大丈夫だって。危なくなったら消すからさ。それに対戦相手は魔法無しでの戦闘を求めてきてるんだ。体術とかがかなり強いのかもしれない」
そんな相手と戦うのだから、俺達3人の連携は完璧にしておきたいところ。
「やるぞー!」
「無理にゃー!!」
「やべぇ、俺……ここで死ぬのか」
叫ぶメルディと、絶望した顔のリューシンを横目に、俺は炎の戦士に攻めてくるよう指令を出した。