英雄の誕生
「ハルト様!」
アルヘイムの王城に転移すると、そこにティナが待ち構えていて、俺に抱きついてきた。相変わらず大きく柔らかいものが俺に押し付けられる。
うん、幸せ。
「ティナ、ただいま」
「おかえりなさい」
「ハルトさん、おかえりなさい。ご無事で何よりです」
リファも抱きついてきた。
「リファ、ただいま」
ふたりの妻に抱きつかれて、帰ってきたのだと実感する。
「主殿、おかえりなさいなのじゃ」
「「おかえりなさい。ハルト様」」
「ただいま!」
ヨウコとマイ、メイも俺に寄ってくる。彼女らは俺と契約していることがバレると、元大将に呼び出せと命令される可能性があったので、今回は国民の避難を手伝ってもらっていた。
「ハルトおかえり」
「あぁ、ただいま──って、おいルーク、お前の究極魔法、俺のすぐ側に落ちたぞ!!」
「あれ、そうだった? ごめんごめん。でもハルトなら、もし当たっても耐えられるだろ」
いや、当てないって打ち合わせしたよな!?
だから防御魔法使ってなかったんだけど。
もし当たってたら俺、消し炭になってたんだけど!?
そんな感じで仲間たちと会話しているとエルフ王がやってきた。
「ハルト、良くやってくれた。心より感謝する」
エルフ王に頭を下げられた。
「いえ、俺は妻の祖国を守っただけですよ。王様、頭を上げてください」
「お義父さん、と呼んでくれんか? お前とリファの結婚は我が国で正式に認められた。つまり私はハルトの義父になるのだからな」
「!!!」
「お、お父様……」
リファが恥ずかしそうに顔を赤くする。
「で、では今後、公式の場以外ではお義父さんと呼ばせていただきます」
「うむ、いい響きだ。早くハルトの両親に挨拶してくるのだ。なんだったら私が書状を書こうか?」
「いえ、それには及びません。俺は三男ですし、両親も結婚には反対しないかと」
「そうか、それはいい。この国を救った英雄として我が息子を祭り上げるのが、今から楽しみだ」
祭り上げるって……
まぁ、多くの国民から愛されてるリファを娶るのだから救国の英雄くらいにはならないといけないかな?
俺はアルヘイムの国民にリファとの結婚を祝福してもらうためにも、エルフ王の提案に乗ることにした。
演説とかしないといけないのかな?
大勢の前で話すのとか緊張するんだけど。
え、アプリストス国軍に話しかけた時?
あれはテンションが上がってたから、何とかなったんだ。
そんな感じで明日、俺を救国の英雄として祭り上げ、ティナ、リファと結婚すると国民に発表することになったとエルフ王に伝えられた。
明日!?
急過ぎない?
明日になったのは王都から退避していた国民が戻ってくるのが明日になるからとのこと。
戦争に勝利し、国を防衛できたのだから本当なら今日、国を上げて英雄を称えるべきだとの声が大臣たちから上がったらしい。
だが、称えてくれる国民が少ないのも寂しいだろうと、エルフ王が明日にさせたのだ。
──***──
というわけで俺は、転移でティナとリファを連れ、俺の実家にやってきた。
「ただいま。父上いる?」
「ハルト様、おかえりなさいませ。伯爵様は書斎にいらっしゃるはずです」
庭の掃除をしていたメイドに声をかけ、父の居場所を聞いた。
「ティナさんも、おかえりなさい。あの……こちらの方は?」
「あぁ、俺の妻になる人だ」
「初めまして、リファ=アルヘイムと言います」
「えっ!?」
「あ、私もハルト様と結婚します」
「……はい?」
メイドは、箒を持ったまま固まった。
そのメイドを放置して、俺たちは父の書斎へと向かう。
「父上、ハルトです」
「おぉ、帰ったのか。入ってこい」
父の書斎に入る。
「ティナも一緒か。そちらのお嬢さんは?」
父がティナとリファに気づいた。
「初めまして、アルヘイム王国第二王女、リファ=アルヘイムと申します」
「アルヘイム……エルフの国か。そこの王女様がなぜ、私の息子と一緒にここへ来られたのですか?」
俺はリファとティナを見る。
ふたりは小さく頷いてくれた。
「父上、俺、このふたりと結婚するよ」
「は?」
父が固まった。
「いやいやいやいや、少し待て。百歩譲ってティナは分かる。将来ハルトを夫にしたいと、昔から言っておったしな」
ティナは俺が生まれた時、昔一緒に旅をした勇者の生まれ変わりだと思い込んでいたので、世界を救った英雄の身でありながら、俺の専属メイドにしてほしいと父に頼み込んだらしい。
英雄であるティナの頼みを無碍にできず、父はそれを受け入れた。
「それより問題はリファ殿下の件だ。エルフの王女と、それもこんな美少女と結婚するなど羨まし──ひぎぃ!」
「貴方、何を言っているのですか?」
「母上!」
いつの間にか部屋に来ていた母が、父の耳を引っ張っていた。
「ハルト、ティナとそちらのリファさんと結婚するのですってね、メイドから聞きました。おめでとう、私は祝福するわ」
母は俺たちの結婚を認めてくれた。
「母上、ありがとうございます」
「ええ、息子にこんな可愛らしいお嫁さんができるなんて、私は幸せよ。ふたりとも、ハルトのことよろしくお願いしますね」
「は、はい!」
「奥様、ありがとうございます」
「ティナ、ハルトと結婚するなら今後は私のことをお義母様と呼んでくださらない?」
「は、はい、お義母様」
ティナが顔を赤くしながら母上を呼ぶ。
「うん、いい響きね」
母上はご満悦のようだ。
「あの……私もそうお呼びしても?」
「もちろん! リファさん、これからはここを貴女の家と思って、いつでも遊びに来ていいのよ」
「ありがとうございます。お義母様」
「で、では、私のことはお義父さんと──ひぃっ!」
母上が父上を鬼の形相で睨んでいた。
少し可哀想だが、俺の妻にデレデレする父上が悪いのだ。
そんなこんなで、俺の結婚報告は無事(?)に終わった。両親とも結婚を認めてくれた。
アルヘイムでの出来事を簡単に伝え、直ぐに帰らなければならないことを話す。
父は伯爵で、母もそれなりに仕事があるので明日アルヘイムで行われる結婚披露宴には参加できない。
後日、改めてグレンデールの伯爵領にて、人族式の結婚式と披露宴をすることになった。
転移でアルヘイムに帰る用意をしていると、母がティナとリファに何かを渡していた。
「これね、ハルトのお嫁さんになってくれる人に渡そうと思ってたの」
リファにはネックレスを。
ティナにはブレスレットを渡した。
「お義母様、ありがとうございます」
「ありがとうございます。大切にします」
「気をつけて帰ってね。結婚式、楽しみにしてるわ」
手を振る母に三人で手を振り返しながら、俺たちはアルヘイムへと転移した。