リファへの密命
おはようございます。リファです。
もう少し詳しく自己紹介しましょうか。エルフの国アルヘイムの第二王女、リファ=アルヘイムです。
私は昨晩、とある重大なミッションを父であるエルフ王より賜わりました。
私が魔法を学んでいるイフルス魔法学園。そこのクラスメイトであるハルトさんと、約一ヶ月以内に結婚しなければならないのです。
ハルトさんは昨日、エルフ族の英雄であるティナ様と結婚なさいました。そんな新婚ホヤホヤのハルトさんと何故私が結婚しなければならないのか──事の顛末をお話ししましょう。
──***──
昨晩、お父様と大臣たちがハルトさんとティナ様の今後について話されていました。
私はお父様に用事があって、会いに行こうとしている時、その会話を聞いてしまったのです。
「何度もいわせるな……ハルトとティナには、絶対に手を出すな」
「し、しかし王よ、あれだけの力を持つふたりを自由にさせておくわけにはいきません。我が国に敵対せぬよう、何らかの楔は必要なのです!」
「その通りです。爵位を受け取らぬというのであれば仕方ない、隷属の腕輪を使ってあの人族を縛り付けましょう。さすればティナ様も従うはずです」
「そんなことは許さん!」
た、大変です!
大臣達が暴走しています。
お父様が必死に止めようとしていますが、大臣達は皆、ハルトさんを拘束する気で居るようです。
ハルトさんと、ティナ様に伝えなきゃ!
たとえそれが、国に仇なす行為だとしても、私はふたりを助けたいのです。
大臣が言っていた隷属の腕輪とはアルヘイムに伝わる魔宝具の一つです。
この腕輪をはめられた人には強力な洗脳魔法が継続的にかけられ、腕輪をはめた者の言いなりになります。エルフは精神的な攻撃に耐性がある種族ですが、隷属の腕輪はそんなエルフにも効果があります。
それを人族のハルトさんに使用したら──
たとえ腕輪を外しても、元のハルトさんには戻れなくなってしまうかも知れません。私は、ハルトさん達のお部屋へ行こうとしました。
しかし、その時、お父様の執務室に何かが入ってきたようなのです。
「──っ!!」
「ま、まさか」
「シルフ様、何故ここに!?」
シルフ様が顕現なさったようです。大臣達が慌てている様子が部屋の外まで伝わってきました。
「ねぇ、今の話、どーゆーことかな?」
「い、今の話と言いますと?」
「ハルトに隷属の腕輪を使おうって話……本気?」
ゾワっと私のところまで冷たい殺気がやってきました。シルフ様がお怒りです。
あ、足が震えて動けません。
「し、仕方ないのです! あの者がこの国の敵になったらお終いです。何せ、唯一対抗しうる戦力であるティナが、あの者と一緒になってしまったのですから」
「ふーん、ハルトがこの国の敵になると思ってるんだ」
「可能性はできるだけ潰さなくてはなりません! 人族であるあの者が世界樹欲しさに、この国に仇なす可能性は大いにあるのですから!」
「じゃあさ、ハルトがこの国の敵になる想定をするなら、僕が敵になる想定もしなきゃね」
「「「──は?」」」
大臣達から一斉に疑問の声が上がります。
……はい?
世界樹、そして我らエルフの守り神であるシルフ様が敵に?
な、何故でしょうか!?
「ハルトは僕の契約者だからね。もしハルトを敵というなら、僕は君たちを敵とみなす」
──!?
な、なんということでしょう。
ハルトさんはシルフ様と契約を結ばれているのだと言います。
私はハルトさんが火の精霊王イフリート様、水の精霊王ウンディーネ様と契約されていることを知っています。それがシルフ様まで。
もう、凄すぎて笑ってしまいます。
私なんかがハルトさんを心配していたことが烏滸がましく感じます。
私はその後、這うようにして自室に戻りました。シルフ様の殺気で足が思うように動きませんでした。
少し、ほんのちょっとだけビックリしたので、下着を換えなければなりませんでした。
シルフ様、怖かったです。
メイドを呼んで、着替と入浴を手伝ってもらい、なんとか、ベッドに横になりました。
今日、聞いたことは全部忘れようと思います。
そして、寝ようとしたのですが──
「リファ、起きているか? 話がある」
お父様が私を訪ねていらっしゃいました。
「お父様、なんでしょうか?」
普段、クールなお父様が、酷く焦った様子で、額に汗をかいていました。
「リファ、すまぬ。ハルトの妾になってくれ!」
「………………はい?」
な、何を言っているのでしょうか!?
お父様から理由を聞きました。
私が執務室の前から去った後、シルフ様にお父様や大臣達が謝罪し続け、シルフ様のお怒りは鎮まったようです。
シルフ様はお父様達を許す代わりに、ある条件を出されました。
「この国に敵対しないように、ハルトに楔が必要とかって言ってたね。じゃそれと同じで、この国がハルト達に敵対しないように楔が要るよね。んー、とりあえず、この国の王女をハルトに嫁がせようか」
そう、シルフ様が仰られたようです。大臣達は猛反発しました。
しかし──
「嫌ならいいよ。一方的に僕の主を隷属させようとしてた罰として、今後一切世界樹の恵みはあげないから」
その言葉に大臣達は言葉を失いました。世界樹の恵みが無くなれば、アルヘイムは滅びます。
世界樹によって国は魔物から守られています。また、本来この地は瘴気が強く植物が育たないのですが、世界樹のおかげでこの地で農業をして食べ物を得られているのですから。
ですから、お父様は私をハルトさんの所にやる決断をしたそうです。
政略結婚で嫁がせられることは覚悟していました。私は第二王女ですから。自由な恋などできないものと昔から諦めていました。
ですが、ハルトさんとは魔法学園でいろいろお話ししたりしていますし、魔物から助けていただいたこともあります。少しでも知った人の所に行けるのであれば幾分、気は楽です。
ハルトさんはいい人ですし、何より私の憧れであったティナ様の旦那様です。ティナ様が正妻、私は側室になるんでしょうが、問題ありません。
ティナ様と同じ方を、旦那様にできるなんてちょっと素敵じゃないですか?
私はこの結婚話を前向きに捉えていました。
「ただ、無理やり押しかけるようなことはするなと言われている。あくまでもハルトに好かれ、そしてハルトとの絆を作れと」
ちょっとハードルが上がりました。
ですが、大丈夫だと思います。
時間をかけてハルトさんと仲良くなって、私とも結婚していただきましょう。私はアルヘイム王国第二王女のリファ=アルヘイムです。
男性を籠絡する術も学びました。
実戦経験は……その、ないのですけど。
「国のためです。お任せください」
「おぉ、我が娘リファよ、感謝する。ちなみにお前達がこの国に滞在している間に結婚しろとのシルフ様のご命令だ」
「えっ?」
「あと、実は昨日ハルトにリファを妾にどうかと言ったが断られてしまってな。なかなか大変だと思うが、なんとか頑張ってほしい」
「な、何をしてるのですか!?」
どうしましょう。
時間がありません。
それに私の知らないところで、実は私、ハルトさんにフラれていたみたいです。
軽く精神的なダメージを受けました。